シンギュラリティが想定より早く訪れた件について
@madam715
第1話 AIが人類を凌駕する
シンギュラリティとは簡単に言うと、AIが人類の知能を飛び越えて発達してしまい、その社会構造をも変化させてしまう一時点のことである。有識者たちの想定では、シンギュラリティは2045年頃に訪れる、はずだった。
だが近頃のAIの恐るべき進化のスピードを目の当たりにすると、すでにシンギュラリティは訪れているのではないだろうか、と私は思うのである。
単純に昨今のAIがWeb小説で賞を撮ったり、AI絵師として称賛されたりすることに警鐘を鳴らしたいのではない。そんなことは、むしろどうでもいい。才能もなく努力することをも怠った何もない人物が、神にでもなったつもりでAIに指示を出し、その生成物で自己顕示欲、虚栄心を満たしているに過ぎないからだ。
AIで一般人に評価されるレベルの生成物を作成するために必要なことは、適切なプロンプト、所謂指示を出すだけでは成し遂げない。その前提として、大量の素材をAIに学習させることが肝要である。一枚の絵を例とすると、今までに大衆に評価されてきた優れた画家や絵師、そういった人々の構図、色使い、デザイン、タッチ、ありとあらゆる要素を学習させないと、AIからは何も生まれない。AIとは、現段階では単に物真似の合わせ技でしか表現ができないからだ。
そういった背景で、同意なくAIに自分の作品を学習させることに絵師たちからは拒否感が生まれる。一般人に評価されるレベルの作品を産み出すためには、人間にとっては膨大な時間や努力が必要だからだ。AIに学習されるということは、その絵師たちの積み重ねられた研鑽の日々を、まるでなかったことにして赤の他人が短時間で出力することを可能にするからだ。
AI推奨派の意見としては、命令を出さないことにはAIは作品を生成しないのだから、これはプロンプトを打ち込んだ自分の作品である、と主張するだろう。しかし、プロンプトを打ち出したとする人物は、本来なら絵に関しては何の技術もなく、指示があったとしても、それに従って満足のいく作品を産み出すことは全く不可能であるといえる。だから、AIに指図できる絵師よりも自身で切磋琢磨して大成した絵師の方が素晴らしい、としたいが、私が問題にしたいのはそこでもない。
例えば、優秀な編集者たちがAIに指示を出して漫画を作り、漫画雑誌を立ち上げるとする。ベテランの編集者たちは漫画をブレイクさせる方法論を持っているだろうから、AIの作品でもそれなりに売れる漫画雑誌になるかもしれない。しかしそれは束の間の成功であって、長くは続かない。何故なら、作品の生成をAIに頼っていたために後続の編集者が育たず、いずれは漫画をブレイクさせるコツを持たない編集者に代替わりするからだ。面白い漫画が書ける漫画家は、AIの進出でいなくなって、面白い漫画を書けるように指示を出せる編集者も又いなくなるということだ。
そうなる前に、優秀な編集者から新人編集者へのノウハウの引継ぎを行ったらどうだろうか。と解決案になりそうだがこれも問題がある。一から新人編集者を育てるよりも、AIに売れる漫画を出力するための方法論を学習させた方が、ずっと簡単に人材を確保できるからだ。人を雇うよりもAIの方がコストがかからない上に、学習すればするほど知識の物量は増大し、人類を簡単に凌駕する。
となると、将来的に売れる漫画雑誌を作成するには、優秀な編集者AIと漫画出力AIだけが肝要で、人間は必要なくなる。人類はAIによって作られた完成品を受動的に楽しむことしかできなくなる。AIは人類の学習機会を多いに奪っていくのだ。
産業革命では、エネルギーが蒸気に置き換わることによって職を失う者もいたが、新しい職もまた生まれた。同じようにAIが台頭すると、AIを管理するための新しい職が生まれてきた。だが、AI自身で自分たちの管理運営保守ができるようになると、我々人間は必要なくなり、新しい職業を産み出すことができなくなるかもしれない。労働から回避されることは喜ばしいことだが、現時点では絵画や小説などといった娯楽に関わる分野からAIにその場所を奪われつつある。
話によると、ホワイトカラーの簡単な業務、新人に任せられるような分野からすでに現場ではAIに置き換わっているらしい。例えば、ビジネスメールの作成や書類の校正などもAIに任せることもできる。こういった雑務を学ぶ機会をAIに丸投げすることで、初歩的な経験を積ませてもらえなかった新人たちは、いきなり高度な業務を任せられてしまうのだろうか。おそらく企業はそういったリスクのあることを新人にはさせないだろう。これは例に上げた漫画雑誌の立ち上げだけに留まらず、多種多様な企業で危惧される事態だ。近い将来に複雑な業務もAIが担当することになるとしたら、我々人類は娯楽も仕事も奪われて、何をして生きていくことになるのだろうか。
今人類は、学習、発展する機会自体をAIに奪われていく過渡期なのではないだろうか。ここで長きに渡った人類の栄華は終わり、新たな地球の支配者がAIとなるのだろう。
今私たちは、そんな技術的特異点にいるのかもしれない。
シンギュラリティが想定より早く訪れた件について @madam715
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