第31話 (閑話)好奇心という名の儀式
あれから何度目かの休みの日。
彼は、心の充足を知った今も相も変わらず朝のルーティーンを守り、マキネッタとパンで朝食を済ませると、洗車を始めていた。
この日は車全体のワックスをリセットし、老舗メーカーのワックスを新たに施工する――彼にとって最も至福のひと時だ。そんな何物にも代えがたい時間が流れるガレージには、ワックスの容器が置かれる小さな音が響き、北欧ワックスの甘く優雅な香りが広がっていた。
全面に北欧ワックスを施工し、拭き取りも終えた彼は、一度リビングに戻り、いつものマキネッタでひと時の休憩を取る。何をするでもなくソファーで寛ぎ、少々うたた寝をし、最低限の乾燥時間を見計らった数時間後、再びガレージへと足を向けた。
愛車はそのボディ全体が、手が吸い込まれそうな艶を纏っていた。彼はクロス片手に一回りする。口元はいつものように緩んでいるが、どこか不敵さを含んでいる。
状態確認を終え、彼は老舗ワックスが並ぶ棚の前に立った。そこで手に取ったのは高耐久ワックスだ。
雨の日のドライブを経て、「最高の儀式」で心が満たされた今、彼の目は自然と好奇心に向く。棚の奥に眠る二種類の老舗ワックス――北欧ワックスの上に重ね塗りをすれば、どんな化学反応が起こるのか。理性の土台の上に立った好奇心は、もう止められなかった。
彼は高耐久ワックスを取り出し、手順を踏んで施工する。北欧ワックスとの違いを確かめながら、薄く均一に塗り込む動作は、過去の経験と知識が自然に体に染み込んだもので、流れるようだ。拭き上げた後の艶は、北欧ワックスの落ち着いた奥行きと、高耐久ワックスの安定した光沢が混ざり合い、独特の表情を見せていた。
彼は愛車をクロスで包み込むように一回りし、仕上がりを目と手で確認する。満足感が口元に緩やかに広がる――しかし、同時に心には新たな期待が芽生えていた。
「さて、次は何を試そうか。」
二種類のワックスの組み合わせが生み出す未知の艶。その可能性に胸を躍らせ、彼は静かに微笑む。
そして、彼の中で、あの日の言葉が静かに響く。
「これでいい……これがいい。」
洗車中毒者の日常 マレ @marefol
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