D+6d Last Letter(第9話)
三人はホテルのフロントロビーに戻ってチェックインし、葉月からの手紙を裕也が受け取った。三人は、一つの部屋に入って、荷物を適当に置いた後、窓際の三人が並んで座れるソファに、また、綾を真ん中にして座った。裕也が封筒を開け、便箋を出して広げた。
「俺が読むよ。」裕也がそう言って、声に出して手紙を読み始めた。
「裕也さん、拓磨さん、そして、綾。
これは、私の夢です。
そして、最後の手紙です。
みんな、このホテルのこと、どう思いましたか。素晴らしい街にある素晴らしいホテルだと思ったでしょ。ゆったり流れる川、その向こうに見える街並み、そこで暮らす人たち。庭は心を込めて手入れしてあって、そんな全ての景色を部屋から眺めていると、自分の周りにある世界は、こんなにも美しかったんだと気付いて、私は、なぜだか、深く安堵しました。
このホテルはきっと、ここを訪れるお客さんも、ここで働く人たちも、幸せに出来る場所です。だから、私は、この素晴らしいホテルの事業を引き受けようと思いました、裕也さん、拓磨さん、綾、そして私、この四人で。この四人で、このホテルをやっていこうと。
驚いた?でも、私は本気です。私たちはお互いにとても分かり合っている四人です。裕也さんは収支と営業を担ってください。私が信頼するあなたは、このホテルの要です。私を支えてください。拓磨さん、あなたは企画です。世の中に響く、ホテルのあり方を考えてください。あなたの発想は宝です。綾、あなたは接遇をマネジメントしてください。あなたの人を思う気持ち、素直さに、私は心を洗われていたのです。私は、意地悪くて、ずるくて、嘘つきで、どうしようもない女です。でも、あなたたち、みんなといれば、私はそうならずに済みそうです。みんなといれば。
私が意地悪をしたら、仕返しをしてください。ずるいことをしたら、叱ってください。嘘をついたら、暴いてください。そうすれば私は、今までにいっぱい纏ってしまったものを全て脱ぎ捨てる事が出来そうな気がします。そうしたら、みんな毎日、笑顔で楽しく暮らしていけるでしょ?だから、みんなできるだけ早く、今の仕事を整理してください。いつから、ここに来れますか。待っていますよ。
これは、私の夢です。どうしようもなく青臭い夢です。
分かっています。こうはなりません。それは、私の犯した罪が大きく深すぎるからです。私は、自分の思うままに生きてきました。自分の描いた道を歩いてきました。でも、こうなるのをその報いとも思っていません。全ては私が決めたことだからです。
でも、こうは思います。私がいなければ、裕也さん、拓磨さん、綾が私に会わなければ、あなたたちはどうなっていたのかと。もし、それが幸せというものだったとしたら、私は罪深いです。赦される余地もありません。それは分かっています。だから、私は消えて、二度とあなたたちに会いません。赦されないことは分かっています。でも、もし出来るなら、私のことを忘れてください。
本当に、ごめんなさい。
さようなら。」
裕也は手紙を持った震える手を、コトンと音を立てて、テーブルの上に落とした。裕也と拓磨は葉月が死を選んだことを疑わなかった。二人は溢れる涙をこらえることができなかった。拭っても拭っても涙は止まらなかった。その間、綾は、窓の外を見ていた。川の流れ、そこに遊ぶ水鳥、川沿いの町屋の通りを歩く人、紅葉のある庭を見ていた。暫くして、綾は、視線はそのままに、裕也と拓磨の手に自分の掌を乗せた。二人はその温かさにはっとした。裕也と拓磨が見た横顔の綾の目には、薄っすらと涙が滲んでいた。
オレンジ色の車で(金色の虹彩 最終章) 柚木平 亮 @shunsukeH
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます