アラン・フィンリー外伝 ~小さなエスコート~ (男×男女不問)

Danzig

第1話

アラン・フィンリー外伝

~小さなエスコート~


ジュリアン:

僕の名前はジュリアン、

ジュリアン・アシュフォードです。

よろしく、アラン。


アラン:モノローグ

僕はその日、一人の少年と出会った。


(少しの間)


アラン:

はぁ・・・まったく退屈だ。


アラン:モノローグ

僕はその日、ビクトリア・モントローズの依頼を受けて、アシュフォード家の屋敷に来ていた。


この屋敷の当主、ヘンリー・アシュフォード氏が前月89歳にしてこの世を去り、今日はこの屋敷で遺産相続の手続きが行われるという。

ビクトリアの依頼は、その遺産相続の立ち合い人の一人として、僕に参加して欲しいということだった。

弁護士でもない僕が、どうして遺産相続の立会人なんて・・・

そう思ったのだが、どうもこの遺産相続には何やらキナ臭い思惑が入り乱れているようだと彼女はいう。

大金持ちの遺産相続なんて、そんなものなのかもしれないな。

しかし、僕がそこに居たところで、何の役に立つ訳でもないだろうに。

はぁ~あ・・・

貴族の考えることは、どうも理解できないな。


僕が退屈を紛らわせようと廊下を歩いていると、窓辺に佇(たたず)み、淋しそうに外を眺める少年の姿が目に留まった。


アラン:

こんにちは。


アラン:モノローグ

僕はその時、ただの退屈しのぎに声をかけただけだった。


ジュリアン:

え?


アラン:モノローグ

少し驚いたように振り向く少年。


アラン:

こんな所で何をしているのですか?


ジュリアン:

あなたは・・・誰ですか?


アラン:モノローグ

戸惑いがちな表情を浮かべながらも、少年はどことなく淋しそうだった。


アラン:

あぁ失礼しました。

僕の名前はアラン・フィンリー、

探偵ですよ。


ジュリアン:

探偵・・・さん?

探偵さんがどうしてここに?


アラン:

知り合いに、ここに来るように言われて来たんです。

今日、ヘンリー氏の遺言状の公開があるそうなので、そこに立ち会って欲しいと・・・


ジュリアン:

そうですか・・・


アラン:

でも僕は弁護士ではないので、ただいるだけなんですけどね。

どうして僕がここにいるのか・・・自分でもよくわかりません。

どうやら、あっちの部屋では何やら相談やら駆け引きやらをしているようですけど、僕には興味がなくて・・・


ジュリアン:

そうですか、ではあなたは退屈なのですね。


アラン:

まぁ、言ってしまえば。


ジュリアン:

そうですか・・・僕も同じですよ。

みんな遺産のことばっかりで、僕のことなんて誰も構ってくれやしない。

ここに来てからずっと放っておかれてるんですよ。


アラン:

そうですか・・・


ジュリアン:

でも、その方がまだましなのかもしれませんね。


アラン:

どういうことですか?


ジュリアン:

だって、お祖父様(じいさま)が亡くなられたんですよ、それなのに・・・みんな遺産のことばかり。

あれじゃ、お祖父様が可哀想ですよ。

もう、こんな所になんて居たくない。


アラン:

そうですか・・・


ジュリアン:

とはいっても、他に居場所なんてないし、ここでぼんやり庭を眺めていたという訳です。


アラン:

・・・・

だったら、今から僕と外にでも出かけませんか?


ジュリアン:

え?


アラン:

遺言状の公開までにはまだ時間もあるし、一緒にお茶でもどうでしょう。


ジュリアン:

それはいいですね。

じゃぁ僕が付いていってあげますよ。

僕の名前はジュリアン、

ジュリアン・アシュフォードです。

よろしく、アラン。


アラン:

よろしく、ジュリアン。


アラン:モノローグ

こうして僕はジュリアンを連れて散歩に出かける事にした。


(少しの間)


アラン:

ちょっと、ジュリアン。


ジュリアン:

何ですか?


アラン:

僕が誘ったとはいえ、みんなに黙って出てきてしまいましたけど、大丈夫ですか?

