第10話 漂う
僕は外に出た。
風は、さらに冷たくなって、夜のしじまに吹く場所を求め、東の方向から山の尾根伝いに、這うようにやってきた。
春のおとずれまでには、さらに幾ばくかの時を、やり過ごす必要がある。
街の外れに達した風は、闇を徘徊する老人たちのように、行き着く先も知らず漆黒の港に波も立てずに忍び込む無人船のように、密やかに軒の陰から陰へと、吹き渡っていった。
ここでは、いつまでも、意味を問われることは、ないだろう。
ただ、大気を行く、大柄の渡り鳥の羽が打ちつける微かな振動が、冬の記憶を削り去っていくように、それは夜の街をさまよう者たちから、少しずつ暖かさを、奪っていった。
狐は、今何を思っているのだろう。灰色の瞳の中に、何を宿しているというのだろう。
仰ぎ見ると、見慣れない星座が、闇に閉ざされた街の頭上で輝いていた。
そのひとつひとつの光の中に、過ぎ去ったものたちが残していった心の揺らぎが、漂っているような気がした。
夜に囁(ささや)く 戸来十音(とらいとおん) @skylark_npc
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