第3話

 首都エリメは発展していた都市だった。よくわからない肉を売っていたり雑貨を売っている売店があったり大きな建物や人で溢れかえっている反面、軍事施設で訓練が行われていたり、道路では兵士を積んだトラックや戦車が横行していた。

 サラは食料品の売店や人形やぬいぐるみの置いてある売店を眺めながら歩いていた。サラは俺に質問を投げかける。


「ルチはこれからどうすんの?」

「兵士として軍の訓練施設に入隊したいけどどうすればいいんだ?」

「徴兵があるのは18歳からだけどルチは何歳なの?私よりちょっと背格好が大きいくらいだけど」


背伸びをして俺の頭に手を当てながらサラは俺との身長を比べながらそう言った。


「多分16歳」

「だめじゃん」

「どうにかなんないのか」

「諦められないなら国王に毎日請願でも送るんだね。ま、無理だろうけど」


俺が落胆してるのを他所目にサラは売店のおじさんに話しかけていて食料を買っていた。

 入隊できないってことは俺はこれからどうすればいいんだ。持ち物なんてろくにないし金もない。家もない。

 俺が頭を抱えて唸っているとサラはすでに買い物を済ませていて、俺に買い物袋を持たせてきた。


「じゃあ私んち住む?」

「は?」


表情ひとつ変えずに言うから俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「いいのか?」

「全然いいよ。私衛生兵だから施設の寮で住んでるし給料もあるから君一人ぐらいなら居候させてもいいよ」

「いや、なんでそこまですんだよ」

「んー...強いて言えば同情かな」

「なんだそれ」

「けど、やることはやってもらうからね!料理洗濯掃除あと私の荷物持ち!と、言うことで全部持ってください」


サラはそう言って頭を下げて俺にリュックごと渡してきやがった。買い物袋とリュックの重さでよろけて倒れそうになるのをなんとか堪える。

 買い物袋なんて落としたらサラに何言われるか。想像しただけでめんどくさかった。





 そうして俺たちは衛生兵の寮に到着した。けれど正門とは真逆の裏手だった。入り口らしきものはなくてフェンスに囲われていた。


「こっからどうやって入るんだ」

「フェンスを登るんだよ。ほら、人に見られる前に登って」

「普通に入り口から入れよ」

「ここは女子寮なの。それとも君は変態扱いされるのが好きなの?」


サラはニヤニヤしながらつついてきて、俺はムカついたから無視してフェンスを乗り越えた。サラも軽々とフェンスを乗り越えて姿勢を低くしたから俺もそれに倣う。


「私が休暇取ってるだけで他の子はほとんどが訓練で寮に人はいないと思うけど、ちゃんと気をつけてね」

「わかった」


サラにそう言われ慎重に入ったが、寮内に人はいなくてあっさり部屋に入ることができた。気を張っていたので疲れて、深く息を吐く。

 サラの部屋はあまり物がなくてキッチンと寝室。それにシャワールームらしきドアとクローゼットがあるくらいだ。


「案外物はないんだな」

「荷物がかさばると邪魔だしね。さ、料理を作るよ。今日はシチューだよ!シチューの作り方分かる?」

「シチュー...」


ミヤとの出来事が思い出される。こいつといるとよくミヤのことを思い出す。苦しくて、嫌な記憶のはずなのに。


「料理は得意だ。何すればいい?」

「じゃあルチは材料を切って」


俺はそう言われサラから材料を受け取った。じゃがいもの皮を剥いて適当な大きさに切っていく。サラはフライパンに火をかけて鶏肉を焼いている。部屋には肉の焼ける音と肉を切る音が響いている。

 このままでいいのか。ミヤの仇を討たなくていいのか。俺がこんな普通の生活をしていいのか。包丁を持つ力が強くなる。


 違う。なんで俺だけ生き残ったのか。それは俺が村のみんなの、ミヤの仇を討つためだ。だから生き返った。何回も苦しい思いをしても立ち上がった。歩いた。

 アバムを潰す。そのために生きているんだ。

 

 サラの声で我に帰る。俺は慌ててサラに切った材料を渡す。そうしてシチューが完成しテーブルにパンとシチューをよそった皿が置かれた。

 俺はサラと当たり障りのない会話をして眠りについた。





 早朝に目が覚める。地面が硬い。床で寝ていたせいで腰が痛む。寝袋から体を起こすと冬の訪れを知らせるように脳が肌寒さを認識する。

 ベッドの方に目をやるとサラは穏やかな寝息を立てながら暖かそうに寝ている。ベッドで寝れて羨ましいが居候だからなんも言えねえ。

 サラはまだ休暇が残ってるらしいから起こさないように慎重に身支度をする。

 今日はサラが言っていた請願とやらを出すことにした。昨日の夜に聞いたが、国王に国民が意見を伝えるものらしい。それで俺が軍に入れるとは思えないが最悪、自分の力を見せれば軍も多少食いつくだろう。

 暖かい格好に着替えて玄関へ向かう。靴を履いて慎重にドアを開く。すると、目の前には向かいのドアではなく一人の男が立っていた。

 体格は大きいが、髪のところどころに白い物が混じっていて、深く被った帽子からはかろうじて右目に付いている傷が見えた。

 いや、観察している場合じゃない。バレた。俺が女子寮に侵入していることが。俺は咄嗟に口を開きかけたが、その男が先に喋り始めた。


「お前がルチ・ラープか」

「...え?まあ、そうですけど」

「俺の名前はキース・リー。昔は第二部隊の少佐として前線を張っていたが、今はエリメ軍事基地で主に歩兵を育てている」

「はあ...」

「我が国エルメリアの国王から直々に勅令が出た。ルチ・ラープ。お前を俺の下で訓練し、戦争に出てもらう」


その言葉に俺の全身の血が泡立った気がした。こんなにも早くチャンスが回ってくるなんて。俺が返事をしようとするとサラが寝ぼけ眼で寝巻きのままやってきた。

 俺はサラに状況を説明する。


「キースさん?でしたっけ。この国の徴兵は18歳から行われていますよね。どういうおつもりですか」

「国王からのご指示だ。貴様はこの国の君主制を否定するつもりか?」

「それは...」

「軍事基地に男を連れ込んでいる貴様に言えることはない。下がれ。ルチ・ラープお前は明日からエリメ軍事基地の寮で生活してもらう。身支度は済ませておけ」


そう言って、キースは要件を済ませたのかドアを閉じて寮を後にした。キースの足音が遠くなっていくとサラがキースの態度に文句を言っていたが、俺は無意識に拳を強く握しめていた。またとないチャンスへの喜びと仇への復讐心で。

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