第46話 大騒ぎになっていた



 翌日、祭典の終会式があった。僕も出席しなければならなかった。


 補助金や寄付金を得るため、祭典では最低限のアピールが必要だった。はたして僕はきちんとやれただろうか。


 この終会式は表彰式も兼ねており、その表彰が始まった。


 まずは魔法バトル部門――。


 この部門の競技では、僕は波動弾をなかなか発射できないでいた。やっと発射できても、相手に当てたのはバトル終了後だった。それでも引き分けに持ち込んだ。参加者たちが次々と敗北する中での大健闘だったと思う。


 しかし、この部門で受賞したのは別の人だった。


 次に魔法制御部門――。


 僕は見事に魔焔塊の火を抑えてみせたはずだ。しかし火を消すという行為は、認められなかったようだ。


 この部門も別の人が受賞した。


 最後は魔法芸術部門――。


 ほんの一瞬だったけど、僕の残影魔法はたくさんの人々を魅了したようだ。バモイによれば、この部門は僕が受賞してしまうかもしれないのだとか。


 まもなく結果が発表される。


 隣に座っているレナーシャが横目を向けてきた。


「なに硬くなってるのよ。名前呼ばれると思ってるの?」


「思ってないさ。僕のは一瞬だけだったし」


「わかってるじゃない。一瞬で終わったわね」


 発表があった。


 結局、僕の名前が呼ばれることはなかった。



 続いて三部門を通しての最優秀者一名と、優秀者三名の発表があった。


 やはり僕が選ばれることはなかった。


 そして――。


「ええ。例年ですと表彰はここまでですが、今回、特別審査員賞がございます」


 あれっ、どういうこと?

 呼ばれた名前は、まさかの僕だった。


 きょとんとしていると、隣から肘で小突かれた。


「聞こえなかったの? あなたの名前でしょ」


 レナーシャが笑顔を向けていた。

 むしろそっちに驚いた。


「うん、わかってる……」


「ほらほら、背筋伸ばして! 胸張って! それから、おめでとう」


「あっ、ありが……ありがとう」


 僕は壇上へとのぼっていった。




 数日後、学園に戻った。


 僕が受賞したことは、すでに知れ渡っていた。

 この快挙に学園内は大騒ぎだった。


 だけどいいのだろうか。祭典の主催者は、僕を生徒だと信じたままだ。本当は職員なのに。


 それについては、理事長も学園長も教頭もぜんぜん気にしてない様子だ。補助金や寄付金がたくさん手に入れば、なんでもいいのかもしれない。まったくエーラ並みにクズな人たちだな。


 学園のお偉いさんたちへの挨拶を終えてから、用務員室に向かった。


 途中、多くの生徒たちに囲まれた。


 どいてくれないかな。邪魔なんだけど。

 人混みをかき分け、強引に進む。


 一方、同様に人混みをかき分け、強引に近づいてくる者がいた。


 双子の姉エーラだ。


 顔をずいぶん凄ませているが問題ない。エーラといえばクズ中のクズだけど、弟にカツアゲなんてしたことのない優しい姉なのだ。実際、エーラが睨んでいるのは、人混みの生徒たちに向けてだった。


 僕を見つけると、白い歯を見せた。


「おかえりなさい」


「うん、ただいま」


「頑張ったみたいじゃない。さすが、あたしの弟」


 次に声をかけてきたのは、幼馴染のサランだった。


 わざわざエーラが立ち去ってから顔を見せたのは、それほど彼女を苦手にしている証拠だ。


「キファ、おめでとう。受賞だなんて! 学園代表に選ばれたことだけでも名誉なのに」


 代表として祭典に参加したのは、不幸なハプニングが原因なんだけどね。バモイが盗賊団にケガをさせられなかったら、こんな展開にはならなかったはずだ。


 続いて声をかけてきたのは、バロンとソドンだった。でもどっちがバロンで、どっちがソドンだったか。いまだに二人の名前が一致できてない。


「受賞なんてすげえな。やったじゃん。親友として鼻が高いぜ」


 親友になった覚えはないが、そこはツッコまなかった。ただ、この先ますます馴れ馴れしくしてくるような気がしてならない。鬱になりそうだ。



 用務員室に入るとジュナがいた。彼女の周囲にはたくさんの箱。書類整理の真っ最中だったらしい。僕に気づくと、作業の手を休めた。


「お疲れ様。話を聞いて驚いた。あなたって本当は何者? 生徒じゃなく用務員としてここにいるなんて不思議」


「僕は生徒として勉強するより、ジュナたちと働いている方がずっと好きかな」


 ふたたび作業の手が動く。僕も手伝った。



 仕事を終えて帰宅。


「ただいま」


 ピイェアが現れた。

 じっと僕の顔をうかがっているので、笑顔を返してやった。


「ちゃんとベユンバーケ屋敷に行ってきたよ。ミュラと会った」


「ノクオーグ人形ですが、解放してくれたのですか」


「うん、ピイェアとの約束だったからね。いまは生きた人間だよ」


「ありがとうございます。感謝します!!」



 夜、同居しているユマが帰宅した。


 晩飯をともにしながら、祭典の話をした。

 ユマは楽しそうに聞いてくれていた。


「わたしもキファの活躍見たかったな。そうそう。きょうの職員会議だけどね、びっくりするような話があったの。職員みんな揉めに揉めてたわ。そのわけ、あした出勤すればわかるはずよ」



