カニカマ工場の見学レポ

杉浦ささみ

おいしいカニカマ

 福岡市の西区(伊都いとらへん)でカニカマ工場の見学ツアーがやってたので行ってきた。


 カニカマといってもカニを模したカマボコのことじゃなくて、両手がカマになってる海洋生物のこと。福岡じゃこっちが食卓に出がち。


 生きてる姿を見たのが先週の某ローカル番組のなかだけなので詳しくは知らないけど、玄界灘げんかいなだの砂地に生息している甲殻類で、小型のサメくらいだったら瞬時にコマ切れにできるらしい。海水浴場を襲うモザイクだらけの映像が衝撃だった。


 工場は、海を見下ろす小高い丘にある。外装は普通。直売所のわきにあるスタッフオンリーの扉の前で人数確認。


 俺含めて7人いた。主婦おじさんジジババなどなど。若干オールドなメンツだけど、そのなかに1人だけ俺と同年代の男がいた。そいつはなんと俺の友人にそっくりだったし、妙に話しやすかった。防護服を身に付けたり、アルコールの霧を浴びてる間にだいぶ打ち解けた。


 しかし生け簀いけすエリアの前にある小部屋でトラブル発生。そいつの首が跳んだ。パンフレットのデザインがダサいとかでひそひそ盛り上がってると、その背後にカマが迫ってるのに気付く。俺は思わず「後ろ! 後ろ!」ってホラー映画みたいなセリフを吐いた。


 次の部屋のドアがちょっとだけ開いてて、その隙間から長い腕がにゅーんて伸びてた。こんなに伸びるのかと驚愕した。


 白銀にきらめく湾曲した刃がそいつの首もとに当てがわれて、次の瞬間には参加者全員が返り血を浴びていた。


 工場長が飛び込んで速効でエタノールをぶちまけたから予定が押すことはなかったけど、かなりの番狂わせでビビる。それにしても後処理が雑。


「ま、こういうこともあるので気を付けましょうね(笑)」と生首を抱えながら工場長は俺たちを次の部屋に案内した。


 隣室には生け簀が複数あった。水槽と水槽の間に畦道あぜみちみたいな細い足場があって、そこ通らなきゃ次の部屋には行けないらしい。水族館みたいだった。生け簀には金網が張ってあったんだけど、ほとんどぶち破られてた。


 破れたところから工場長が友人似をぶち込んで水が瞬時に赤くなる。水面が地獄のように泡立った。片方の水槽に頭、もう片方に体って感じで、それはカニカマたちにとってアンフェアなんじゃと思ったが、考えてみれば頭のほうがミソつまってて旨いのかもしれない。


 返り血が染みたのか、もとの体色のせいなのか分からないがカニカマたちはみんな真っ赤で、ワニサイズのデカいサソリのようだった。


 細い通路を歩いてるときも両側からカマがひゅんひゅん飛んできて、アクションゲームの主人公ってこんな気分なんだと妙にしんみりした。


 次の部屋に行くまでに死んだのは2人。こんなに臓腑ぞうふが散って消毒の意味はあるのだろうかと思ったが、見学自体は楽しかった。保険がかからないのは舐めてるけど。


 それからはカニカマの屠殺とさつとか加工とか、ごくごく普通の工程が続く。個人的にはものすごく面白かったけど、あまりにも文章映えしないので省略する。


 ただ、コンベアに乗って流れてきたカマの切れ端がいきなり伸びて俺以外の見学者を全員葬ったのは呼子よぶこのイカの踊り食いみたいで圧巻だった。玄界灘の海産物はタフなのが多いのかも。


 そして「工場の歴史」みたいな死ぬほどおもんない横長の展示を見たりして、土産にカニカマの切り身をいただいて解散した。


 工場から出る間際に、不意打ちみたいにカマが飛んできた。華麗にかわして屈めた腰をもどすとき、工場長の舌打ちが聞こえてきたんだけど餌になって欲しかったんだろね。ざまあ。


 今思えば消毒液もカニカマにとっては食欲をそそる調味料だったのかも。工場長からは独特のにおいはしなかったし。エサ代をケチりたいのだろうか。


 そんなことを考えて帰宅し、カニカマを実食した。腹持ちも歯ごたえもよく、磯臭さのなかにほんのり甘みが感じられてかなり美味しかった。


 パッケージを裏返すと、そこには今日の犠牲者の写真が「生産者の顔」みたいなノリで並んでた。いらねーよ! てか、どこで撮ったんだよ。


 呆れて袋を表に返した。「カニカマ」という商品名の真下に「Cannibalistic Sickle Stick」と英訳してある。バリスティック シックル スティック……ちょっとおもしろい。

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カニカマ工場の見学レポ 杉浦ささみ @SugiuraSasami

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