最終話~夕方室内~

警視庁捜査一課のデスクには、俺は一人、窓から外を眺めている。


事件は無事に解決をし、捜査本部も解散された。


あのような哀しい理由を秘めて、殺人を犯す女性の心情。


俺は痛いほど分かる。


亡き親友の弔いも込めた復讐。


一人の刑事としてあるまじき感情が湧き上がってくる。


俺は黙りながらも外を眺めていると


「警部」


後ろから丸山が声をかけてきた。


「なんだいたのか」


「一応報告書を作らなければならないので」


「そうか」


「先ほど。一ノ瀬みどりが全てを話してくれました。やはり警部の推測通り、マンションに侵入をし、二十階で降りたのも我々への挑戦状を込めた行動だったみたいです」


「そうか」


「ですが、一つ気になることがありまして」


俺は後ろを振り返り


「なんだ」


「どうして、一ノ瀬みどりは姉と同じ会社に勤めたのか。それも一ノ瀬みどりは前の会社を辞めて中途採用です。それがどうも気になって聞いてみたのですけど、中々」


「俺は分かるな」


「え?」


「恐らく事件を計画したのは姉だろう。どうだ」


「そうです。姉である二ノ瀬かおるから計画の相談を持ち掛けられたと」


「だろうな。二人とも会社は別だし、住んでいる家も別だ。そうなると頻繁に会える場所となると」


「会社」


「そうだ。だからわざわざ前の会社を辞めて、テレビ局に中途で入ったんだ。もし仮に一ノ瀬みどりが計画を持ちかけられたら、恐らく逆の現象が起きていただろう。それが姉妹の強い絆というものだ」


そう言って自分のデスクに腰を掛けた。


姉妹はそこまでして殺人を犯したかったのか。


姉は自ら命を絶ち、その心臓を妹に移植をして、計画を遂行した。


刑事の一人として俺は理解が出来ないが、それでも起きてしまった事実は拭うことは出来ない。


俺が想像していた事実が結末として反映するとは、刑事としては致し方ないことだが、それでも何ともモヤモヤする終わり方だ。


すると丸山が


「それより、被害者は相当な男だったみたいですね」


「え?」


「井上まどかの他にも多数の女性と交際をしており、連帯保証人を組ませています」


「それほど金に困っていたのか?」


「会社で得た報酬のほとんどは、ギャンブルで消えていたそうです」


「相当だな」


既に亡くなっている人間にあまり追及はしたくないのだが、ギャンブルは人生を簡単に崩すことが出来る。


それがどんな誠実な人間であろうともだ。


遊び感覚が仇となることもある。


それがギャンブルだ。


「なぁ丸山」


「はい」


「刑事になって正解だったか?」


「警部はどうなんですか?」


「俺か?」


「はい」


「俺はもちろん、正解だと思う」


「良かったです。自分も同感です」


「刑事は色々とこうして謎を解かなければならない。それがたとえ哀しくて重い過去だったとしてもだ。刑事は辛い仕事かもしれない。でも、それが国民の命と安全を守る第一歩だ。そう思うと、あながち刑事としての仕事を選んだことに後悔はないと思っている」


丸山は微笑みながらも


「同じ気持ちです」


俺は立ち上がってから


「よし、飲みに行くか」


「え? 今からですか?」


「報告書なんていつでも書けるだろ」


そう言って、腕を掴んでから飲みに行くことにした。


俺の行きつけの焼き鳥屋があるのだが、そこが俺は世界一美味い店だと思っており、初めて通ってから、いつの間にか十年近く通っている。


是非とも丸山にも紹介をしておきたい。


俺はそう思いながらもデスクを後にすることにした。


誰もいない捜査一課のデスクにはオレンジ色の光だけが照らされているだけであったのだ。



~終~

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復讐のふたり~島田警部シリーズ~ 柿崎零華 @kakizakireika

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