雨模様
@tokoyami_morita
雨模様
私はまた雨音と、それに伴うひんやりとした空気に起こされた。窓から差し込むはずだった光は雨雲に遮られ、籠った光が窓から覗いている。就寝した際と何も変わらない部屋がただそこにあるだけだった。どうも雨というものは、人から活力を奪うらしい。比較的アクティブだと思っていた私の体は、体を拭いたタオルのようにずっしりと嫌な重さを帯びていた。私は窓のカーテンを閉めた。そして3回深い深呼吸をしてゆっくりとベッドから降りた。私がどう思っていようと朝はやってくるのだ。冷たい廊下を裸足で歩き、リビングのソファに音を立て座った。もう眠気はどこかへ消し飛んでしまった。こうも寒いと二度寝をしようとも思わない。そんな状態を気付けば5分ほど続けていた。流石に体が冷えてきて、私は立ち上がりキッチン行き、ポッドに水を入れて湯を沸かした。毎日行っているルーティーンである。そして、無意識に行うほど精神と結びついている。コップに白湯をいれ、1口飲んだ。特に美味しいと思いながら飲む訳では無いが、それとなくこうした方が良いと思うからそうするのだ。コップを持ちながらリビングの窓まで歩き、窓を開けた。先程の雨模様と大差のない、どんよりとした雨模様だ。私は雨模様を眺めながら、もう一口白湯を飲んだ。外の景色には近所の山が見える。新緑が美しい山だ。普段から見惚れるほどには綺麗な山なのだが、今日は特にいきいきしていた。雨が降ったからといって、すぐに緑が青々しく見えるという訳では無いのだろうが、私にはそう見えたのだ。その様子は、私の気分と対照的で複雑な気分となった。しばらく眺めてから、窓を閉めた。窓なんて開けなくても山は見えるのに、開けてしまったせいで冷気が部屋に入り込んでしまった。私は白湯を飲み干し、朝食を作る準備に取り掛かった。しばらくして、朝食を作り終えた。私は簡単な朝食しか摂らないのだ。トーストしたパン1枚と、サラダ、そしてはちみつをかけたヨーグルト。いつものようにサラダから食べ始めようとした部屋に、インターホンの音が鳴り響いた。何かを注文したりした覚えがない私は不思議に思い、玄関まで行き、ドアスコープから外を覗いた。しかし外には誰もおらず、特に荷物が置かれているようでもなかった。私の朝食を遮った存在は雨に溶け込んで消えてしまったのだ。そしてもう二度と現れないでくれ。そう思い私は再び朝食を摂った。それから午前ばずっと部屋で小説を読んでいた。読み溜めていた小説を消費できるのは、今日のような外に出れない休日だけなのだ。時々、窓の外を眺めたりしたが、新緑が覗くだけだった。しかし今日は小説の世界に没頭することが出来なかった。それは雨のせいで気分が落ち込んでいることも影響しているだろうが、インターホンが鳴ったことが大きいだろう。朝にあんな出来事が起きてしまうとどうも調子が狂う。そろそろ正午になろうかという時、私は玄関に行きドアを開けた。少し暖かくなってきた生ぬるい空気に、朝の冷気より更なる嫌気を感じた。外には誰にもおらず、荷物もなかったため、いたずらか何かだったのだろうと思い、ドアを閉じようとした時、ひらりとドアの反対側から封筒が落ちてきた。きっと張り付いていたのだろう、落ちてくるまで気が付かなかった。封筒を拾い、中を開けようとしてみたが封がされていて開かなかった。封筒は少し厚みがあったが、重たくはなかった。札束だったら勿論嬉しいが、きっと怖さが勝つだろうから嫌だなと思い、玄関からハサミを取って縁を切った。中からは封筒が出てきた。なにか重要な書類でも入れているのだろうか。しかし、もしそうであれば玄関のドアに貼り付けないかと思い直した。封筒は4時間程野ざらしにされていたせいで、ひんやりとしていた。2枚目の封筒からもまた封筒が出てきた。色も形も変わらない、ただ大きさが小さいだけの封筒が3枚目も4枚目も5枚目からも出てきた。朝のインターホンもこの封筒もなにかのいたずらだろうと、私は次第に怒りが混み上がってきて6枚目の封筒だけ残し、その他の封筒を乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。リビングへ戻り最後の封筒を開けようと思ったが、少し待つことにした。何も起こるはずもないのに、私は何かを待つことにしたのだ。部屋は外の雨の音が小さく響き、それ以外の音はしなかった。少し目を閉じてその空気感を味わってから、私は手に持つ封筒を睨んだ。もし中身がまた封筒だったら、最早そこまで小さい封筒を見ることはもう人生でないだろうから財布に入れて保管しようと思った。そして私は封筒の縁を切った。中からは私の思いとは裏腹に、1枚の写真が出てきた。その写真は少しブレているが、一目見てなんの景色か理解できた。私の部屋の窓から見た景色だ。それも私が見た朝の景色と同じ方角を向いた、よく見覚えのある景色。雨が降っている様子ではないから、今日撮ったものではないだろうから、空き巣だとかそういうことでは無いだろう。しかし、自分の部屋の景色が自分の部屋に届けられるのは不気味であることほかなく、私はその写真を4枚に引き裂いてゴミ箱に投げ捨てた。6枚目の封筒は、小説の栞として本に挟んだ。私はまた少し目を閉じだ。今起きたことを整理しようと思った。しかし、整理するほどのことでもない。ただいま起こったことが全てであり、それ以上はないのだ。一つだけ思ったことを挙げるとするならば、写真に映っていた山々の様子は私の記憶ほど神秘的なものではなく、朝見た雨に打たれる山々がいかに神秘的なものだったかということだった。私はそんなことを思いながら、少しばかり眠りについた。
雨模様 @tokoyami_morita
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