数年後 娘・葵が高校生になった頃

 葵は、自分の部屋でスマートフォンを閉じ、リビングへ向かった。

 リビングでは、父親の健太と母親の智子が、二人で小さなテーブルを囲み、真剣な顔で何かを書き出している。


それは、彼ら新しい家族の目標」を更新する、年に一度の恒例行事だった。


 高校生になった葵の目には、両親の姿は、「仲睦まじい」というより、むしろ「戦友」のように映っていた。


(葵のモノローグ)


 私の両親は、他の友達の夫婦みたいに、いつもニコニコして甘い雰囲気じゃない。

時々、深く沈んだような沈黙があるし、パパがママに「あの時のことは、まだ完全に忘れられない」と、苦しそうに話しているのを、何度か聞いてしまったことがある。


 両親の間には、私たち家族が知らない、深い「ひび割れ」があることを、私は知っている。

 幼い頃に感じた「かたい空気」は、あれが原因だったのだろう。


しかし、葵は知っている。

 その「ひび割れ」こそが、両親の最も強い絆なのだということを。


 母親・智子

智子は今、以前とは違う、地に足の着いた強さを持っている。

 パートではなく、地域活動で培ったスキルを活かして、小さなNPOの事務を手伝っている。

 彼女はもう、健太の目線や他者の評価で自身の価値を測らない。彼女の瞳には、「私はここにいる」という、確固たる自信が宿っている。


 父親・健太

健太は、「しがない会社員」では終わらなかった。旅の経験で得たコミュニティ作りのスキルを会社で評価され、現在は地域活性化プロジェクトに携わっている。彼は家にいる時、以前のようにスマホに逃げず、智子の目を見て話す。そして、時折智子を抱きしめるその強さは、以前のような「依存的な愛情」ではなく、「赦しと共闘」の重さを含んでいる。

葵はリビングのドアを開け、両親のテーブルに近づいた。


「パパ、ママ、何書いてるの?」


「お、葵か。来年、家族で達成したい『目標』だよ。葵も考えろ」 健太が笑う。智子も微笑み、葵を抱き寄せる。


【新しい家族の目標(今年の項目)】


 お互いの過去を、否定ではなく「歴史」として受け止める。(健太)

葵が高校を卒業したら、二人だけで北欧へ旅をする。(智子)

 夕食時に、一週間のうち一度はスマホをリビングに持ち込まない日を作る。(葵)

 葵は、自分がとても「しあわせ」だと感じた。


しあわせとは、

「完璧な家族」になることではない。両親が傷を負い、それでも逃げずに、毎日を懸命に生きている姿を見ることだ。


 彼女の両親は、失敗を恐れて会話を避ける、偽りの家族ではもうない。


目の前の二人は、一度壊れたからこそ、真の強さを手に入れた、「本物の夫婦」だった。


葵は、その「ひび割れた絆」を、誰よりも深く信頼していた。


   拙い文章を

   御拝読ありがとう御座います。


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ひび割れた絆の再構成 比絽斗 @motive038

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