第5話 運命の出会い
――――――
――吹雪が吹き荒れる真夜中に、ぼくは どこからか聞こえる声に導かれるように、森の奥に進んで行きました。
「――あれはっ!」
雪原でうつぶせで倒れている少女を見つけ、かけ寄って起こすと、彼女はぼんやりとさせた瞳で……。
「……ゆき、だるまさん……? やったぁ……本当にいたんだぁ……」
ぼくの顔を愛おしそうに撫で回しました。
「いま、魔女様のところに連れて行く。魔女様ならきっとなんとかしてくれる。それまで耐えるんだ」
彼女を背負ってぼくは、あなたがいるスクールに向かいました。
「ハァ、ハァ……。わたしね、ゆきだるまさん……」
――――――――――
「――あなたのところに向かう間、ぼくは彼女と色々な話しをしました……」
「…………」
魔女は椅子に深く座り、真剣な表情で、自分が造ったゆきだるまの話しを聞いていた。
「……彼女には、双子の兄がいました。一緒に【モンスタートランプで世界一】になろうと夢を誓いあった……」
ゆきおは暗くうつむき――。
「――でも、学校の帰り道……。彼女とお兄さんは『雪崩』に襲われ、それからかばってお兄さんは……。彼女は 死んでしまった お兄さんを生き返らせるために、あなたに会いに来たんです。ゆきだるまに命を与える あなたを噂を聞いて、あなたなら もしかしたらと……」
「……ここの結界は、純粋な心も持つ子供なら通れるかもしれないわね……。けど、わたしには……」
「わかってます。魔女様にそんな事はできないと。できたとしても、ぼくたちのように、あなたの分身にしかならないと……」
魔女はつらそうに まぶたを閉じた。
「……兄は妹のために……妹は兄のために……悲しいな……。すまない、わたしのせいで……」
話しの結末を悟り頭を下げた。
「……魔女様のせいじゃないですよ……」
――きっと、ぼくのせいですよ――
ゆきおは小さく囁いた。
「……吹雪の中、彼女を背負って歩き続けました……。彼女の命が尽きていくのを、背中で感じながら………」
――――――。
「……ゆきだるまさんの背中、とっても冷たいね……」
「ごめん……ぼくは……」
あのときほど、自分がゆきだるまだという事を呪ったことはありませんでした。
「……謝らなくていいよ……。わたしは、ゆきだるまさんのおかげで救われたんだよ……。最期に、ゆきだるまさんに会えてよかった……」
背負う彼女の体温がどんどんと失われていき――。
「……ゆきだるまさん……。わたしのお願い聞いてくれる……?」
ぼくの冷たい身体に ぎゅっとくっつき――。
「わたしのために泣かないでね……」
優しく頬笑み、ぼくを暖かく抱きしめました。
そのとき、ぼくは初めて『熱い感情』というものを知りました。
「わかった、泣かないよぉ……。君を絶対に救ってみせる――だから――」
「……………」
彼女の魂は もうここにはいない。
もう彼女とは話せない。もう彼女に撫でてもらえない。もう笑え合えない。もうぎゅっと抱きしめてもらえない。そう思うと、涙がどんどんあふれてきました。
「 うわああああああああああああああ! 」
―――――――――
「――そのとき、悲しみとともに、彼女の優しい心に触れて芽生えた……この、ほんの少しの熱さを……。ぼくはこの気持ちを消したくないから、ずっと熱いゆきだるまを演じ続けていたのかもしれません……」
「それが人間になりたい理由か? 救えなかったことへの懺悔……」
ゆきおは笑顔で首を振った。
「違います。彼女と約束したんです。泣かないでって。悲しまないでって。だからぼくが人間になりたいのは、ただ人間に憧れただけです。 そしてぼくを変えてくれた彼女への……いえ、彼女と、彼女を救ったお兄さんへの恩返しです。 2人の夢を叶えてあげたい――。これがぼくが人間になりたい理由です……」
話し終えたゆきおの身体が ぱぁーっと光輝き、目の前に1枚のカードが現れた。
戸惑いながらも ゆきおは、カード名を読み上げる。
「――『ゆきだるまの魂の廻廊』――」
口伝とともに呪文が発動されると、フィールドに召喚されている『ゆきだるまん』も同じように光輝き、白髭のサンタクロースに姿を変えた。
そして光輝くゆきおの身体も、女性型に変化していく。
「こ、これは……?」
指先から足先まで、自分の変化した身体をまじまじと見回した。
長い白い髪に、10代半ばほどの少女の姿であった。
「……これは……魔女様が?」
我が子を誇らしく思うように微笑んだ。
「いいえ、違うわ。キミ自身が至ったのよ。キミが守り続けていた、その『心の灯火』がキミを変えたのよ……」
その瞬間、炎に包まれた灼熱の世界が、氷の世界に変わった。
ゆきおは、氷塊に映る『自分の姿』を視る。
「………似ている………。どことなく彼女に………。それに感じる………。あなたにもらった魂の他に、もうひとつの魂を………」
涙を浮かべ、愛しい者を慈しむように、身体をぎゅっと抱きしめた。
「……もしかしたらキミに、彼女の魂が宿ったのかもしれないわね。今日はクリスマス。そしてわたしはサンタクロースの姉、サンタクローヌ。こんな奇跡が起きても不思議ではないわ」
涙をポロポロと流すゆきおに、魔女は優しく微笑みかける。
「さあ、終わらせましょう。キミには叶えたい、もうひとつの夢があるのでしょ? こんなところで立ち止まっている場合ではないわ。ぶつけなさい、キミの熱い思いを……」
「はい!」
ゆきおはフィールドにいるサンタクロースに願いを込める。
「サンタクロース、攻撃――っ! サンタクロースは経過ターンに応じて、相手にダメージあたえる。 経過ターン数は『25』。 よって……25ポイントのダメージを、あなたにあたえます!」
白髭のおじいさんは そりに乗り、空飛ぶトナカイ達とともに天高く駆け上がっていく。
「 プレゼント・フォーエバー! 」
キラキラ光輝くたくさんのプレゼントを地上に配った。
夜空を、満天の慧光が包み込み―――。
「……わたしの負けね……」
魔女サンタクローヌとの勝負が決着した。
「ありがとうございました!」
全力で頭を下げてゆきおは、校長室の扉を開けた。
「これから人間界に行くのね?」
母親であり、この学校の校長でもある魔女からの問いかけに、ゆきおは満面の笑顔で。
「はい、兄妹の夢を叶えます! いえ、ぼくと兄妹の、3人の夢を叶えます! モンスタートランプの世界チャンピオンに、ぼくはなります!」
――雪が永遠に降り続けるスノーワールド――。
冷たい心と身体を持つ ゆきだるま達の世界。
そこから、空飛ぶトナカイが牽引する そりに乗って、白髭のおじいさんと、人間になったゆきだるまが夜空に向かって飛び立っていった。
ゆきだるまが今熱い 佐藤ゆう @coco7
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