第27話 北西の丘──封鎖された見張り台と、地中の“異物”
北西の丘へ向かう道は、
村の外れでも特に寂れた区域だった。
草が深く、
人が通った形跡はほとんどない。
アズベルが前を歩きながら言う。
「……外部偵察が来るなら、この道ではなく
水路沿いの南道を選ぶはず。
ここは、最も“見つかりにくい”」
視界が淡く光り、文字を出す。
『敵勢:南側に集中
北西区域:現在、偵察なし
行動:最適ルート』
よし。
今が最も安全に動ける。
◇
丘が見えてきた。
頂上には、
崩れた石積みと、
黒ずんだ木材の断片。
これが、
“かつての見張り台”の跡だ。
アズベルが周囲を警戒しながら近づく。
「……ここが終点ですな。
四十年前は、村の物資をここに移していたと聞きます」
セラは地面を見つめ、
土の色を確かめていた。
「なんだろう……
妙に“踏み固められている”気がします」
視界が反応した。
『地表の特徴:
四十年前の“人為的圧力”
土質:不自然に締まりすぎ
推定:埋設物あり』
マリアが息を呑んだ。
「……埋めてある……?」
アズベルは剣の柄で地面を軽く叩いた。
コン。
乾いた音が返ってきた。
通常の土ではない。
直下に何か“固いもの”がある。
視界が判定を示す。
『材質推定:木箱 または 布袋入りの物資
深さ:およそ50cm
状態:長期保管
破損:低』
セラの目が大きく開いた。
「……レオン様……
これ……種袋がある深さと一致してます」
マリアが記録板を握りしめる。
「粉の箱もそうでしたが、
“長期保管前提の深さ”なんです……!」
アズベルが言う。
「掘りますか?」
俺は頷いた。
「周囲の警戒を続けながらだ。
外部勢が来る前に確保する」
アズベルと兵が周囲に散り、
セラとマリアが掘る位置を定める。
俺もスコップを握り、
地面を掘り返す。
土は硬く締まっていたが、
掘るたびに土質が変わっていく。
表層は乾いている。
だが、
下層は湿り気が強く、色が濃い。
セラが言う。
「……この色の土は、
“昔、何かを埋めた”証拠です」
視界が薄く光った。
『埋設物:非常に近い
深さ:あと数十センチ』
俺はスコップを深く入れ、
土を押しのけた。
カツン。
硬い音。
木……だ。
マリアが息を呑む。
「レオン様……!」
アズベルが駆け寄る。
「音がしましたな。
異物があるのは間違いありません」
慎重に土を払うと、
白い布の端がのぞいた。
粉袋の布とは違う。
粉はもっと粗い。
これは──
“種袋と同じ薄い布”。
視界が強く反応した。
『繊維一致:種袋
年代:一致
状態:良好
破損:なし』
セラが震えた声で言った。
「……あった……
本当に……ここにあった……!」
だが──
まだ全体は掘れていない。
木箱か。
布袋か。
ただ確実なのは、
埋めた者が“守ろうとして隠した”証拠だ。
アズベルが周囲を見渡し、声を潜める。
「レオン様……
掘り出す前に、一つ気になることが」
「何だ?」
「この埋設位置……
“外部偵察が絶対に選ばない”場所です。
つまり──
埋めたのは“村の内部の者たち”。
おそらく、敵から守るため」
視界が文字を示す。
『隠匿者:当時の村長・補佐
意図:香り麦の保存
外敵:ハイレン領 商隊(当時)』
四十年前から狙われていた。
だから村人は守った。
そして今、
再び同じ構造が来ている。
俺は深く息を吸い、言った。
「……掘るぞ。
これを取り戻す」
セラは涙をこらえるように頷いた。
マリアは記録板を胸に抱きしめる。
アズベルは雷のような目で周囲を警戒する。
土を掘り、
覆い布を取り除いた瞬間──
白い袋が姿を現した。
汚れてはいるが、
破れてはいない。
視界が輝き、判定を下す。
『第二種袋:
状態:良好
内容量:推定40%(発芽可能性は高くはない)
総合評価:発見』
ついに見つかった。
四十年間眠っていた、
第二の種袋だ。
風が静かに丘を通り抜け、
草を揺らした。
この瞬間から、
グレイス領は次の段階へ進む。
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破綻寸前の辺境領を任された俺、改善点が視えるので復活は簡単だった @gomaeee
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