第26話 地下通路の“本線”──崩落の下に眠る布片
第三の旧家を後にし、
俺たちは昨日見つけた“地下通路の跡”へ戻った。
あの通路は途中で崩落していた。
だが、
視界は“まだ奥がある”と示していた。
アズベルが縄を下ろし、
先に降りる。
「……気をつけて降りてください。
昨日より湿気が強い。
土砂が動いている可能性があります」
俺たちも順に降り、
崩落した壁の前へ進む。
昨日と違う。
土砂の盛り上がり方が変わっていた。
視界が淡く光り、表示を出す。
『土砂:昨夜の雨によりわずかに移動
崩落:完全閉鎖ではない
人為的介入:低
通過可能性:極めて低いが、隙間に“物”が残存』
つまり──
中には、“何かが挟まっている”。
◇
アズベルが岩の角を押し動かす。
「……この辺りが柔らかい。
人が通るのは無理だが、手を入れられる隙間があります」
マリアが松明を低く向け、
隙間に光をねじ込む。
セラが小声で言う。
「……何か……
白いものが、見えませんか?」
俺は石をどかし、
慎重に手を差し込んだ。
土の冷たさ。
湿った空気。
崩れた木片。
そして──
指先に、布のような感触が触れた。
ゆっくり、引き抜く。
土にまみれた、白い布片。
薄く、軽く、
だが確かに見覚えがある。
視界が強く反応した。
『布片:種袋の端材
状態:損耗・破断
年代:同一
位置:通路の正規“搬送ルート”上』
セラが息を詰める。
「それ……
まちがいなく“種袋”の布ですよ……」
マリアも震えた声で言う。
「ということは……
種袋は、この通路の奥に運ばれていた……?」
アズベルが通路を照らしながら呟く。
「ここは“本線”ですな。
旧家③はあくまで途中の保管場所……
本命は、もっと奥だったということです」
視界がさらに表示を出す。
『第二の種袋:搬送方向 “西”
通路終点:村外れの小高い丘
位置特定:可能』
──つながった。
移動者(コルト)が持ち出したのではない。
四十年前の村人たちが“ここを通って別の場所へ移していた”。
だから、旧家には置いていなかった。
セラが胸元で手を握りしめる。
「まさか……
種袋自体、最初から村の“外側”に……?」
違う。
視界が答えを示した。
『外側ではない
村“内部の外れ”、人が近づかない場所
隠匿目的:敵対勢力から守るため』
つまり──
味方が守るために隠した。
外へ逃がしたわけではない。
俺は布片を拭い、
手の平に載せて言った。
「……種袋は、まだ村の中だ。
コルトが隠した可能性はあるが……
元々、この通路の“終点”へ移されていた」
アズベルが言う。
「通路の終点は、“北西の丘”ですな。
確か、崩れた見張り台が残っているはず」
マリアが記録を確認する。
「倉庫跡の資料にも、
“緊急時、物資は見張り台へ移す”と書かれていました……!」
セラは小さく息を呑む。
「……じゃあ……
その見張り台の跡に……?」
視界が最終表示を出す。
『第二種袋:
隠匿場所候補
最終地点:北西の丘の“見張り台跡”
位置精度:高』
アズベルが立ち上がる。
「レオン様。
向かいますか?
外部偵察もそろそろこの区域に近づく頃です」
「行く」
即答だった。
時間はない。
外部勢が本格的に動く前に、
絶対に取り戻す。
松明の火が揺れ、
崩れた通路の影を震わせる。
布片は、確かな証拠だ。
第二の種袋は、すぐそこにある。
俺たちは地上へ戻り、
北西の丘に向かった。
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