タコに喰われる
N 有機
たこ焼き条約
人類はもうじき滅ぶだろう。これは確定したと言ってよい。すでに世界人口はペストの流行った時代を下回る程にまで減った。何があったのか?それはこの映像を見ればわかるだろう。
『速報です!!巨大なタコが街中を暴れて壊しています!!民間人は避難し―』
たった数秒の映像に巨大なタコ、そしてそれが驚異的な力と共に街をぶっ壊している映像が流れていた。
日本のみならず、世界中でこの惨事が起こり人々は死に悶える恐怖から逃げるべく地下深くへと逃げ込んだ。
もう人類はもとの生活などできない、そう思うしかなかったのだ。
「おい!!もう食べ物が......」
「え!?それじゃあ、私たちはこれからどうすれば......」
「はぁぁ!?ふざっけんなよ!!これじゃ全員飢えて死ぬってことか!?」
「ママーおなかすいた......」
「けいちゃんだいじょうぶだよ......うぅ」
底の尽いた食料、寒く寂しい鉄筋コンクリートのこの空間、人々は涙を流し、そして気持ちを保つことなどできるはずがなかった。
「お前!!何か隠くしてんじゃねえよな?」
「何も持っていませんよ!!」
「嘘だな、隠してるの見せないとこうだからな!!」
「ウッ!グハァ......」
腹部に拳をねじ込まれた男は胃酸を口から吐き出し、その場に倒れる。
その様子を見た後、殴った輩は恐れおののき座り込む人々を見てこう言う。
「お前らもだからな!!食料隠していたら俺に渡せ、わかっているよな!!」
「くっ!!仕方ないがオレの最後の食料、お前に渡してやる」
そう言って民衆の中、ある男が立ち上がる。長身で肩幅の広い男であった。運動靴とコンクリが擦れ合う音が響き渡る。
「ふっ、ずいぶんと生き生きとした顔だな!!相当なもの隠してんだろ?見せてみろよ」
「ほらよ、でもしっかり味わって食えよ」
「......え?コンクリ?」
男が渡したのはまさしくコンクリであった。常識を持つまともな人たちはこう思うだろう、食べ物ではないと。
「お前!!これのどこが食べ物なんだ?」
「え?どっからどう見ても食べ物だろ?」
「コンクリを食う馬鹿がどこにいるんだよ」
「まあ、そんなこと言わずにさ」
「ウグッ!!」
無理やり口に押し込まれたコンクリを吐き出そうとするが相手の力に抵抗できない。
『このまま俺は死ぬのか......ってうまいぞ」
あまりにも異常な経験に理解が追いつかず唖然としている。
『コンクリのごつごつとした塩加減がコンクリ本体を際立たしている、そしてなぜかコンクリが柔らかい!!』
※実際には食べられないので食べようとしないで下さい。
本編にもどるが、食べられる上に美味しいということに驚く。その顔を見てもう一人の男が笑う。
「ふっはっは、どうだ?美味しいだろう」
「おまえ、何者だ?」
「オレか?」
男はまるでいつもしていることをするかのように謎のポーズを決め、キメ顔をする。
「俺は
その名前を聞いて人々は大きな驚きを見せる。
「まじかよ!!あの!?」
「高校生から日本フードファイター大会を一度も負けずに現在二十連覇、日本のみならず世界大会でも七連覇を達成したあの!?」
「ジャングルに飛び込んではワニと戦って飯に変え、海中の生きた鯨を十秒で竜田揚げにするあの!?」
「なんなら廃墟の高層ビルを食べる動画がバズりしかも完食したあの!?」
まじで何者なんだこいつは......という感情が襲ってくるはずが人々は別の意味でその何者を見ている。
「飯島っていうのか......俺は
「そうか、よろしくな荒川」
二人は握手をする。先程の異常さを感じられないほど誠実な態度であった。
「ところで何でコンクリが食えるんだ?」
「それはな、こうやるんだよ!」
そう言って飯島は突然壁を殴る。突然の行為に驚き、制止しようとしたが時はすでに遅かった。
「コンクリ適量を手に入れたらな、チョップするんだよ」
そう言ってチョップをする。だが何も変化はなくただただチョップしただけだった。
「なにも起きていないじゃねえかよ」
「外から見たらそうかもな、でも実際は内側が粉々になっているんだよ」
何を言っているんだ?こいつは、と荒川は思う。
「まさか、あれは内側を壊して、崩れないように最低限の一ミリは残して外からの違和感を発生させない技術とでもいうのか!?」
端で見ていたおじさんが全てを理解したかのように呟く。
「そういうことだ、そしてこのチョップで全ての人体へ害のある物質を無力化しているんだ」
「もうよくわからないからいいよ、その話」
「うむ」
これにより、食料問題が解決し無事終わりというわけではない。この飯島はとある好奇心からこんなことを口に出した。
「なあ、荒川」
「ん?なんだ飯島」
「タコってどんな味なんだ?」
「あーあれは......はぁ?」
もう何を言っているんだコイツは、と作者も思う。この世界ではタコは食べられるものという認識がそもそもない。
あまりに馬鹿な発言に荒川は笑うことなどできず、ただ止めるような発言しかできなかった。
「そんなこと考えるなよ、タコなんてあんなヤバい見た目してんだぞ、俺はやめろとしか言えない」
「でも思うんだオレは、まだ食ったことのない生物、その味が気になると本能から叫んでいる!」
そう言って梯子を駆け上がる。荒川は反射的になにか言うしかなかった。
「おい、どこに行く気だ?」
「オレは外に行く、そしてアイツらの味を知りに行くぜ!!」
荒川は思う、なんて無謀な行為なのだと。巨大化したタコを殺すことでさえ無謀なことだ。しかもそいつを食べるなど考えるなんてあってはならないことだ。
「頑張って!!飯島さーん!!」
「わしらの飯島全太、期待してるぞ!!」
「みんな!!」
人々の応援のエールが耳に届き、飯島は涙を流す、ついでに唾液も垂らす。
「オレ、頑張ってくるよ!!!!」
そう言って飯島は梯子を登り外に出ていった。
行ってしまったな、と荒川は虚無と余韻に襲われる。
□ □ □
長い長い梯子を登り終え、マンホールをこじ開ける。その瞬間、強烈な磯臭さとヌメリが襲う。
「地上も変わったなー」
なにかに耽るようにそう言い放つ。瓦礫の山、大きなタコがいっぱい居る。そして少し遠くに珊瑚でできた謎の城がある。あれがタコの王が居る場所なのだと悟る。ちょうど大阪だ。
ブンッ!!
