第25話 旧家三軒目──“種袋の痕跡”
第三の旧家は、
丘の裏側にひっそりと立っていた。
木壁は黒く焦げたように色を失い、
屋根の半分は落ちている。
だが──
他の旧家とは違い、
“人の気配”だけが妙に残っていた。
アズベルが足跡を確認する。
「……ここだけ、足跡が複数ありました。
三日以内の新しいものもあります」
「外部か?」
「断定はできません。
だが、同じ方向から来て……
同じ方向へ戻っています」
視界が淡く光り、表示を出す。
『外部接触:高
目的:探索
対象:旧家内部 または 地下』
つまり──
敵もここを“本命”と見ている。
俺は深く息を吸い、扉に手をかけた。
◇
中は、一見すると空っぽだった。
崩れた棚。
割れた壺。
古い布が風に揺れる。
しかし──
視界が即座に表示を出す。
『異常検知:床の歪み
荷重差:局所的に軽い
構造:床下収納の可能性 高』
アズベルが剣の柄で床を軽く叩いた。
「……ここだけ音が違う。
板の下に“空洞”があります」
マリアが灯りをかざす。
「床は……二重になっていますね。
古い倉の造りと近い」
俺は膝をつき、床板の隙間を覗いた。
そこには──
布の繊維がわずかに挟まっていた。
白い布。
粉袋よりも薄く、軽い素材。
視界が反応する。
『繊維分析:穀物袋に使用
用途:種袋と同一素材
年代:古い』
セラが息を呑む。
「……これ……
種袋の布と、同じ種類……!」
アズベルがゆっくりと床板を外す。
すると──
床下には、小さな収納スペースがあった。
しかし、空だ。
袋はない。
ただ、底に“跡”だけが残っていた。
四角く沈んだ跡。
布が長期間置かれていた形。
視界が新しい表示を出す。
『第二の種袋:
位置:ここに置かれていた
状態:移動済み
移動時期:数日以内』
つまり──
“誰かが最近持ち去った”。
セラの顔が青くなる。
「……じゃあ……
種袋は、もう外に……?」
アズベルが首を振る。
「いや、足跡の方向からすると、
村の外へ出ていない。
おそらく“内部のどこかへ移された”」
マリアが震える声で言う。
「内部……
外部偵察に見つからないように……?」
視界が別の表示を出す。
『推定:
移動者は“村の人間”
目的:隠蔽(敵対ではない可能性 高)
理由:外部偵察の増加による危機感』
村の誰かが、
外部に奪われる前に“隠した”。
敵ではない。
味方側。
しかし──
どこに?
◇
そのとき、床の隅に
“泥のついた足跡”が見えた。
アズベルがしゃがみ込む。
「……小柄な足だな。
男でも女でもない……子どもか、若い者か」
視界が文字を追加する。
『足跡一致:副村の若者“コルト”の靴跡と類似
職業:見回り補助
動機:善意の隠蔽か』
コルト。
副村の見回りを手伝っている少年だ。
セラが目を見開く。
「コルト君が……?
じゃあ、奪うためじゃなくて……
守るために……?」
マリアが小さく頷く。
「外の影を恐れて……
種袋を“別の場所”に移したんだと思います」
アズベルが険しい表情で言う。
「問題は、その“別の場所”がどこか、だ」
視界が最終表示を出した。
『推定隠し場所:
① 地下通路の先(まだ未探索)
② 村外れの崩れた小屋
③ 水路沿いの洞窟
最適探索順:① → ② → ③』
つまり、
まだ見つかる。必ず。
しかし──
外部偵察の動きも加速している。
時間との戦いだ。
俺は立ち上がり、言った。
「いいか。
種袋は必ずまだ村の中だ。
コルトを責める必要はない。
ただ、急いで取り戻すぞ」
アズベルが頷く。
「了解しました。
しかし、外部勢力の動きも無視できません」
セラが心配そうに問う。
「レオン様……
先に種袋を探しますか?
それとも防衛を固めますか?」
視界が淡く文字を示す。
『最優先:種袋の確保
理由:外部に奪われれば領地崩壊
時間制限:高』
俺は答えた。
「まず──
地下通路の“別方向”を確認する。
そこにある可能性が最も高い」
マリアが記録板を握りしめる。
アズベルは剣を抜き、
周囲の気配を探った。
風が途切れ、
静寂が重く落ちる。
第二の種袋は、まだ近くにある。
だが、同時に“敵も近い”。
俺たちは、
通路の探索に向かった。
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