 翌日――。


 用務員室に学園の理事長が突然やってきた。

 事前連絡なんてなかったから、その場の皆が何事かと慌てていた。


 理事長は僕を見つけ、スタスタと近寄ってきた。

 やたらニコニコしてて気持ちが悪い。


「キファくんを我が学園の特待生として迎えたい」


 用務員の先輩たちが驚いている。そりゃそうさ。皆、困ってしまうだろうから。だって僕が抜けたら用務員の仕事はどうなる? そう、僕はできる男なのだ。


「おめでとう、キファ」

「良かったじゃないか」

「すごいぞ、名門学園の生徒ってことだ」


 ちょっとちょっと、その反応どうなのかな。僕がいなくても構わなかった? 皆、冷たいな。でも仕事で一番困る人はジュナだろう。


 視線をジュナに送る。


「勉強がんばって」


 いやいやいや。そうじゃないでしょ。


 でも今は落胆している場合じゃなかった。

 僕自身の問題として、理事長に返事する。


「困ります。勉強はキライだし、賞は取れても魔法は苦手だし。それに途中から入学なんて、無理無理無理。授業についていけません」


 理事長は笑ったままだった。


「それについてはちゃんと考えてある。キミに合わせた授業をするために、キミ専用の特別クラスを作ることになった。だから安心してほしい」


 僕専用のクラス? 補助金や寄付金目当てでそこまでする? 受賞したのが『職員ではなく生徒』って形を崩したくないのは、まあ理解できるけど……この守銭奴め。


 だいたいさあ……。


「僕一人のクラスってこと? それ嫌だな」


 ドアが開いた。


「だったら、あたしがそのクラスに編入するわ」


 用務員室に入ってきたのはエーラだった。盗み聞きしてたのか。てか、授業に行かなくていいのだろうか。


「それはいい!」


 と理事長。


「えっ、待ってください。姉弟で一つのクラス? それなんというか、くすぐったいというか……。僕、正直あまり気が進ないな」


 エーラが考え込む。


「キファはそういうの気にするのね……」


 その目がジュナを捉えると、口から笑みをこぼすのだった。面白いことでも閃いたのか。悪いことを企んでいなければいいのだが。


 ジュナの方へと歩いていくエーラ。


 両手を組み、胸を張り、眉をぐいっとあげている。だが喧嘩をふっかけるワケではなさそうだ。ジュナの手をガッチリ握る。


「あなたも一緒になら、三人のクラスになるわね」


「わたしも? 意味がわかりません」


 僕も理解できない。だって、ジュナはこの学園の生徒じゃないじゃないか。


 慌てたのは理事長だった。


「エーラくん、エーラくん。何を言いだすのかね。それはさすがに無茶ってものだよ」


 エーラはひたすらジュナを見据えている。

 理事長の声などまったく耳に届いていないようだった。


「あなたのこと、よーく耳にするわ。あたしより一年だけ前の入試で、実技試験じゃ一番目立ってたそうじゃない。でも入学式で見かけず用務員として働いてるって、そのときの新入生たちが不思議がってたんだってさ。筆記試験がよっぽど苦手だったのかしら。でも超もったいなくない?」


 エーラの言葉に、ジュナの口が開きかかる。けれども何も言わず黙り込んでしまった。それじゃ僕がジュナに代わって話そう。


「筆記試験が苦手だった、というのは違うと思うよ。ジュナは試験日にね、馬車のことがあって遅刻したみたい。つまり、筆記試験でじゅうぶんな時間がなかったってわけ」


 理事長が首を左右させる。


「だとしても合否を覆すことはできない。こればっかりは無理だ」


「馬車の件で間に合わなかったのが、この学園の生徒のせいだったとしても?」


 理事長の肩がびくりと揺れた。じっと僕の目を凝視する。


「当学園の生徒のせい?」


「そうだよ。嫉妬って怖いな。だけど結局、ジュナが優秀なのが悪いんだね」


「詳しく話してもらえないだろうか」


 いじめっ子のことを、いろいろと話してやった。馬車の待ち合わせで嘘の連絡を受けていたことなど。そして最後にこう締めくくった。


「エーラとジュナと、三人で勉強するクラスだったら、楽しいだろうな」


 しかし理事長は首を横に小さく振りながら退室した。

 エーラが耳元でそっとささやく。


「ふうん。成長したのね。必死に他人の力になろうとするなんて。社会人になったからかしら」


 クズの姉から言われても。


「どうかな。昔のままだと思うけど」




 数日後、僕はこの学園の生徒になった。


 特待生用に新設されたクラスに入ったのだ。クラスメイトにはエーラがいる。

 年齢的には一つ上のジュナも、特別再試験後に同じクラスの一員となった。

 三人だけの特待生スペシャルクラスだ。


 僕は勉強がキライだけど、いま結構楽しく過ごせてる。




__ おわり __


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最強の(元)悪霊、異世界でテキトーに生きる 〓まる @nnn-finish

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