てるてる坊主の証言
志乃亜サク
てるてる坊主の苦悩
朝から激しく雨が降り続いている。
ここは山田家の屋根裏。
この家の健やかな暮らしを守るため、今日も山田家守護神ズの面々が集い会議を開いている。
「最近、トイレ掃除が疎かになっている気がします。そろそろ軽く罰を与えてやっても良いかなと思うのですが」
そう発言するのは
綺麗好きの彼女は、トイレ掃除を怠ると機嫌が悪くなる。
「サマちゃん、もうちょっとだけ我慢してやってもらえないかな? トイレ掃除担当は旦那さんなんだけど、最近出張続きみたいなんだ」
そう
「そういうことなら仕方ないですけど……」
少し不満げではあるものの、とりあえずは納得したようだ。
「あたしゃ、どうもあのIHってのが性に合わんのよね」
そう口を尖らせるのは
「カマちゃんさ、そろそろ慣れようよ。むかし世の中が竈からガスになったときもそうだったけど、そのうち慣れたらガス便利だわーってなったじゃない?」
「そうなんだけどさ、やっぱり直火が出ないってのが何かモヤモヤするんだよね」
「まあまあ、IHなら火事も起こりづらいし、ね?」
竈神はまだ何か言いたげだが、屋敷神はスルーする。
山田家が最新のキッチン家電を購入するたび毎回文句たらたらなのが竈神なのだけど、そのうち新機能を覚えて自慢してくるのも竈神なのだ。
先日は新しい炊飯器の「超絶ふっくら踊り炊き」機能について小一時間語っていた。
「とりあえず。今のところ急ぎの課題としてはニワちゃん(庭神)提議の『草伸びすぎ問題』とイドちゃん(井戸神)の『浄水器カートリッジもうすぐ期限切れ問題』かな? 他に何かある?」
こうして本日の会議を締めくくろうとしたところ、白髪の美少女オシラサマが手を挙げた。
「シロちゃん、何か?」
「太郎ちゃんのことなんですけど」
太郎ちゃんというのは山田家の5歳の男の子のことだ。
「太郎ちゃん? 何かあった?」
「じつは今日、保育園の運動会で。太郎ちゃんすごく楽しみにしてたんですけど……」
一同、天井を見上げる。屋根を激しく打つ雨音が聴こえる。これは無理だ。
「昨日、お母さんとてるてる坊主を作ったのに、全然効果なかったってガッカリしてるんです」
「そうか、それは残念だったね……ちょっと担当のテルちゃんにも話聴いておこうか。呼んでもらえる?」
まもなく、てるてる坊主が屋根裏に上がってきた。なぜか険しい顔で。
見ると、裾がボロボロになっている。
「何すか? 忙しいんすけど」
おおう。やさぐれとる。何があった?
「いや、太郎ちゃんの運動会のことなんだけどさ」
「え? この雨ボクが悪いんですか?」
「待って待って。責めるために呼んだわけじゃないんだよ。何かあったのかなー? と思って」
「何もないっすよ。だいたい自分、ティッシュなんで。御利益を期待する方がどうかしてると思いますよ」
「そんな卑下するようなこと言わないでよ。テルちゃん、昔はもっと仕事に前向きだったじゃない」
「そもそもですよ。天候操作なんてティッシュには荷が重いんです。そんなの、エリアマネージャーとかもっと上の役職の仕事でしょう?」
「まあ、そうなんだけどね……そこはホラ、各家庭のてるてる坊主がチカラ合わせて」
「……いま、どんだけの家庭でてるてる坊主吊るしてるか知ってます?」
「え? 園児が50人だとして……30家庭くらい?」
やれやれ……といった顔でため息をつきながら首を振るテルちゃん。
「昨日、いつものように公民館に各家庭のてるてる坊主が集まったんですよ。天気どうするか話し合うために。そしたらね、ぼく含めて出席者3人ですよ、3人」
「3人!」
「最初は佐々木さんとこのてるてる坊主とふたりだけだったんですけどね。『みんなでやろうと思って持ってきた』ってUNОとか出してくるから二人でやってたんですよ」
「寂しい」
「そしたら『みんなー!お待たせー!』って樋口さんとこのてるてる坊主が元気に入ってきて。見たらすっごいドレスアップしてるの。もう七色でキラキラな感じ。ほら、樋口さんとこの子そういうの得意だから。みんなに褒めてもらおうと思ったんでしょうね」
「うわあ……」
「『え、これで全員?』なんつって。もう見てらんなかったっすよ……」
「なんか涙でてきた」
「そんなわけで。太郎ちゃんには悪いけど、自分にはどうしようもないっす」
「そうか……そういうことなら仕方ないね。今度の店長会議でその話を偉いさんに上げとくよ」
「うす」
「ところで。なんでテルちゃんそんなボロボロなの? なんか空手家が山で修業したみたいになってるじゃない」
「……最近、この家で猫飼い始めたじゃないですか?」
「あ、OK。もう大体わかった」
<了>
てるてる坊主の証言 志乃亜サク @gophe
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