再会の魔女
シーサル
第1話
「バイバイ!」
あの言葉を最後に私達はもう20年も会っていない。
既に私も35歳となり中学の記憶が薄れて来つつも、その子と暮らした思い出はずっと覚えている。
名前は半澤 橙子。
中学に一緒になり遊んだ最初で最後の親友だ。
とても可愛くて……ちょっぴり羨ましかった。
「……なんで顔か思い出せないんだろ?」
しかし、私の記憶に出てくる彼女の顔にはモヤが掛かっている。
アルバムを見ても卒業したせいかそこに名前はなかった。
どうしよう?
どこに行ったかも分からず私はただ彷徨っている。向こうから会いに来てくれないかといつも考えるがそれが叶った事はない。
この事がずっと脳内に残り私は無気力になっている。
何もかもが嫌になった私は明日、退職届を出そうと思っている。
いつもの帰路、自身の家であるマンションにゆっくりと向かう。
暗い夜では電灯の光だけが手立てだ。
「……?」
マンションに立ち自分の部屋を見上げると扉の前に1人、女性がいた。
それはかの親友に輪郭が酷似している。
その影が私に気づくと扉の前を去っていく。まるで私を避ける様にだ。
急いで駆け上り自分の家の前に辿り着く。
人影の姿はもう見当たらない。
ゼェ……ハァ……
と息を切らしている所、またふと下を見ると人影がある。
おかしい
ようやくそこで違和感に気づいた。
このマンションにはエレベーターはなく一つの階段で階数を行き来する。
つまり道は一つ、上に行ったならまだしも下にいるのはおかしいのだ。
「どうしよう」
唯一見つけた親友らしき人影。
このチャンスを逃せば終わりかもしれない。
ただ恐怖がある。
もしかしたら霊のような存在なのでは無いか……それなら近づきたく無い。
考えた上、出した答えは「追いかける」であった。
幽霊でもなんでも良い、私はなんとしてでも彼女の手がかりが欲しい!
食材を自分の家の前に置いて、また急いで階段を降りていく。
降りると気づいた人影はまた離れようとする。
「まって!」
私は追いかける。
側から見ればストーカーであろうが、そんな事は考えられなかった。
とにかく闇雲に走り続けたのだ。
「やっと止まった」
公園、ようやく人影がそこで止まる。
夜の公園には人がおらず、静かだ。
ヒューと吹く風は少し冷たい。
「……」
その女はようやく私に顔を見せた。
美しいというのが最初の感想だ。異性であれば見惚れていたであろう。
「すみません……人違いでした」
と平謝りで返す。
ようやくこの時、ストーカーとして捕まるのではという恐怖が襲いかかったのだ。
「いえ、大丈夫ですよ。安心してください」
しかし、そんな私の考えとは裏腹に彼女の言葉は優しかった。
いや、優しすぎた。まるで分かっていたかの様に。
「それじゃあ私はここで……」
少し鳥肌を覚えた私はその場から離れようともう一度お辞儀をして彼女に背を向けた。そうして一歩、踏み込もうとした時だった。
「貴方、昔の親友と会ってみたく無い?」
足は止まる。
だが振り向かない。
「貴方は……誰なんですか?」
「私は、メアリ」
「そういう事ではなくて……あの、失礼なんですが……」
「魔女よ」
ブルッと体が震える。
「なんとなく、貴方も分かっていたのではなくて?」
「……」
私はようやく彼女の顔を見る。
「あえ……るの?」
「勿論、私は魔女だから」
髪が揺れる。
体はまだ震えたままだ。
「その代わり、こちらから出向く必要があるわ」
「こちらから?」
「そう、向こうにも事情があるから」
コクリと頷くと、相手は手を前に出す。
ポンッ
とどこからか箒が取り出される。
「乗りましょう、大丈夫よ。安全だから」
そんな超常現象。
いつもなら信じれる筈もないが、私は不思議と信じきった。
スンと納得してしまったのだ。
2人が箒に乗ると、下から風が吹き出し浮き上がる。
「じゃあいきましょうか」
箒はゆったりと上空を浮かびながら進んでいく。
「こっち方面にいるの?」
「そうよ、貴方の親友がね」
ゆったりと進む箒はある一点で止まった。
「ぇ?」
そこは私の家であった。
「ここに……居るわけないじゃない!」
「……」
魔女に引っ張られてゆっくりと自分の家へと足を踏み入れていく。
「一体どういう……」
