後日談


 新しい鉱石の花は『奇跡の花ミーラー・フラワー』と呼ばれ、求婚の際に渡されるようになった。


 そのため、販売元のミシュアの実家、バース家は技師も鉱石自体も足りないほどで、作れば作るほど売れていくという嬉しい悲鳴を上げている。


 その第一人者のウィリアムも別に商会を立ち上げて、侯爵家から出ることにした。しかし、夜会での出来事が国王の目に止まり、子爵位を賜ることになる。


 そしてオリビアを妻として迎えることができた。


 一連の話を聞いたミシュアが、カフェで苦笑する。


「あなたたち、仕事が早いのは知ってたけど。次に会ったときに夫婦になってるってどうなの?」

「ごめんなさいね、ミシュア」


 オリビアがカップに口をつける。後から合流したウィリアムが、彼女の隣に腰を下ろしながら続ける。


「突然のことだったからさ。早めに伝えなきゃ、とは思ってたんだけど」

「事情は全部オリビアから聞いたからいいわよ。それより忙しいときに良く来てくれたわね」

「いや、こちらこそ世話になってるからね」

「それはお互い様。毎日上がっていく売上にもう、領民たちも喜んでるのよ。領民といえば……聞いた? サルコベリア侯爵……いえ、今はもう男爵ね」


 王城で騒ぎを起こして、本来なら不敬罪で処刑もあり得たが、ウィリアムとオリビアの愛の話が先行し、降爵となっただけだった。


 だがそれに納得していないローガンは、いまだ国に訴えているという。


「近々、平民になるんじゃないかって噂されてるわ。そうしたらサルコベリアの領民になるのかしら。あなたたちの領に来たりしてね」

「その前にゴードン男爵の方じゃないか?」

「ゴードン男爵令嬢にはフラれたらしいわよ。侯爵だったから傍にいただけなんですって」

「そう」


 オリビアが言って、わずかに目を伏せる。ウィリアムが気遣うようにその手を握った。


 ミシュアがフフッと笑う。


「でももう、あなたたちの様子を見たら彼も逃げ出すわね」

「え?」


 オリビアが不思議そうにする。ミシュアはテーブルの上のスタンドから、小さなタルトを取って口に運んだ。


「だってそうじゃない。こんなにお似合いなのに。間になんて入れないわ」

「お、お似合いかしら……」「そ、そうかな」


 ほとんど同時に言って、顔を見合わせる。


 そんな二人をフハッと笑ったミシュアが、「お似合い!」と笑顔で答えた。





fin.

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不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない 翠月るるな @Ruruna25_

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