第25話 旧家三軒目──“種袋の痕跡”

第三の旧家は、

丘の裏側にひっそりと立っていた。


木壁は黒く焦げたように色を失い、

屋根の半分は落ちている。


だが──

他の旧家とは違い、

“人の気配”だけが妙に残っていた。


アズベルが足跡を確認する。


「……ここだけ、足跡が複数ありました。

 三日以内の新しいものもあります」


「外部か?」


「断定はできません。

 だが、同じ方向から来て……

 同じ方向へ戻っています」


視界が淡く光り、表示を出す。


『外部接触:高

 目的:探索

 対象:旧家内部 または 地下』


つまり──

敵もここを“本命”と見ている。


俺は深く息を吸い、扉に手をかけた。



中は、一見すると空っぽだった。


崩れた棚。

割れた壺。

古い布が風に揺れる。


しかし──

視界が即座に表示を出す。


『異常検知:床の歪み

 荷重差:局所的に軽い

 構造:床下収納の可能性 高』


アズベルが剣の柄で床を軽く叩いた。


「……ここだけ音が違う。

 板の下に“空洞”があります」


マリアが灯りをかざす。


「床は……二重になっていますね。

 古い倉の造りと近い」


俺は膝をつき、床板の隙間を覗いた。


そこには──

布の繊維がわずかに挟まっていた。


白い布。

粉袋よりも薄く、軽い素材。


視界が反応する。


『繊維分析:穀物袋に使用

 用途:種袋と同一素材

 年代:古い』


セラが息を呑む。


「……これ……

 種袋の布と、同じ種類……!」


アズベルがゆっくりと床板を外す。


すると──

床下には、小さな収納スペースがあった。


しかし、空だ。


袋はない。


ただ、底に“跡”だけが残っていた。


四角く沈んだ跡。

布が長期間置かれていた形。


視界が新しい表示を出す。


『第二の種袋:

 位置:ここに置かれていた

 状態:移動済み

 移動時期:数日以内』


つまり──

“誰かが最近持ち去った”。


セラの顔が青くなる。


「……じゃあ……

 種袋は、もう外に……?」


アズベルが首を振る。


「いや、足跡の方向からすると、

 村の外へ出ていない。

 おそらく“内部のどこかへ移された”」


マリアが震える声で言う。


「内部……

 外部偵察に見つからないように……?」


視界が別の表示を出す。


『推定:

 移動者は“村の人間”

 目的:隠蔽(敵対ではない可能性 高)

 理由:外部偵察の増加による危機感』


村の誰かが、

外部に奪われる前に“隠した”。


敵ではない。

味方側。


しかし──

どこに?



そのとき、床の隅に

“泥のついた足跡”が見えた。


アズベルがしゃがみ込む。


「……小柄な足だな。

 男でも女でもない……子どもか、若い者か」


視界が文字を追加する。


『足跡一致:副村の若者“コルト”の靴跡と類似

 職業:見回り補助

 動機:善意の隠蔽か』


コルト。

副村の見回りを手伝っている少年だ。


セラが目を見開く。


「コルト君が……?

 じゃあ、奪うためじゃなくて……

 守るために……?」


マリアが小さく頷く。


「外の影を恐れて……

 種袋を“別の場所”に移したんだと思います」


アズベルが険しい表情で言う。


「問題は、その“別の場所”がどこか、だ」


視界が最終表示を出した。


『推定隠し場所:

 ① 地下通路の先(まだ未探索)

 ② 村外れの崩れた小屋

 ③ 水路沿いの洞窟

 最適探索順:① → ② → ③』


つまり、

まだ見つかる。必ず。


しかし──

外部偵察の動きも加速している。


時間との戦いだ。


俺は立ち上がり、言った。


「いいか。

 種袋は必ずまだ村の中だ。

 コルトを責める必要はない。

 ただ、急いで取り戻すぞ」


アズベルが頷く。


「了解しました。

 しかし、外部勢力の動きも無視できません」


セラが心配そうに問う。


「レオン様……

 先に種袋を探しますか?

 それとも防衛を固めますか?」


視界が淡く文字を示す。


『最優先:種袋の確保

 理由:外部に奪われれば領地崩壊

 時間制限:高』


俺は答えた。


「まず──

 地下通路の“別方向”を確認する。

 そこにある可能性が最も高い」


マリアが記録板を握りしめる。


アズベルは剣を抜き、

周囲の気配を探った。


風が途切れ、

静寂が重く落ちる。


第二の種袋は、まだ近くにある。

 だが、同時に“敵も近い”。


俺たちは、

通路の探索に向かった。

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