御中をのせる仕事

御中と言われても、私はあなたをいらない。

　DX。Digital Transformation。

　デジタルトランスフォーメーション。

　そのような言葉。弊社には存在しません。

　Fワード。AX。代わりにそんなものが存在しております。

　弊社では、ファックスがまだまだ現役でございます。

　〇〇株式会社　御中

　取引先に、そう書かれた見積書と、

　見積書を一通送りますと書かれたFAX送付状を、

　ファックスで送信いたします。

　少し、間を置いて、電話をかけます。

　「もしもし、私、△△のさわみずのあんです。今、お見積書の方をファックスでお送りいたしましたので、ご確認お願いいただけますでしょうか？　はい、ええ、変更ございましたら、また、ファックスの方で。はい、それでは失礼いたします」

　しばらくすると、

　取引先から、修正した見積書を一通送りますと書かれたFAX送付状と、

　ポールペンで修正された、見積書が、

　ファックスに受信されます。

　少し、間を置いて、電話がかかってきます。

「お電話ありがとうございます。△△のさわみずのあんがお受けいたします。はい。ああ、〇〇株式会社の××様。お見積りの方で、品数のご変更。はい。ファックスで訂正したものを送信したとのことですね。はい、こちらに。届いております。はい。確認次第、また、こちらから、ファックスでお送りいたしますので。はい。お電話ありがとうございました。失礼します」

　訂正された見積書に、書かれていた、

　〇〇株式会社　御中

　は、ご丁寧にも、

　〇〇株式会社　＝＝

　と、二重線で消されている。

　私は、テプラを取り出し。

　　御中

　と入力する。

　テプラから出力される、「御中」と書かれた白いテープを、

　〇〇株式会社　＝＝

　の二重線の上に貼って、

　〇〇株式会社　御中

　に修正する。

　Fワード。AX。

　アナログトランスフォーメーション。

　御中をのせる仕事。

　そして、変更したことを確認したことを書いた見積書と、

　変更したことを確認したことを書いた見積書をお送りします。

　と書いた、FAX送付状をファックスで送信いたします。

　少し、間を置いて、電話をかけます。

　「もしもし、私、△△のさわみずのあんです。今、ご変更を確認した、お見積書の方をファックスでお送りいたしましたので……、」

　しばらくすると、ファックスが届く。

　〇〇株式会社　御中

　は、ご丁寧にも、

　〇〇株式会社　＝＝

　と、二重線で消されている。