「おっと、気性の荒いやつだな」
タコの触手がこちらに襲いかかる。だがそれをいとも簡単に避ける。
「少しは楽しませてくれそうだな!!」
次々と来る触手を避けながら飯島はチョップする。すると触手はぶったぎられ大きな音と共に落ちる。
「まずは焼いてみるか!」
掌を擦り合わせて灼熱の弾を生み出す。そしてそれを触手に食らわせる。カリッとした仕上げに頬っぺたが落ちそうだ。
「うまい、うまいぞ、なんて素晴らしい!!もっともっと食わせてくれ!!」
攻撃を全ていなして料理へと変える。片手に料理、他で攻撃を行う。完全に最適化された攻撃にタコたちは無力であった。
茹でられ、揚げられ、生で食われ、どこから出てきたか分からないビールと共に味わわれていた。
「うめえ、こんなの初めてだ。フードファイター人生、これのためにあったのか。それにしてもこれ、どうすっかな」
飯島は触手一つを片手に持っていた。理由は簡単、どうやって食べるべきなのか分からなかったからだ。
「とりあえず、タコの王をぶっ倒すか」
□ □ □
珊瑚礁で作られた建物につき、扉を開く。そこには海藻で作られた冠をつけた、いかにも王ですという感じのタコがいた。
「ふっはっはっはー人間がここに来るとはなんのようだ」
「貴様は何ものだ!!」
「我か?我はオクト・バー・パス」
十月とタコの英語を混ぜたかのような名前を告げられる。
「貴様はなぜ地上に来た!!」
「理由か?それは人間、そして世界を支配するためだ。どうやらお前ら人間は我らタコを嫌っているらしいな、これが好都合だと思ったから侵略したのだよ」
「そんなことはさせない、この飯島全太が絶対にお前らをぶっ倒す!!」
その言葉を聞いて、タコが嘲笑う。まるでイカ墨のように、どす黒い声であった。
「ぐはははは!!!笑わせてくれるな、じゃあかかってこいよ」
タコの王が触手を男に振りかざそうとしたとき、掌を前に掲げられる。まるで待ってとでも言いたげな感じだ。
「待て、熱!!」
「お前、さっきから何をしている」
「よかったー運良く卵持ってて」
「お、お前!!なんだその液体は!!」
王はその液体を見て何かの技なのかと思う。そしてそれは鉄の窪んだ板に流しこまれる。
「後はこれだな」
「お前!!それは!!!!」
男が持っていたのはタコの触手であった。あの形に見覚えがあるらしく王は触手が液体に浸かる瞬間リミッターが外れる
「コンゾーー!!!!」
コンゾウという名を叫ぶが男の行動は止まらない。何かの棒を持ってそれを突っつく。
「こうやって突っつけば言い感じになりそうだな」
「やめろ、やめてくれ......ウッ」
王は仲間の処刑される姿を見て吐き気がする。その残酷な姿、そして人類の恐ろしさを目に焼き付ける。
「んーいい感じだな、パクッ」
「食べ、た......だと」
「あれ?食べるか?美味しいぞ」
人間のその悪魔でサイコパスな問いかけにたいしてタコの王はこう思う。
『これが人類の言う食テロだったのか!!恐ろしい!!!!』
感じたことのない恐怖体験に八本の足が震え、生命としての危険を感じる。
「わかった、わかったからやめてくれ、我らは海に帰るだから見逃してくれ!!」
「ムシャムシャ、ん?いいよ」
このようにしてタコと人類は『たこ焼き条約』を結び、そして世界は平和になり、現在のたこ焼きができたのであった。
※違います。
□おしまい
タコに喰われる N 有機 @nyouik_251
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます