嘘を持ち帰った男

天使猫茶/もぐてぃあす

最初の大罪

 知的生命体の存在する他の星へと向かい、そして戻ってくるという英雄的な行いをしたその男は、前例のない、極めて大きな罪を犯したことにより裁判にかけられていた。


 誰も想像すらしたこともなかったその罪の詳細を聞いたある者は怯え、ある者は男を罪悪の化身と罵り、ある者はなぜ自分はその罪に思い至らなかったのかと内心舌を巻いていた。


 裁判長は重々しい口調で男に尋ねる。


「なぜ時間と空間の果てへと向かうような過酷な旅をやり遂げた、現代の英雄とでも称すべきほどの偉業を成し遂げたお前ほどの男が、こんな、知るだけで人を堕落させるような罪を働いたのだ?」


 男はたっぷりと時間をかけて自分の考えをまとめると、英雄に相応しい落ち着いた口調で答えた。

 その口元には、元来この星には存在しなかったはずの感情を乗せた微笑が浮かんでいる。


「原住民たちが地球と呼ぶあの星で当たり前のように行われる、言葉を弄して真実とは違うことを人に伝えるという行為を、自分で行ってみたかったからです。原住民たちはあの行為を、ウソ、と呼んでいました」


 あっちの空に虹が見えるぞ。

 地球では「意地の悪い」と言われる表情を浮かべた男が口にしたそんな取るに足らない言葉こそが、この星の最初の嘘だった。



 噓を知らない彼らの純真な星が、噓だらけの星に変わってしまうまでに、そう時間はかからなかった。

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