第4話 ☆ 霊界航空・魂回収便 ②

——手のひらの上に現れた、小さな拳ほどの光。


 やわらかな明滅は、まるで心臓の鼓動のよう。

 その光の中心で、小さな妖精が体を丸め、スヤスヤ寝息を立てていた。


 光がおさまると同時に、妖精は瞼をパチッと開く。伸びをしながらふわりと宙へ浮かび上がる。


「くぅ〜……おはよう、ガーラ」


「おはよ、アル」


 彼女の名前はアル。長い転生の旅を、ずっと隣で歩いてくれている——ボクの唯一の理解者だ。


(……この声を聞くと、ホッとするんだよなぁ)

 胸の奥にまとわりついていた寂しさが、静かにほどけていく。

 それがどれほど救いか、言葉にできないほどに。


「ん? あれ? ねえガーラ、ちょっと早くない?

 まだ二十数年しか経ってないはずだけど?」


 アルは小首を傾げて、不思議そうにボクを覗き込む。


「えっと……今回はちょっと、厄介な相手に絡まれちゃって……」

 安らぎが欲しくて、ボクは思わず弱音を漏らしてしまった。


「ちょっと待って!? ガーラ、やられたの!? それ、おかしいでしょ!?」

「え?」


(『可哀想に』とか『よしよし』とか……そういう方向じゃ……?)


 予想と違うアルの反応に一瞬固まる。


 アルは鋭い眼差しでボクを見据えている。

……どうも風向きが、悪い。


「もしかして手抜きしたの? ……まさか、わざと?」

「ち、違うよ! せ、精一杯頑張ったんだって!」


——もちろん、あの世界の理の範囲内で。

 だが、その但し書きは胸の中だけにしまう。


「ふ〜ん? 本当に? あれだけの力を持ってるガーラが?」


 探るようなアルの視線が……痛い。

 見透かされている気がして、思わず視線を逸らす。


「ガーラ?」


 アルが腰に手を当て、ぐいっと覗き込んでくる。

 アーモンド形の翠眼がとても綺麗だ——なんて、現実逃避したくなる。

 だが、そんな隙を与えられるわけもなく、アルが叫ぶ。


「まさか……命かかってるのに『縛りプレイ』してたんじゃないでしょうね!?」


 ギクッ。

(さ、さすが……ボクを一番分かってる……!)


「あ、あ〜……少し? いや、ほら……全力出すとレベルが……

 そ、それは避けたくて……」


 しどろもどろの言い訳。

 だけど、これは仕方ない。ボクの唯一の趣味はレベル上げなのだ。


「やっぱり!! 本当に“Lv.オタク”なんだから!

 少なくとも、命が危ない時くらい能力使いなさいよ!」


 アルは小さな拳をぶんぶん振って怒り始めた。

 寂しくて、慰めてほしくて呼んだはずなのに、なぜか耳が痛くなるお説教がついてきた。


「そ、その……能力はもう使っちゃった後でさ……」

「それでもダメ! ガーラはね——」


「……お客さま?」

「「ウヒャッ!?」」


 背後からの声に、ボクらは跳ね上がった。

 振り向くと、客室乗務員が営業スマイルで立っていた。

 しかし目の奥は……笑っていない。ひぃ……!


「他のお客さまのご迷惑になりますので……お静かに願います」


 そうだ、ここは機内……みんな、人生を終えた直後の疲れで寝ていたんだ。


「す、すみません……」


 反省しつつ、慌ててアルを胸ポケットへ押し込む。

 その瞬間——。


 乗務員の目が、驚いたように大きく見開かれた。

 瞳の奥で、刹那だけ銀色が揺らめくように見えた。


 そして——乗務員はボクを見て、動きを止めた。

 まるで、時間そのものが凍りついたかのように。


(えっ? な、何……ボク何かした!?)


 焦りで心臓が跳ねる。

 周囲を見回しても、異常はない。


 胸ポケットに助けを求めると、アルは——


(ずぼっ)

 ポケットの奥へ逃げ込んでいた。


 いやそれ、ずるくない!?

 なんでボクだけ最前線!?


「あ、あの……?」


 恐る恐る声をかけると、乗務員はビクリと揺れ——機械仕掛けのように素早く一礼。

 そのまま足早にギャレーへと去っていった。


 静寂が戻る。やけに大きく聞こえる自分の鼓動。


(……なんだったんだ、今の)

 ただならぬ空気に、額から冷汗が伝う。


「……さっきは騒ぎすぎちゃった、ね。ガーラ、ごめん」


 胸ポケットからアルがひょいと顔を出し、小声で謝った。


「いや、ボクも悪かったし。心配かけてごめんね、アル。

 ……到着までは、大人しくしてよっか」


 アルはコクンと頷くと、またポケットの奥に潜り込み——

 すぐに、規則正しい寝息が始まった。


 その寝息を聞きながら、ボクは窓の外へ視線を向ける。


 幽界の空には雲と光だけ。

 けれど、遠い雲の向こうで“何か”が微かに瞬いた気がした。


 暁の光に照らされた雲が、ゆるやかに流れていく。


 いつまでも落ち込んでいられない。

 さっきの乗務員の異変は気になるけど……まぁ、あまり考えても仕方ない。


 次は——魔法の世界にしようかな。

 いやいや、王道に戻るのも……


「……早く着かないかなぁ」


 霊界・サンズリバー空港までは、あと少し。


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【改稿版】ヘビロテ転生周回中 〜スカウトされて新人天使になりました〜(シリアスバージョン) 花京院 依道 @F4811472

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