その名は愛

吉本 冬呉

その名は愛

『想像』


今ここではないどこかで


誰かが笑い 誰かが泣いた


頭の隅っこで その顔を想う


笑った顔か 泣き顔か


今ここではないどこかで


誰かが生まれ 誰かが死んだ


頭の隅っこで その顔を想う


笑った顔か 泣き顔か


人として笑った僕は


獣として泣くのだろうか


人として生まれた僕は


獣として死んでいくのか


想像に果ては無く


想像は形を持たない


だからこそ僕は


この取り留めの無い想像を


言葉にしたいんだ



『言葉』


頭の中を跳ね回る


掴みどころの無い想像を


一つ一つ丁寧にすくい上げて


組み立て仕上げた言の葉は


僕を離れて旅に出る


僕を離れた言葉だけが


僕を僕だと認めてくれる


僕の中にいる想像だけが


僕は僕だと叫んでくれる


人ならずとも 獣に非ず


獣なれども 人たらんとす


頭の中を跳ね回る


取り留めのない想像を


言葉の形にした僕は


一つ大きな息を吐く



希求ききゅう


それはどこかにあるはずだって


それを誰かが持っているはずだって


僕らはそれを求めてしまう


僕らはそれをねがってしまう


どこかの誰かが手に入れて


誰かがどこかで手放した


そんな話を耳にするたび


僕らはそれに憧れる


本当は無いって知っているのに


本当は幻だって解っているのに


人はねがって求めてしまう


手に入れたいと思ってしまう


人が人としてあるために


僕は獣になりたくないから



『消費』


与えて与えて 与え続けて


気が付いた時は 何にも無くて


誰かがねがった 心を晒して


誰かが求めた 心を差し出す


ねがわれるままに


求められるままに


張り付いてしまった笑顔と共に


あげられるだけあげてきた


もっともっとと言われるたび


苦しくなったはずなのに


あと少しだけと言われるたび


嬉しくなってもしまうんだ


与えて与えて 与え続けて


気が付いた時は何にも無くて


誰かがねがった 心はり切れ


誰かが求めた 心は売り切れ


人は獣と何が違う


僕は笑顔で問いかけた



存知ぞんち


頭の中の想像を


言葉にしたら僕が生まれて


形になった 嘘じゃなかった


ねがって 求めて


手に入れたのに


今度は与えて 無くなった


あんなに沢山あったのに


手元にあれば綺麗きれいに見えた


手を離れれば陳腐ちんぷに見えた


それでも確かにると知った


ただそれだけで充分だった


無くなってしまったと


思ってたのに


ると知ったら 寂しくなくて


僕が人であるために


ねがって求めて 手に入れて


僕が獣にならないために


与えて与えて 与え続けた


全てを失くした足元に


泥まみれでも確かにった


そっと拾って胸にいだいて


僕はそれに名前を付けた

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その名は愛 吉本 冬呉 @Tougo_Yoshimoto

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