木々の静かな反乱 —幸せとは—

Kay.Valentine

【大人の童話】木々の静かな反乱

木は昔から木の精とか木霊とか言われるように心を持っています


そして、お互いにテレパシーで話し合うことができます


そんな木たちを人間も大切にしてきました


老いた大木を祀ったりしてきたのがその良い例です

  

ところが最近は少し事情が変わってきました


木は木材や紙の原料になるものですから


人間は木をどんどん切り倒すようになったのです


人間が次々に木を切るので 木の数はみるみるうちに減ってきてしまいました


世界中の木が切り倒されていくことを心配して 各国の木の王様が世界会議を開きました


会議といっても、木は動くことができませんからテレパシーで行うのです


「われわれは命の危険にさらされている」


「このままではいつの日か、地球上から木が一本もなくなるのではないか」


王様たちはほとんどが巨大な老木ばかりですが その巨木をゆさゆさと揺らして激論を交わします


そして、何か打開策はないものだろうかと知恵をしぼります


ある木は「人間が切り倒そうとしたら、スカンクのようにくさいにおいを出したらどうか」


それに対して「いや、彼らは防毒マスクをつけて来るから無駄だろう」


ある木は「森の動物や鳥たちにお願いして近づいてくる人間を攻撃したらどうか」


それに対して「いや、彼らは兵器を作るのが上手だからすぐに撃退されてしまうだろう」


みんな頭をひねって考えるのですが、なかなか名案が出てきません


そんなとき、ある小さな国の王様が言いました


ちょっと見劣りのする小さな老木でしたので最初はみんな無視していましたが 次第に熱心に聴くようになりました


小さな老木は言いました


「みんな大きな木になることしか考えてない だからいけないのではないだろうか 


たしかに、太い木の幹は立派で見ごたえがある


すらりと背の高い木は、みんなを見下ろすことができるから、優越感にひたれる


枝ぶりの良い木は、葉っぱをたくさん蓄えることができるので、みんなから尊敬される」


王様たちはふんふんと聞いています


「だけど立派になるから、われわれは人間たちに切られてしまう


そして、木の幹や枝を材木や紙に加工されて、人間たちに利用されてしまう


小さくて貧弱でなんの利用価値もなければ、切り倒されないのではないか


材木や紙に加工できない体になれば、人間は昔のように木と仲良くするのではないか」


王様たちは顔をしかめて反論しました


「木は大きくなるために生まれてきたのだ


小さくて葉っぱもろくすっぽ蓄えてない木のまま一生を終わってしまったら


いったい木は何のために生まれてきたというのだ」


だけど、小さな老木は言いました


「立派な大木になることが、生きる目的だろうか


葉っぱをたくさん蓄えることが、幸せなことだろうか


わしはその考え方は間違っていると思う


欲を出して立派な木になろうとすることからすべての不幸は始まったのだ」


王様たちはなるほどと聞いています


小さな老木は続けます


「大木を目指すことばかりがわれわれの生きる目的ではない


風の歌う詩(うた)に耳を傾け 仲間の木たちと楽しく過ごす


太陽と有意義な語らいのときを持ち 月のもとで安らかな眠りにつく


そして、うつりゆく季節を肌で感じ われわれを育んでくれた大地に感謝する  

 

それこそが、われわれ木の生きる意味ではないか」


王様たちは小さな老木の言うことに感激して いっせいに葉を鳴らして拍手しました


そして満場一致で採択されました


そして、さっそく世界中の木たちがこの戦略を実施しました


ある日、きこりがいつものように木を切りに行きました


すると、山じゅうの木々が小さく貧弱になっていました


木々の葉っぱも、以前はこんもりとしていたのに まばらに枝からぶら下がっているだけです


おまけに、木を切ろうとしたら、木の幹が空洞になっていました


これでは木を木材や紙として利用することができません


ほどなくこの現象は世界中の人間に知れわたり 世界中の人間はあわてふためきました


でも、人間というのはとても頭が良いので


しばらくすると、海水と砂漠の砂と土を加工して 木材や紙を作ることに成功しました


世界中の木たちは小さく貧弱にはなりましたが もう人間に命を狙われることはなくなりました


そして、どの木も幸せな一生を過ごし 天から与えられた寿命を全うできるようになりました

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