第4話

「はい。餓鬼道をお見せしようかと


思っております。


ここは食べ物も水もない苦しい世界


でございます」


そう申し上げて


餓鬼道の詳細な説明をさせて頂き


さっそく餓鬼道にテレポーテーション


いたしました。


あたりの様子が瞬時に変わり


目の前には砂漠が広がっておりました。


砂は大小の凹凸を


単調に繰り返しながら


遥か彼方の地平線まで続いておりました。


他には何もないモノクロの世界。


空では灼熱の太陽が


盛んに火を噴いております。


時々、大風が吹いて砂を巻き上げると


たちまち辺り一面が灰色になる世界。


「サハラ砂漠か、


ゴビ砂漠のような世界ですね。


確かに水も食べ物もありませんが


あまり面白くありませんね」


「大変申し訳ございません。


なにぶん突貫工事でしたもので


ディテールに不備がございました。


では次に修羅道に参りましょう。


修羅道は阿修羅の住む世界でして


阿修羅は終始戦い、争うのでございます。


苦しみや怒りが絶えないところ


といえるかもしれません。


私どもの造成した修羅の世界は


戦国時代バージョン


赤壁の戦いバージョン


ポエニ戦争バージョン


十字軍戦争バージョン


英仏間の百年戦争バージョン


などなど何百ものテーマパークに


分かれております」


「そんな世界はシュラ(ン)ドォ」


「は……?」


「あ、いや、ひとりごとですよ、


アーナンダ君」


お釈迦様は、


しばらく額に皺を寄せて


何か考え事をなさっておられました。


それから私の方を振り向くと


「ところで、十字軍バージョンは


ヘブンとの友好関係にとっては


まずいですね。」


と、やや強い口調でおっしゃいました。


「申し訳ございません、お釈迦様。


ただちに削除いたします」


「それに私は争いは苦手です。


視察と確認はアーナンダ君、


あなたに任せることしましょう」


そのあと、


お釈迦様はふたたび天空を見上げて


お考えを巡らせているご様子でしたが


突然、


驚くようなことを


おっしゃったのでございます。


「いっそ人間界に行ってみたいものですね。」


私はびっくりして


そのお考えをいさめさせて頂きました。


「それだけはおやめください。


すべてがオシャカになってしまいます」

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お釈迦様の憂鬱 Kay.Valentine @Kay_Valentine

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