24 秘密だよ


「やっぱり宇宙人はいるらしいんだ」


 日光が降り注ぐ晴天を睨みながら、在本ありもと君は言った。


「しかも、その中の一人が最近まで地球にいたらしいよ。きっとこの間起こったレコード消失事件に関わってるんだ」


 在本君は、大層驚いた様子を想像して、隣で歩くその横顔を見た。


 しかし、ミライは特段驚く様子も無く、在本君を見つめ返した。


「実は私、その人と会ったんだ」


「ええっ!?」

 在本君が思いきり叫んで、通行人たちが一斉に二人の方を見た。


「どういうこと……?」

 在本君が声を潜めて聞く。


「いつどこで会ったかとか、どんな人だとかは言えないんだけどね。でも会って話したんだ」


「どんな会話したかは聞いてもいいの?」


「うん。ざっくり言うとね、感謝をされたの」


「感謝を……? 凄いなミライちゃん」


 目を輝かせる在本君を尻目に、ミライはサキとの会話を思い出していた。



* * *



「本当にありがとうございます、ミライさん」

 

 廃空港の一室から抜け出し、二人で外に向かう途中、サキはそう言った。


「いえ、いいんですよ! さっきも言った通り、侵入して接続を切ったのは自分のためでもあるので」


 そう言うミライに、サキは真剣なまなざしを向け続ける。


「接続を切ってくれたことももちろんですが、それだけじゃないんです」


 サキは前を向いた。


「加古川さんからも聞いていると思いますが、私はレコード社という会社で働いています。その会社での仕事は凄く忙しくて大変なんですけど、なんとか今までやってこれました。それも、ミライさんのおかげなんです」


「私の……?」

 ミライが呟く。


「はい。実は社会人一年目の頃、仕事が上手くいかなくて、でも誰にも助けを求められなくて、心を病んでいた時期があったんです。


そんな時にふと思い立って、レコードで『私を今後助けてくれる人』を調べてみたんです。その時に出てきたのが、ミライさんの名前でした。明らかにこの星の人ではないと分かりました。


一体どういう形でこの人と出会い、どのように助けてくれるのか。そんなことを考えているうちに、私は救われていました。この先、この人と会うために頑張ろうと思いました。


 そして数年が経ち、地球に転送されるのが私に決まりました。転送される直前、直感的に理解しました。


ああ、きっと、これから行く地球という名の惑星に、ミライさんがいるんだと。ならばお礼を言わなければと。だからこうして会えて本当に嬉しいです。ありがとう、ミライさん」


 その話を聞いて、ミライは照れ臭そうにした。

「そうだったんだ。私、気づかないうちにサキさんを救ってたんですね。なんだか不思議な感覚です」


 サキが笑顔をつくる。

「はるか遠い星の、名前も知らない一人の人間を救ってしまうなんて、ミライさんは凄いです。――あっ、出口が見えてきましたよ」



* * *



「ミライちゃん、凄くニヤけてるよ。余程嬉しかったんだね」


 在本君の一言に、ミライは我に返った。


「えっ、ほんと? 恥ずかしいなあ」


「恥ずかしがる必要ないよ。かわいいよ」

 頬を掻きながら在本君が言う。


「えー嬉しいなあ、フフ」

 ミライは更に満面の笑みをつくった。


 二人は歩き続ける。

 

「あっ、そうそう。二つ目に調べた邪馬台国の場所なんだけど――って、ミライちゃん! 急激に興味を失くさないで! ミライちゃんが歴史興味ないのは分かったけど、もう少し話聞いて!」


「だって、あんまり知らない国の場所を教えられてもって感じだよ、在本君」


 その発言を聞き、在本君になにやら火が点いたようだった。


「よし、俺がこれからミライちゃんに邪馬台国の魅力を教えるよ。まず、弥生時代は重要な時代で、色々なものに影響を与えてるんだよ。ミライちゃんが好きなカミアドも、日本神話が基になっていて、更にその日本神話は弥生時代や邪馬台国にも関連があるんだ」


 ミライは驚きの声を上げた。

「そうなんだ! 全然関係ないかと思ってた」


「よしよし、ちょっと興味が出てきたね。じゃあこれから、俺が作ってきた邪馬台国ラップを披露するから、聞いてて」


「邪馬台国ラップを!?」


「愚痴ばっかり書いてもしょうがないと思ってね。じゃあいくよ。

Yo-yo! 邪馬台国、マジヤバい大国! 卑弥呼とヒウィゴー! 壱与いよもいるよー! ……」


 邪馬台国ラップは五分間続いた。


「おおー、凄いよ在本君! 邪馬台国って奥が深いんだね! 確かにこれは、かつてどこにあったかが気になるかも!」


「でしょでしょ。じゃあ言うね、邪馬台国の場所は――」


「うっ!!」

 ミライは急に頭を抱えた。


「大丈夫かミライちゃん!? どうしたんだ!?」


「頭の中にアスヤ君が出てきて、『早バレはやめろ』って叫んでる……」


「えっどういうこと!? 早バレ!?」


「ごめんごめん、こっちの話。やっぱり場所を聞くのはやめとくよ。それに、お互い一つくらい秘密があった方がいいと思うんだ。だって私たち、ほとんどの秘密バラしちゃったんだし」

 

「それもそうだね。っていうか、愚痴ラップのこととか、誰にも言ってないよね?」

 在本君が心配そうに聞く。


 ミライは両手を振る。

「言ってないよ、もちろん! 在本君こそどうなの?」


「言ってないよ! 前話したことは、二人だけの秘密だよ」


「……ふふ。二人だけの秘密って、なんだか恋人同士みたいだね」


「恋人同士なんだよ、ミライちゃん。――おっ、そんなこと言ってる間に、着いたよ!」


 

 在本君の声に、ミライは足を止めた。

 在本君はそのまま先へ歩いていく。


 ゴールデンウィークぶりの休日で、水族館は多くの人で賑わっている。


 その入り口に立ち、ミライは呼吸を整えた。



 今日の私にピンチなど無いだろう。


 ミライは心の中で言い切った。


 なぜなら、これまで頭の中で何度も何度も、今日のデートをシミュレーションしてきたからだ。


 

 ミライは、少し先で待つ在本君の方へ、スキップしながら向かっていった。



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アカシックレコード・ラブコメディ 糸川透 @itokawatoru

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