第2話
その衝動に気づいたのは、会社から帰る電車の中だった。袖の短い白のTシャツを着た20代後半くらいの女性が吊り革につかまっているのを見て、目が離せなくなったのだ。背が高くて、赤茶色っぽいロングヘアーの綺麗な人で、服装を見るに会社帰りではなくこれから誰かと会うような感じだった。特段好みのタイプというわけではなかったが、腕が気になって仕方がない。その瞬間は、最近の自分には珍しく性的欲求が湧いてきたのかなと感じる程度だったが、その人がどの駅で降りるんだろう、一緒に降りて少しついていってみようかと脳が動いたところで異常を感じた。そして危うくその白くて細い二の腕に手を伸ばしそうになったので、途中の停車駅で人の乗り降りがあったのを利用して自分からその女性と距離を取ることにした。
扉を挟んで斜め向かいの吊り革まで移動して、その人には背を向けるようにしたのだが、どうしても見たくなってしまう。広告を見るふりをして斜め左を振り向いてみたり、トンネルの暗さを利用して電車の窓に映る角度を探してみたり。しまいにはその人が繁華街の駅で降りるのを見て、自分も慌てて飛び出るように電車から降りた。
近くの長いエスカレータで改札階に向かう彼女の姿を見て、自分も数人挟んだ後ろからついていく。だが、エスカレータを降りてその人が改札を抜けたところで我に返った。おそらく、定期券が使えるとはいえICカードに途中下車の記録が残ることが、「あなたは女性の二の腕を追ってこの駅で降りました」という証になってしまうと、一瞬頭をよぎったからだろう。そのあとは脳裏に焼きついた彼女の二の腕に思いを巡らせながら、トイレットペーパーの切れ端が散乱した駅のトイレの個室で自慰行為をして衝動を何とか落ち着かせたのだった。
ゴリラの息子 石山 @1sym
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