第27話 北西の丘──封鎖された見張り台と、地中の“異物”

北西の丘へ向かう道は、

村の外れでも特に寂れた区域だった。


草が深く、

人が通った形跡はほとんどない。


アズベルが前を歩きながら言う。


「……外部偵察が来るなら、この道ではなく

 水路沿いの南道を選ぶはず。

 ここは、最も“見つかりにくい”」


視界が淡く光り、文字を出す。


『敵勢:南側に集中

 北西区域:現在、偵察なし

 行動:最適ルート』


よし。

今が最も安全に動ける。



丘が見えてきた。


頂上には、

崩れた石積みと、

黒ずんだ木材の断片。


これが、

“かつての見張り台”の跡だ。


アズベルが周囲を警戒しながら近づく。


「……ここが終点ですな。

 四十年前は、村の物資をここに移していたと聞きます」


セラは地面を見つめ、

土の色を確かめていた。


「なんだろう……

 妙に“踏み固められている”気がします」


視界が反応した。


『地表の特徴:

 四十年前の“人為的圧力”

 土質:不自然に締まりすぎ

 推定:埋設物あり』


マリアが息を呑んだ。


「……埋めてある……?」


アズベルは剣の柄で地面を軽く叩いた。


コン。


乾いた音が返ってきた。


通常の土ではない。

直下に何か“固いもの”がある。


視界が判定を示す。


『材質推定:木箱 または 布袋入りの物資

 深さ:およそ50cm

 状態:長期保管

 破損:低』


セラの目が大きく開いた。


「……レオン様……

 これ……種袋がある深さと一致してます」


マリアが記録板を握りしめる。


「粉の箱もそうでしたが、

 “長期保管前提の深さ”なんです……!」


アズベルが言う。


「掘りますか?」


俺は頷いた。


「周囲の警戒を続けながらだ。

 外部勢が来る前に確保する」


アズベルと兵が周囲に散り、

セラとマリアが掘る位置を定める。


俺もスコップを握り、

地面を掘り返す。


土は硬く締まっていたが、

掘るたびに土質が変わっていく。


表層は乾いている。

だが、

下層は湿り気が強く、色が濃い。


セラが言う。


「……この色の土は、

 “昔、何かを埋めた”証拠です」


視界が薄く光った。


『埋設物:非常に近い

 深さ:あと数十センチ』


俺はスコップを深く入れ、

土を押しのけた。


カツン。


硬い音。


木……だ。


マリアが息を呑む。


「レオン様……!」


アズベルが駆け寄る。


「音がしましたな。

 異物があるのは間違いありません」


慎重に土を払うと、

白い布の端がのぞいた。


粉袋の布とは違う。

粉はもっと粗い。


これは──

“種袋と同じ薄い布”。


視界が強く反応した。


『繊維一致:種袋

 年代:一致

 状態:良好

 破損:なし』


セラが震えた声で言った。


「……あった……

 本当に……ここにあった……!」


だが──

まだ全体は掘れていない。


木箱か。

布袋か。


ただ確実なのは、

埋めた者が“守ろうとして隠した”証拠だ。


アズベルが周囲を見渡し、声を潜める。


「レオン様……

 掘り出す前に、一つ気になることが」


「何だ?」


「この埋設位置……

 “外部偵察が絶対に選ばない”場所です。

 つまり──

 埋めたのは“村の内部の者たち”。

 おそらく、敵から守るため」


視界が文字を示す。


『隠匿者:当時の村長・補佐

 意図:香り麦の保存

 外敵:ハイレン領 商隊(当時)』


四十年前から狙われていた。

だから村人は守った。


そして今、

再び同じ構造が来ている。


俺は深く息を吸い、言った。


「……掘るぞ。

 これを取り戻す」


セラは涙をこらえるように頷いた。


マリアは記録板を胸に抱きしめる。


アズベルは雷のような目で周囲を警戒する。


土を掘り、

覆い布を取り除いた瞬間──


白い袋が姿を現した。


汚れてはいるが、

破れてはいない。


視界が輝き、判定を下す。


『第二種袋:

 状態:良好

 内容量:推定40%(発芽可能性は高くはない)

 総合評価:発見』


ついに見つかった。


四十年間眠っていた、

第二の種袋だ。


風が静かに丘を通り抜け、

草を揺らした。


この瞬間から、

グレイス領は次の段階へ進む。

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破綻寸前の辺境領を任された俺、改善点が視えるので復活は簡単だった @gomaeee

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