イラストを観て即興でSS・『冬の訪れ』

夢美瑠瑠

第1話


  SS「冬の訪れ」


 「冬が来た」という、「智恵子抄」の詩人の美しい抒情詩がある。

 冬の厳しさと、おのれの理想とする、孤高で峻厳な自我の境地、それを重ね合わせて、間然するところのない、きっぱりと澄み渡った、彫琢された玲瓏な塑像のごとき、高村ワールドの典型で、究極の完成形…


 そのことを、想いつつ、ひとつの幻想的な物語を、オレは幻視していた。


 『冬の帝王・北欧神話のオーディン神の、シヴァは愛人であった。

 

  言うまでもなく、シヴァは氷の女王。

 世界の中心に、孤独に聳え立つ”水晶の宮殿”のあるじだった。


 このどこでもない偏奇なファンタジー世界…これは、ある狂人のイマジネーションの暴走から生まれた、架空世界。


 その狂人は、途轍もない精神エネルギーを胚胎し、それゆえに多くの存在のサイコエナジーをも吸収集約する超常能力を具備していた。…それはある宗教団体の教祖で、もう死んだが、その妄想の幻想世界は、狂信者ゆえの超絶的な影響力、神通力…そのほかの要因が相まって、”異世界中の異世界”となった。

 いわば”極北のファンタージェン”…それは、虚数次元の不可知の座標上にぽっかりと異様な存在感を発揮しつつ、黒い嵐の如くに不気味に浮かんでいたのだ。

… …


オーディン神の正妻は春の守護神・ヘレナだった。


恋敵のシヴァとヘレナは、当然の如く不仲で、神事やセレモニーのたびにいざこざやニアミスが宮廷周辺のマスコミで話題になった。


「冬来りなば春遠からじ」と、シェリーの詩にあるが、

結ばれた際に繰り広げられた、熱烈な恋愛沙汰が語り草になっているオーディン神とヘレナ神のロマンシング.マリッジ…


そのクライマックスは、母親を誘拐毒殺されて、激怒したオーディン神が世界を永遠に雪と氷に閉じ込めてしまおうとした時に、ヘレナ神がオーディンの荒んだ心の厳寒、つまり「冬」に対峙し、氷解融解させる、美しい花や明るい陽光に満ち溢れた「春」というもの、その観念を創造し、現出させる、そのくだりである。


……


氷のように冷酷で、蛇の如く暗鬱なシヴァ神には、その記憶ゆえに固い絆で結ばれているらしいふたりに対する嫉妬ゆえに、美しい自然の花や緑、すべてが再生して輝かしい生命の「萌えいずる」、春というものまでもが、蛇蝎のごとくに憎悪の対象となった

……


あの二人の仲を裂きたい、裂いてやる…!

もう春などというものが、二度と私たちを結びつけている峻厳で清冽で、何ものをも寄せ付けない強さを本質とする、冬と雪と氷の世界の、オーディンさまと私の瑠璃色の蜜月を、邪魔しないようにすべてを冬の中に閉じ込めてくれる!!


高らかに、シヴァ神は、「冬よ…来たれ!  コレゴル、ディアベル、アメット!」

と、水晶の魔法の杖を一閃して、禁断の呪文を呼ばわった!!


…激しい雷鳴が轟き、荒天が真っ白な雪つぶを群舞させ始めた。やがて、すべてが雪嵐に降り込められ、「white out」が訪れた。


……極北のファンタージエンは、永遠の「氷河期」になってしまったのだった。


「𝑶𝑾𝑨𝑹𝑰____」


https://kakuyomu.jp/users/joeyasushi/news/822139839461640836


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