『転生賢者の「快適」生活 ~戦闘スキル『0(ゼロ)』だけど、『論理構築(プログラミング)』で全部自動化してみた~』

@Goff_p

第1話

### 第一章:スキル『0(ゼロ)』と、俺の「好き」


気がついた時、俺は「アスベル・フォン・クライナート」(8歳)になっていた。

公爵家の三男。いわゆる「異世界転生」というやつだ。

(マジか……)


前世の記憶——日本という国で、中学1年生だった俺(神代 蓮)は、学校に馴染めず、家で動画とゲームばかり見ていた——も、はっきりと思い出した。

(こっちの世界では、うまくやれるだろうか……)

前世では、結局誰ともうまく話せないままだった。

新しい人生、今度こそ「普通」になれるかもしれない。

そんな淡い期待は、すぐに打ち砕かれた。


この世界は、剣と魔法がすべてだった。

貴族は8歳になると、教会で「スキルの儀」を受け、神から与えられた「固有スキル」を授かる。それが、その者の生涯を決める。


そして、俺の儀式の日。

教会の水晶に手をかざすと、厳かな声が響いた。

「アスベル・フォン・クライナート様に授けられしスキルは……」


ゴクリと息をのむ。兄たちは『聖剣技』や『上級火炎魔法』といった、いかにもな戦闘スキルを引き当てている。どうか、俺にも、みんなと同じような……。


「——『言語解析 Lv.1』、および『論理構築 Lv.1』。以上である」


教会が、静まり返った。

(……え?)

父である公爵が「……戦闘スキルは?」と絞り出すように尋ねる。

神官は、同情するような目で答えた。

「『0(ゼロ)』です」


(……ああ、やっぱり)

前世と同じだ。

俺は、どこへ行っても「普通」にはなれないんだ。


その日から、俺の扱いは「公爵家の落ちこぼれ」になった。

兄たちからは「役立たず」、使用人たちからは「戦闘スキル『0』様」と陰口を叩かれる日々。

(……別に、もう、いいけど)

落ち込んだけれど、心のどこかでホッとしている自分もいた。

兄さんたちみたいに、毎日汗だくで剣の訓練をしたり、誰かと競ったりしなくていいんだ。

俺は、ああいう競争は、昔からずっと苦手だったから。


俺は、屋敷の隅にある書庫室に「逃げ込んだ」。

ここには、前世の動画やゲームの代わりに、膨大な「本」がある。

静かで、誰も文句を言いに来ない。ここが、俺の新しい居場所だ。


俺は、自分の「ハズレスキル」の表示(ステータス)を、改めてそっと眺めてみた。


- 【言語解析 Lv.1】(効果:文章や言葉の構造を分析し、意図を読み解く)

- 【論理構築 Lv.1】(効果:物事の法則性(ロジック)を見抜き、再構築する)


(……これって)

それは、前世の俺が、唯一「好き」だったものに、とてもよく似ていた。

プログラミングで、何かが自分の思った通りに動く、あの瞬間。

どうすればもっと効率よくなるか、どうすれば自動で動くか、それを考えて「モノ作り」をしている時だけは、時間を忘れられた。


(戦闘はダメだったけど……これなら、俺にも何かできるかも……?)


窓の外を見ると、中庭で兄たちが訓練をしていた。

長兄のガントが、大きな『火球』を的に撃ち込んでいる。

(うわあ、すごいパワーだ……)

素直に感心する。

けれど、その魔力のほとんどが的を外れ、無関係な地面をえぐっているのを見ると、なんだか「もったいないな」と思ってしまう。

(あれだけの力、もっとうまく制御できたら、すごいだろうに)

(もっと小さな力で、正確に的に当てる方法とか、ないのかな)

……ああ、ダメだ。また、こういう「効率」のことばかり考えてる。


俺は、眩しい中庭を背に、書庫室の静かな扉を閉めた。

あの場所は、俺の居場所じゃない。

俺の居場所は、ここだ。


俺の「熱意」は、戦いや勝利には向かわない。

ただ、「どうすればもっと快適になるか」「どうすれば自動化できるか」。

俺の「好き」は、全部そこにある。


俺は、書庫室の一番隅にあった、誰も読まないホコリだらけの棚に向かった。

そこに並んでいたのは、兄たちが「役立たず」と見向きもしない本。


『魔術理論 基礎』

『生活魔術入門 ~火おこしから水運びまで~』


「まずは、この『生活魔術』ってやつからだ」

本を自動で取ってくるとか、紅茶を淹れるとか、そういう「モノ作り」ができたら……最高に快適じゃないか?

俺は、久しぶりに胸が躍るのを感じた。

「よし、やってみよう」


俺の「快適な引きこもり生活」のための、静かな「研究」が、今、始まった。

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