第26話 地下通路の“本線”──崩落の下に眠る布片

第三の旧家を後にし、

俺たちは昨日見つけた“地下通路の跡”へ戻った。


あの通路は途中で崩落していた。

だが、

視界は“まだ奥がある”と示していた。


アズベルが縄を下ろし、

先に降りる。


「……気をつけて降りてください。

 昨日より湿気が強い。

 土砂が動いている可能性があります」


俺たちも順に降り、

崩落した壁の前へ進む。


昨日と違う。

土砂の盛り上がり方が変わっていた。


視界が淡く光り、表示を出す。


『土砂:昨夜の雨によりわずかに移動

 崩落:完全閉鎖ではない

 人為的介入:低

 通過可能性:極めて低いが、隙間に“物”が残存』


つまり──

中には、“何かが挟まっている”。



アズベルが岩の角を押し動かす。


「……この辺りが柔らかい。

 人が通るのは無理だが、手を入れられる隙間があります」


マリアが松明を低く向け、

隙間に光をねじ込む。


セラが小声で言う。


「……何か……

 白いものが、見えませんか?」


俺は石をどかし、

慎重に手を差し込んだ。


土の冷たさ。

湿った空気。

崩れた木片。


そして──

指先に、布のような感触が触れた。


ゆっくり、引き抜く。


土にまみれた、白い布片。


薄く、軽く、

だが確かに見覚えがある。


視界が強く反応した。


『布片:種袋の端材

 状態:損耗・破断

 年代:同一

 位置:通路の正規“搬送ルート”上』


セラが息を詰める。


「それ……

 まちがいなく“種袋”の布ですよ……」


マリアも震えた声で言う。


「ということは……

 種袋は、この通路の奥に運ばれていた……?」


アズベルが通路を照らしながら呟く。


「ここは“本線”ですな。

 旧家③はあくまで途中の保管場所……

 本命は、もっと奥だったということです」


視界がさらに表示を出す。


『第二の種袋:搬送方向 “西”

 通路終点:村外れの小高い丘

 位置特定:可能』


──つながった。


移動者(コルト)が持ち出したのではない。

四十年前の村人たちが“ここを通って別の場所へ移していた”。


だから、旧家には置いていなかった。


セラが胸元で手を握りしめる。


「まさか……

 種袋自体、最初から村の“外側”に……?」


違う。


視界が答えを示した。


『外側ではない

 村“内部の外れ”、人が近づかない場所

 隠匿目的:敵対勢力から守るため』


つまり──

味方が守るために隠した。

外へ逃がしたわけではない。


俺は布片を拭い、

手の平に載せて言った。


「……種袋は、まだ村の中だ。

 コルトが隠した可能性はあるが……

 元々、この通路の“終点”へ移されていた」


アズベルが言う。


「通路の終点は、“北西の丘”ですな。

 確か、崩れた見張り台が残っているはず」


マリアが記録を確認する。


「倉庫跡の資料にも、

 “緊急時、物資は見張り台へ移す”と書かれていました……!」


セラは小さく息を呑む。


「……じゃあ……

 その見張り台の跡に……?」


視界が最終表示を出す。


『第二種袋:

 隠匿場所候補

 最終地点:北西の丘の“見張り台跡”

 位置精度:高』


アズベルが立ち上がる。


「レオン様。

 向かいますか?

 外部偵察もそろそろこの区域に近づく頃です」


「行く」


即答だった。


時間はない。

外部勢が本格的に動く前に、

絶対に取り戻す。


松明の火が揺れ、

崩れた通路の影を震わせる。


布片は、確かな証拠だ。


第二の種袋は、すぐそこにある。


俺たちは地上へ戻り、

北西の丘に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る