せめて、誰かに一声かけてからの方が・・・


ジュリアン:

大丈夫ですよ、どうせパパ達は遺産のことで頭が一杯でしょうから、

気にしないで行きましょう。


アラン:

・・・


アラン:モノローグ

そして僕たちは屋敷の門を出た。


(少しの間)


アラン:

さて、どこに行きましょうか。

この辺りで美味しい紅茶の店といえば・・・確かウィローズ・レストが近くにあったかな。


ジュリアン:

アラン、お茶もいいけど、僕は何か食べたい気分です。


アラン:

そうですか、それじゃアフタヌーンティーにしましょうか。

ウィローズのサンドイッチはとっても美味しいですよ。


ジュリアン:

うーん、サンドイッチも魅力的だけど、僕にはもっと食べたいものがあるんですよ。


アラン:

食べたいもの・・・ですか?


ジュリアン:

ええ・・・

アランはそれでもいいですか?


アラン:

ええ勿論いいですよ。

で、ジュリアンは何が食べたいのですか?


ジュリアン:

ハンバーガーです。


アラン:

ハンバーガー・・・ですか?


ジュリアン:

ええ、そうなんです。

僕はまだ食べた事がないんだけど、お祖父様が大好きだったんですよ。

すごく美味しいんですってね。


アラン:

まさか、あのヘンリー・アシュフォードがハンバーガーを・・・


ジュリアン:

いつも内緒で食べていたんですって。

僕はお祖父様からその話を聞くたびに、いつも「いつか僕もハンバーガーを食べてみたい!」って思っていたんです。


アラン:

そうだったんですか。


ジュリアン:

・・・でも、やっぱりダメでしょうか?


アラン:

とんでもない、勿論大丈夫ですよ。

それに、ハンバーガーなら、僕はとっておきのお店を知っていますよ。


ジュリアン:

ホント!


アラン:

ええ、

じゃぁ、今からそこへ行ってみましょうか。


ジュリアン:

ええ、お願いしますアラン。


アラン:モノローグ

そして僕はジュリアンを連れて、久しぶりにあの店にいく事にした。


(少しの間)


ジュリアン:

アラン?

ひょっとして・・・この店・・・ですか?


アラン:

そうですよ。


ジュリアン:

確かに看板には「ハンバーガー&チップス」と書いてあるけど・・・

その看板もペンキがところどころはげ落ちてるし、窓枠もなんだか埃(ほこり)がいっぱい付いている気がするし・・・

建物も今にも壊れそうな・・・


アラン:

まぁまぁ、見た目はちょっとアレですが、味は保証しますよ。


ジュリアン:

そうですか?


アラン:

ええ、じゃぁ中に入りましょうか。


ジュリアン:

ええ、わかりました。


アラン:モノローグ

僕は久しぶりにこの店のドアを開けた。

「サミーズ・グリル」、ここは老夫婦が二人で切り盛りする店で、昔から美味い肉を食わせる事で常連客には人気の店だ。

そして店の外観的に常連客くらいしか来ない、いわば隠れ家的な店。

小さな店内には、カウンターと古びた木のテーブルが三つ。

壁には色あせた写真、中には若い頃の店主夫婦の写真もある。

揚げた油の香りと、焼けたパンと芋の匂いが混ざり合い、どこかなつかしさを感じさせる。


僕たちは、一番奥のテーブルに座った。


アラン:

さぁジュリアン、メニューをどうぞ


ジュリアン:

ありがとう。

このお店のハンバーガーがお薦(すす)めなの?


アラン:

この店はハンバーガー以外にもお薦めはありますが、ここのハンバーガーはなかなかですよ。


ジュリアン:

そう


(メニューを眺めるジュリアン)


ジュリアン:

うーん、メニューにはハンバーガーが何種類も載ってますけど・・・。

どれがいいんでしょうか。


アラン:

そうですね、ここのハンバーガーはどれも美味しいですが、中でもこのお店の名前がついた「サミーズ・バーガー」が僕のお薦めです。

それも、チーズを多めに注文するのが特にお薦めです。


ジュリアン:

それは美味しそうですね、じゃぁ、それにします。


アラン:

では、サミーズ・バーガーのセットにしましょう。

セットのドリンクは何にしますか?