魔女はある棚を開けようとした。
「ダメ!」
その瞬間、私は魔女の目の前に立つ。
「あら、どうして?」
「ここは……何故か分からないけど駄目!開けようとすると……いや開けられないの!」
魔女はクイっと人差し指を上げると私は浮く。
そして魔女の横へと移動してしまった。
「ダメ!」
ギギッ
開けた先、そこにあったのは一枚の写真であった。
「あっ」
そこに私と映る女の子……そして挟まれた1人の男。
そこでモヤがかかっていた顔がハッキリと映し出される。
「」
橙子、私の親友。
彼女はまた会おうねという声を最後に……
死んだのだ。
時は中学生、3学期。
私達2人は大親友で……共にあるプレゼントを買いに来ていた。
「勝っても負けても恨みなしだよ」
「うん」
2人はクマのぬいぐるみを買う。
これは彼へのプレゼントであった。
「町田 東」
私達2人が大好きな男だ。
親友だった私達はその彼が好きだったのだ。
橙子は学校の男子のアイドルだった。
町田もまた女子のアイドルであった為、皆からはお似合いだと言われていた。
そう、私の勝ち目は無かった。
「このぬいぐるみを渡そう。それから……それぞれ告ろう」
「うん……」
私は前日からある計画を立てていた。
「彼女を殺す事」
計画は一瞬で決まる。
ただ交差点で車が来るのに合わせてこっそり押し出す。
ここは有名どころで人も多い。誰が押したかも分からないはずだ。
例の交差点に辿り着く。
人は多い。押せば殺せる。
私は交差点で彼女を……
押し出さなかった。
押せなかった。
彼女はこんな私でも救ってくれて友達になってくれた。
そんな彼女を押し出す事なんて出来なかったのだ。
「なんで泣いてるの?」
「ううん、なんでも無い」
いいじゃないか。
彼と付き合っても。
私はまた次にまた好きな人を作れば良いじゃ無いか。
切り替えて街を歩いていく。
「じゃあね!」
「うん!」
その時であった。
「おい!」
「えっ」
そこに包丁を持った男が現れたのだ。
「なっ」
「橙子、お前町田に告るんだろ?俺の告白を断ったくせに!」
佐々木という男。
前に橙子に告白した男だ。
「なんでそんな事を……あっ」
私は思い出す。
佐々木に一緒に告るという事を告げたのだ。
つい口が滑って……
「やばい!」
私は焦った。
私があんな事を言ったばかりに彼女が命の危機に立たされる事を。
だが、そんな私を止める。
「えっ?」
「私、こんな時のために護身術習ってるから!」
嘘の言葉であるのは明確だった。
それでも……私は死への恐怖から逃げる様に彼女に任せてしまった。
ザッ
「俺はやってない!俺は!」
去っていく彼。
刺されて倒れ込む橙子。
「橙子……橙子……」
「ごめんね」
「あぁ」
「町田くんと付き合ってね、私の代わりとして」
「……」
「バイバイ」
そうして彼女は私の元から消えた。
天国へと旅たっていったのだ。
後日、彼女の死が皆に伝わりあの男は捕まった。
皆悲しんだ。皆元気がなかった。
1ヶ月後、皆が治って来たところに町田が私の元に来て
「好きだ」
と言った。
どうやら彼が好きなのは橙子ではなく私であったらしい。
「……」
全て、魂が抜けた様に私は絶望した。
「そう、君は記憶をなくなっていた。彼女は既に」
「辞めて!」
そういう私にお構いなしに魔女は告げる。
「死んだ」
「辞めてってば!」
「辞めない」
「何故!もう嫌なの!私は嫌なの!」
唸る私に魔女は告げる、
「生きて」
「え?」
「貴方の人生を生きて、私になんて囚われないで……」
「それが……彼女が今君に伝えたい事だ」
「一体どう言う……彼女はもうッ」
魔女は帆を緩ませて笑顔を見せる。
その笑顔には見覚えがあった。
「ねぇ待って……まさか貴方、橙ッ」
「バイバイ」
全てを言い終えた彼女は消える。
ポツンと私だけが残る。
「そうなんだね……」
「そうなんだね、貴方も生まれ変わって仕事をまっとうしているんだね」
私はそこに置かれた出す予定の退職届を破く。
「生きるよ、私の人生を」
彼女の目は希望に満ち溢れていた。
再会の魔女 シーサル @chery39
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