真面目くんは絆される

@nonoh

第1話 貸し借りはしたくないので

 僕と悠《ゆう》は学校のコンビニに寄った。

 悠は僕と同じ美術部の一年生。

 ただ、それだけの関係。


「なー湊、アイス食わね?」

「うん、食べる」


 気づけばアイスコーナーにいて、どのアイスにしようか迷う。

 これか、これか。

 左のやつにしようと思った。

 アイスに手を伸ばす。


「行くよ」


 レジに向かう彼女のカゴの中にはアイスが二つ。

 僕が今手に取ろうとしたものと、彼女が食べるもの。


ーーお見通しか


 彼女には、悠には敵わない。

 悠は多分、僕が何を選ぶかをあらかじめ予想していて、僕が納得するまで、ずっと待ってくれていたのだろう。

 

 悠は頭が良い。

 勉強ができるとかいう類じゃなく、頭の回転が早いという意味で。

 実際、ものすごく気遣いができる。

 美術室で悠が絵を描いているところを見たことがないが、それに誰も文句を言わないのもそれが関係しているのだろうと僕は思う。


「何円だった?」

「いいよ、私の奢り」


 悠は店を出るとすぐにアイスの袋を破り捨てる。

 きちんと、ゴミ箱に。

 はい、と渡されたから僕もアイスの袋を開ける。


「お金はちゃんと払うよ」

「いいって」

「でも…!」

 

 友達が少ない僕は奢り奢られるという状況にあまり慣れていない。

 借りはすぐに返したい。


「じゃあさ、湊は後であそこのジュースでも奢ってよ」


 悠は道路の向かいにある自販機を指差す。

 想像の斜め上の回答に僕は驚く。


「わかった、そうするよ」

「よしっ、じゃあ食べよ」


 アイスを二人で並んで食べる、

 こういう存在のことを世間では恋人とか言ったらするのだろうか。

 

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