ジュリアン:

こういう時は、何がいいんでしょうか?


アラン:

そうですね、紅茶でも、レモネードでも、オレンジジュースでも、ジュリアンの好きな飲み物なら何でもいいと思いますよ。

で・す・が、

ハンバーガーを食べるならドリンクはコーラをお薦めしますよ、ビール以外ならね。


ジュリアン:

はは、アランはお祖父様と同じ事をいうんですね。


アラン:

ヘンリー氏がそんな事を・・・


ジュリアン:

ええ、アランもとんだアメリカかぶれですね。


アラン:

いえいえ、僕はこの国の文化や伝統をこよなく愛する人間ですよ。

でも、たまにはこういうのも、いいものですよ。


ジュリアン:

そのセリフも、お祖父様そっくりです。


アラン:

ははは、

じゃぁ、注文しましょうか。


ジュリアン:

ええ、お願いします。


アラン:モノローグ

そして僕たちは、サミーズ・バーガーとコーラのセットを注文した、勿論、チーズを多めにして。


(少しの間)


アラン:モノローグ

暫くすると、僕たちのテーブルにハンバーガーが運ばれてきた。

艶(つや)のある焼きたてのバンズに挟まれた肉厚の2枚のパティ、

溶けたたっぷりのチーズと、しっとりと焼かれた、はみ出たベーコン、

みずみずしいレタスとオニオン、そしてこの店オリジナルのソースが彩(いろどり)をそえ、

肉の焼けた匂いとバンズの香りが何とも食欲をそそる。

形が崩れないようにピンが刺されたハンバーガーは、丸い厚めの木目プレートに乗せられ、

香ばしく黄金色(こがねいろ)に揚がり、熱気を帯びたチップスが添えられている。

いつ来ても変わらないこの店の名物料理だ。


ジュリアン:

わぁ、おいしそうですね。


アラン:モノローグ

プレートの横にコーラが置かれ、ジュリアンの所にだけナイフとフォークが置かれた。

この店は、初めてハンバーガーを食べる人のところにはナイフとフォークが置かれる。

暫くここには来ていなかったが、店主は僕の事を覚えていてくれたみたいだ。


ジュリアン:

アラン、さっそく頂きましょう。


アラン:モノローグ

待ちきれないようにナイフとフォークを持つジュリアン。


アラン:

ジュリアン、ハンバーガーを食べるのにナイフとフォークは使わないんですよ。


ジュリアン:

え?

でもだって、ほら、ちゃんとナイフとフォークが用意されているじゃないですか。


アラン:

それは、「そういう食べ方も出来ますよ」というだけです。


ジュリアン:

じゃぁどうやって食べるんですか?


アラン:

手で食べるんですよ。


ジュリアン:

そんな、まさか。


アラン:

まぁ、見ててください。

まず、こうやってハンバーガーを軽く潰(つぶ)します。


(少しの間)


ジュリアン:

そんな・・・折角綺麗に積まれているのに潰しちゃ失礼なんじゃ・・・


アラン:

いいんですよ、この方が食べやすいから。


ジュリアン:

食べやすいからって・・・


アラン:

そしてこれを手でこういう感じに持って、噛(かぶ)り付く・・・あむ・・ん・・ん・・・


(美味しそうにハンバーガーを頬張るアラン)

(ハンバーガーを飲み込んで)


アラン:

そして、続けてコーラをグッと飲む・・・ん・・ん・・


(コーラを飲んで)


アラン:

んー、たっぷりの肉汁とチーズの相性は抜群、そして野菜とソースのバランスが絶妙です。

それを喉の奥に押し流すコーラの甘みと炭酸の刺激がたまりません。


ジュリアン:

わぁ、


アラン:

さぁ、ジュリアンも。


ジュリアン:

僕に出来るでしょうか・・・でも、折角だからやってみます。

まず、軽く潰すんですね・・・・

これくらいでいいでしょうか?


