出番ですよ、バハムートさん 最強竜、業界を渡る
ねこぶし
最強竜、業界を渡る
――また、光だ。
召喚陣のまぶしさに、俺はうっすら目を細めた。
「バハムートさん、今回もよろしくお願いします!」
聞き飽きた台詞だ。どこへ行っても、だいたいこれで始まる。
俺の名は、バハムート・A・ドラコニア。
元・神話原典所属、現・フリーランス。
ベヒモス、リヴァイアサンと並んで「創世三獣」なんて呼ばれたこともあったが、
あれから何千年も経つ。
今じゃ誰も覚えちゃいない。
---
最近の出演先は、ほとんどゲーム関係だ。
「伝説の召喚獣」「世界を滅ぼす竜」「最強のラスボス」――どれも俺の十八番。
まあ、仕事だからね。
ただ……ここのところ、扱いがひどい。
スマホゲームってやつ、知ってる?
あれ、怖いぞ。
何度も同じやつが、同じ時間に、同じ顔で戦いに来るの。
「レアアイテム落とせ!」って目が血走ってんの。
ドラゴンより怖ぇよ。
昔の人間は祈ってくれたんだ。
「偉大なる竜よ、どうか世界を支えてくれ」って。
今のやつらは課金して殴ってくる。
「落ちねぇ!」って怒鳴りながら。
どうやら、俺が“神話”から落ちたらしい。
---
なんたらゲームスさんからの依頼が特に多い。
やれ、弱くや、強く、究極だったり、超越してくれって……
まぁ、重宝してくれるのは嬉しいけどね。
この前なんか、カードに出てほしいとかで、何本かスタジオで写真撮影されたよ。
紙媒体になるなんて久々だったから気合い入れちゃったね。
---
俺の鱗の色には、いくつものバリエーションがある。
“アルティメット”だの“Ω”だの“真”だの。
――あれ、全部俺。
別個体なんていない。
演出の都合で、いちいち変身してるだけなんだ。
「今回は銀系でお願いします」
「もう少し“神々しい青”が欲しいです」
「赤だと炎属性被るんで、紫っぽくできます?」
色のオーダーがいちばんしんどい。
こっちは天然素材なんだぞ。
鱗、塗料じゃねえんだ。
---
Ω形態のときは全身メタリック。
発光タイミングに合わせて光らされる。
「もっと禍々しく、でも清らかに!」って演出家が叫ぶ。
どっちだよ。
挙げ句の果てには「口から出す光線、もうちょっと派手に」って。
こっちは本物のブレスだぞ?
火薬じゃねえ、命だよ命。
---
バハムートは名刺を取り出した。
金箔の竜紋が光るそれには、こう書かれている。
【伝説竜/フリーランス】
バハムート・A・ドラコニア
咆哮(SE提供可)/光線スタント可/飛行シーン応相談
「一応いま、個人事業主なんですよ。
昔は“神の使い”とか呼ばれてたんですけど、
今は“召喚契約”ってやつらしいですね。」
---
昔、俺にはライバルがいた。
大地の獣ベヒモス、深海のリヴァイアサン。
「ベヒモスなんて、もう隠居ですよ。
“最近は草食って健康的だ”って笑ってた。
リヴァイアサンも“波間で配信活動始めた”とか言ってましたね。」
時代は変わった。
“伝説”も、“神話”も、
今やデータベースの中だ。
暇なら今度、俺の”つて”でゲーム出演してもらおう。
---
でも、たまに悪くない瞬間もある。
この前の仕事で、召喚された直後、子どもが画面の向こうで叫んだんだ。
「うわっ、バハムートだ!! かっけー!!」
……その声、ちゃんと聞こえてた。
音の波は届かないけど、気持ちは伝わる。
ああ、まだ俺を“伝説”って思ってくれてるやつがいるんだなって。
たぶん、俺が出てくる作品の数だけ、
世界のどこかで、誰かが“バハムート”を呼んでる。
それなら――まあ、まだ頑張れるか。
---
召喚陣が再び光る。
また呼ばれたらしい。
スタッフが駆け寄ってくる。
「次は“バハムート・EXリミテッド・リバースフォーム”お願いします!」
「……また増えてるじゃねえか。」
俺は重い翼を伸ばし、ため息をついた。
「衣装はどんな感じ?」
「今度は青と金で、“神性と近未来の融合”です!」
「はぁ……もう、何でもいいよ。出番なんでしょ?」
足元に光が満ちる。
また誰かが、俺を“呼んで”いる。
俺は背筋を伸ばし、胸を張った。
――フリーでも、伝説は伝説だ。
「よし。バハムートさん、出番ですよ。」
◇◇◇
あとがき
最近のバハムートさん、
ソシャゲ業界で大忙しだそうです。
「1日に何度も倒される」とのこと。
どうか皆さん、
たまには優しく召喚してあげてください。
ちなみに、昔イメチェンして竜になったけど、
その前は巨大な魚だったことは内緒だよ?
出番ですよ、バハムートさん 最強竜、業界を渡る ねこぶし @nekobusi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます