第13話 こんにちは、南の勇者様
「いやあ、やっぱりタコ焼きは美味えなぁ」
「はふはふっ!」
「火傷すんぞー。ほれ、コーラ」
「あちあちだぞ!」
「ゆっくり食えばいいんだよ」
海賊と別れたあと、孝太たちは大陸の北側へ到達していた。道中、小高い丘を見つけ、ピクニックがてら、たこ焼きパーティーをしている。
じゅうじゅうと焼ける生地、ソースの甘い香りは否応なく腹を鳴らし、たこ焼きを口へ運ぶ手を止めさせない。
「パパ、まよねーず!」
「うし。俺の特製辛子マヨネーズをつけてやろう」
孝太は意地悪な顔をし、ニヤつきながら辛子マヨネーズを塗っていく。青のりをふりかけて手渡そうとするが、ルミは全力で首を左右に振った。
「いーやーだー!」
「……なら、私が頂こうか」
「はいよー。辛子マヨネーズタコ焼き一丁……で? あんた誰?」
「ん? 通りすがりの者だ。いい匂いにつられてしまって」
横からヒョイっとたこ焼きを受け取ったのは、青い鎧を着た銀髪の女だった。
猫のような瞳は、蒼眼で美しく、腰に携えた煌びやかな剣が彼女の身分を語る。
「……私は、南の勇者と呼ばれている騎士、ミレイア・ハングーバだ。はふはふっ!」
「さいですか。ほれ、水だ」
「すまない。感謝する。少し辛いが、美味しいな」
「そりゃ、よかった」
孝太はもはや驚きもしなかった。食事をしていると、見知らぬ誰かに絡まれることにすっかり慣れてしまって、当たり前のように受け入れる。
「パパ、あまいたこやきつくって!」
「そうだなあ。ソースにも飽きたし。ちょっと待ってろ」
孝太は軽バンヘ行き、冷蔵庫からカットしたフルーツと、チョコレートソースを持ち出した。
ミレイアはたこ焼きを食べ終えて、この二人はなぜこんなところで食事をしているのだろうか、と疑問を抱く。
このあたりに町はないし、冒険者や旅人でもなければ立ち寄ることもないだろう。
目の前にいる親子は、武器も持たず、鎧も身につけず、呑気に腹を満たしている。
とうてい、それらの類には見えなかった。
「あなたたちは、何者だ?」
二人が内包している魔力はゼロに近い。そこらの草花の方がよほど魔力を蓄えている。
だからこそ、こんな目立つ場所でのほほんとしていても、魔物が襲ってこないのだろう。
ミレイアは興味津々にルミの隣へ座り、焼き上がっていくデザートたこ焼きを見つめながら訊ねた。
「ただのコーヒー屋だよ。あ、そうだ。焼けたらひっくり返しててくれるか? コーヒー淹れてくるわ」
「ルミ、できるぞ!」
「ルミは火傷するからダメ」
「むーーっ!!」
孝太は再度軽バンヘ戻り、コーヒーを淹れ始める。残されたミレイアは、戸惑いながら言われた通り、キリを使ってたこ焼きを返していく。
「おねえちゃん、じょうず!」
「そ、そうか?」
「あ、そっち! こげちゃう!」
「わ、わかった」
遠目からその様子を見ていた孝太は、ふっと頬を緩め、ルミに姉がいたならばあんな風に過ごすこともあっただろうなと思った。
「お待たせ。今日はフラペチーノだ。甘さは控えてあるから、それとよく合うだろ」
「わーい! つめたいやつ!」
「ふ、ふらぺちーの?」
「ま、飲んでみろよ」
デザートたこ焼きを皿へ取り上げて、仕上げにチョコソースをかけながら、孝太はミレイアへフラペチーノをすすめた。
ミレイアは喉を鳴らし、目前の冷たい飲み物を口にする。
コーヒー、ミルク、氷、砂糖がミキサーされたそれは、口の中でしゃりしゃりとした食感と、甘さとほろ苦さが調和した。
デザートたこ焼きを口へ運び咀嚼すれば、チョコレートソースとフルーツの甘酸っぱさが広がって、ふたたびフラペチーノを求めさせた。
「お、美味しい……」
「だろ? 今日のは特に良くできたんだぜ」
「パパ、おいしいぞ!」
「じゃあ、俺は一服してくるわ」
孝太はフラペチーノを持ち、二人から少し離れた風下へ移動して、タバコに火をつけた。
小高い丘から見渡すと、遠くに森や砂漠が見える。
「砂漠かぁ……暑そうだなぁ」
ぷかぁ、と息を吐き、これから向かう先をぼんやりと煙の先に見ていた。
「あなたちは、これからどこへ行くのだ?」
「んー、てきとうだぞ!」
「適当って……」
「ママのくるま、むてきだから!」
「くるまって、あの白い箱のことか?」
「そうだぞ! むてきのけいばんだぞ!」
「へー……」
ーーよくわからないけど、魔道具みたいなものかしら?
ミレイアは軽バンをじっと見て、胸の内で呟いた。
もしあれが本当に無敵の何かであるとするならば、これから砂漠を越えようと思っていた自分には都合が良い。
どうにかして、あれに乗せてもらえないかと彼女は考えていた。
「おまたせー。じゃ、そろそろ行くか。ルミ」
「うん!」
孝太はガスコンロとたこ焼き器、テーブルなどを片付けだし、ミレイアは慌てた。
「な、なあ。お願いがあるんだが」
「んー? なに? フラペチーノのおかわり?」
「それはありがたい……ではなくて、その……」
「あー……なるほど」
軽バンへ移る視線で、孝太は察した。
おそらく、ルミが軽バンを自慢し、ミレイアが乗ってみたくなったのだろう、と。
「どこまで行くかは知らんが、乗っていくか?」
「おお! 助かる! 砂漠の途中まででよいのだ」
「なんかあるのか?」
「そこに……囚われた私の仲間たちがいる」
「まじかー……」
こりゃ面倒なことになりそうだな、と孝太は頬を掻いた。ともあれ、一度引き受けてしまったからには、今更断れない。
「パパ! しゅっぱつするぞ!」
いちはやく軽バンヘ乗り込んだルミは、孝太とミレイアへ手招きをした。
「しゃーねー。乗りかかった船だ。行くか」
「ありがとう! この恩は忘れない」
ミレイアを後ろへ乗せ、孝太は運転席に座り、エンジンをかけてアクセルを踏み込んだ。
軽バンは勢いよく走り出す。
砂漠に囚われたミレイアの仲間を救うために。
無敵の移動販売車で行く、ゆるふわ異世界親子旅 〜あ、どうも。コーヒー屋です〜 タカべ @takabe-tata
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