エピローグ:後の事はもう大丈夫だから

 ありがとう。そしてごめんなさい。

 あなたが持つペンダントを介してしか声を届けられなかった。

 あなたにしか力を借りられなかった。

 QCの企みを知った時、私に追っ手を差し向けてきた。

 けど、QCに抵抗したトオミネ博士がどうにか転移装置で逃がしてくれたの。

 隠れ潜みながら研究を続ける中、事故に遭ってしまった。

 反位相エネルギーを生み出す壱型タイプワン鉱石を精製した時の爆発で私は瀕死の重傷を負ってしまったの。

 誰にも助けを求められない中、私は賭けに出た。

 意識をデータ化することで、ネットワークの中でどうにか生き延びようとした。

 賭けには成功した。

 同時に、肉体をQCに奪われてしまった。

 実験体を奪った当てつけもあったのかもしれないわ。

 ペンダント――転移装置を介してあなたの意識とヒーローのデータを転写させ、別なる肉体に定着させた。

 もう一度、お礼を言わせて、ヒーロー。

 世界を、義妹ミカを救ってくれて……。

 今度はあなた自身が、新たな世界で夢を叶えてね。

 後の事はもう大丈夫だから。


   ―――――――――――――――――


壱型タイプワンなる七晶石ゲミンニュウム、量産に成功』

『新たなギア、Eギア、虹死病イリーテムを完全克服』

『<パイエオン>代表、Vギア同様、Eギアの利権を完全放棄』

『レベル四患者、Eギアにて人間の完全回復を確認』

『元レベル四患者の受け入れ処遇を各移動都市は協議』

『世界を救った英雄ストームJ、半年経とうと行方未だ掴めず』

『死亡速報を打った新聞社に<パイエオン>抗議!』

『青き人型ロボットを誤認か!』


「ふう」

 ミカは執務室で一人、事務作業に追われていた。

 本音を言えば、患者の救済に赴きたくとも時勢が許さない。

 発端は、義姉リリ名義の電子メールで送られてきた設計図。

 Vギアを超え、虹死病イリーテムを完全克服させるエリクサーElixirギアたる設計図だ。

 基本構造はVギアと変化はなく、既存の部品を流用出来る。

 ただ効果を十全に発揮するには、壱型タイプワンなる七晶石ゲミンニュウムが不可欠だ。

 残念なことに、この鉱石は自然界には存在しない。

 Eシステム使用後のダブルが排出する鉱石こそ、まさに壱型タイプワンであった。

 一つあれば、鉱石が元来持つ、他の地下資源を浸食する特性を利用して量産できる。

 Eシステムを応用したEギアは、レベル四患者や野生のイルクスをレベル0の人間に戻す奇跡を体現した。

 イルクス減少と関係しているのか、外界の平均温度が三五度にまで下がっている。

 連動して、虹災の発生頻度も低下しつつあった。

 温度上昇と惑星爆発が連動しているならば、一年以内に起こる爆発は大丈夫かもしれない。

「少し、休憩しましょうか」

 おもむろに席を立てば、コーヒーメーカーからコーヒーをカップに注ぐ。

 ふと部屋の外が騒がしくなる。

 端末がやかましく鳴り響く。

 慌てず、ゆったりと、もう一つ、空のコップにコーヒーを注ぐ。

 そうして、ドアが外からゆっくりと開かれる。

 ミカは、精いっぱいの笑顔でを出迎えた。

「ふたりともおかえりなさい」

 義姉リリもまたどこかで生きているだろう。

 もしかしたら予測できない形で再会するかもしれない。


       ―――――――――――――


 幼なじみホムラの部屋にノックは無用!

「ホムラ、あんた時間!」

 ツバサは問答無用でドアを外から蹴り飛ばした。

 椅子に背中を預けて眠りこけていたホムラは、ツバサの声に驚き、椅子ごと倒れこんだ。

「痛った~!」

 背中を抑えながら悶絶するホムラ。

 のぞき込んできたツバサは呆れた顔で壁掛け時計を指さした。

「あ、嘘! 今何時! 飛行機! バス! ラスベガス!」

 時計を見るなり、我に返ったホムラは飛び起きる。

 部屋を飛び出そうとした。

「ミーロー忘れているわよ! あんた、これがないと大会出られないでしょうが!」

 机の上には青きフィギュアが新たな装いとなっていた。

 これから赴く大会のために時間が許す限り、作り込みと改良を重ねたのだ。

「まさか、あのホムラが世界大会にまで行くなんて」

 感慨深く、ツバサは、うんうんと頷くしかない。

 誰が勝ち進むのを予測したか?

 予選のバトルロイヤルでは逃げまどう情けない姿を晒しながらも、本戦では嘘のような奮迅怒濤の活躍にて前代表を破る。

 前代表が勝つとされた下馬評を覆した。

 第一八回ミーロー世界大会に駒を進めたダークホースとして、ホムラは注目の的だ。

「へ~ベルトの部分、変えたんだ」

 素人目で見て、フィギュアに大差はない。

 バックル部にVの字を二つ重ねたような装飾が追加されている。

 Vの字の隙間からは、目のような丸っこい部位が見える。

 なんか、かわいい。

「ダブルっていうおしゃべり相棒。二人揃うことでストームJWジョーカーダブルに変身できるんだ!」

 身支度をするホムラから声がした。

 着替えを終えれば、机の上にあるフィギュアを丁重な手つきで専用ケースに収納する。

「Vが上下にふたつ重ねてあるからダブルね」

「違う違う、win-winウィンウィンの持ちつ持たれつって意味のダブル。大会前までにどうしても、この相棒だけは形にしたかったんだ」

 ホムラの声は嬉しそうに弾んでいる。

「あんた、変わったわね。ん~予選の停電トラブル以来かしら?」

 以前より胸を張るようになった。

 口調はハキハキしだした。

 どこか逞しくなった。

 これはもしかしたら、ご先祖様のペンダント効果かもしれない。

「停電の時に、夢を見たんだ。いや夢だけど夢じゃないかもしれない」

 歯切れは悪いが、ホムラは止まらない。

「地球からはるか遠い惑星ガデンって星で、僕はストームJとなって、病魔に抗う人々を守り、相棒と戦うんだ。驚くことに、そこにはご先祖様が――」


<終>

    ―――――――――――――


これにて<Jの名は>完結!

あ~また書いた書いた。

あれこれ追記して10万文字は軽く超えていたのに、最後の最後まで、ご拝読頂き、感謝しかありません。

この作品は、これで完結ですが、今後とも応援、イイネ、レビューをお待ちしております。

では次なる作品でお会いしましょう。

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その名はJ! こうけん @koken

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