アラン:

もう少し潰した方が食べやすいですよ。


ジュリアン:

そうですか?・・・これくらいかな、

それで手に持つ・・・っと・・

ハンバーガーって意外と重いものなんですね。


アラン:

軽いハンバーガーはいくらもありますが、それは美味しさの重さですよ。


ジュリアン:

そうですね。

それでこれに噛(かぶ)り付くんですね。


アラン:

ええ、


ジュリアン:

でも、こんな大きな口、開けられないですよ。


アラン:

頑張って出来るだけ大きく口を開けるんですよ。

ジェントルマンには難しいですか?


ジュリアン:

そんなことないですよ、やってみます。

あー・・・(口をあける)


アラン:

それで口に入るだけ頬張(ほおば)る。


ジュリアン:

あむ・・・ん・・・ん・・・


アラン:

どうです?


(口の中のハンバーガーを飲み込む)


ジュリアン:

とっても美味しい、

アラン、僕はこんな美味しいもの初めて食べましたよ。


アラン:

そうですか、それはよかった。


ジュリアン:

でも、口の周りにソースが付いてしまって、なんだか見っともないですね。


アラン:

慣れればもう少し上手に食べられるようになりますよ。


ジュリアン:

お祖父様が内緒で食べてたのも分かる気がします。


アラン:

はは、そしてそこでコーラです。


(コーラを飲むジュリアン)


ジュリアン:

わかった。

ん・・・

ハンバーガーとコーラってとっても美味しい組み合わなんだね


アラン:

でしょ?


ジュリアン:

アラン、ありがとう。

あなたとここに来れてよかった。


アラン:

それはよかった。

さぁ冷めないうちに食べちゃいましょう。

そのチップスとコーラの相性も抜群(ばつぐん)ですよ。


ジュリアン:

それは楽しみですね。


アラン:

ははは、あむ・・・ん・・ん・・


ジュリアン:

あむ・・・ん・・・ん・・・ふふふ


(二人でハンバーガーを食べる)


アラン:モノローグ

(M)そして、この小さなジェントルマンとの楽しい時間は過ぎて行った。


(店をでる二人)


ジュリアン:

あー、美味しかった。

ハンバーガーがあんなに美味しいとは思いませんでしたよ。


アラン:

ここは僕のお薦めの店なので、気に入って貰えてよかったです。


ジュリアン:

何だかお祖父様と同じ時間を一緒に過ごせたみたいです。

本当にありがとう、アラン。


アラン:

いえいえ、このお店が気に入ったなら、また来てやってください。

その時はきっとナイフとフォークはもう出てきませんよ。


ジュリアン:

ふふふ、そう願いたいですね。

でも、ここに通ったら僕もアランのようにアメリカかぶれになっちゃいそうですね。


アラン:

別に僕はアメリカかぶれではありませんよ。


ジュリアン:

ははは、そういうことにしておきましょう。

きっとお祖父様も、そう言うんでしょうね。


アラン:

では、そろそろ戻りましょうか。


ジュリアン:

ええ、


アラン:モノローグ

それから間もなくして僕たちは屋敷に戻った。

そして、ヘンリー氏の遺言状が公開された。

遺言状には、なんとヘンリー氏の財産を全てジュリアンに相続させるというものだった。

屋敷中が騒然(そうぜん)となり、ジュリアンは一族中の人間に囲まれて祝福されていた。

それを見て僕は、立会人の仕事が完了したと判断し、黙ってその場を後にした。


(少しの間)


アラン:モノローグ

屋敷を出て少しした時、後ろから僕を呼び止める声がした。


ジュリアン:

アラン。


アラン:モノローグ

その声で僕は足をとめた。


ジュリアン:

ありがとう、アラン。

僕、今日の事を忘れない。


アラン:モノローグ

僕はゆっくりと振り返り、ジュリアンを見た。


ジュリアン:

アラン。僕は、お祖父様の遺産でハンバーガーショップを開くつもりです。

お祖父様も喜んでくれると思うんです。

そうしたらアランも来てくれますか。


アラン:

ええ、そのお店が評判になったら、きっとお伺(おうかが)いしますよ。


ジュリアン:

きっと・・・約束ですよ。


アラン:モノローグ

僕はその少年に向けて微笑みながら手を振った。


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アラン・フィンリー外伝 ~小さなエスコート~ (男×男女不問) Danzig @Danzig999

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