香織☆無双
籠目
第1話 祟り神に喧嘩を売る
〜オンボロ神社〜
山裾の細道を秋風がざわりと吹き抜ける。朽ちかけた鳥居の前で、香織は足を止めず両手を腰に当てた。
「なにこのボロ鳥居。ただの廃墟じゃん」
大学三年。キャバとコンビニの掛け持ちバイトで生きる女、香織。怖いもの知らずで毒舌家。酒とタバコが友達。
同僚たちは鳥居の前で立ちすくむ。注連縄はほつれ、狛犬は片方の頭が欠け、参道は苔だらけ。
「ヤバいよ香織、ここ”祟り神”がいるって!」
「ふーん。じゃ出してよ。暇つぶしに絡んであげる」
同僚は逃げた。香織はタバコに火をつける。
「……さあ、出てこいよクソ神。ヒール折ったら弁償な?」
拝殿の鈴がカランと鳴る。冷たい風。
『……無礼者』
低い声。香織は煙を吐き、顎をしゃくる。「やっと登場? 顔見せろや」
〜夜の訪問者〜
風呂上がり、ビール片手でYouTube。
――パチッ。電気が点滅する。
「蛍光灯の寿命か。クソだな」
次の瞬間、冷気が部屋を満たす。テレビにノイズ。黒い影。
『……見つけたぞ』
テレビから黒い手が伸びる。香織はポテチをかじりながら振り向く。
「あーはいはい。昼間のクソ神か。遅いんだよ」
影が怒りに震え、部屋を暗闇で満たす。天井から目玉、壁から手。
『恐怖せよ……そして我に跪け』
香織はポテチの袋を投げ捨て、ニヤリ。
「は? 出張費請求してんの? 家賃割り勘しろや」
祟り神、硬直。
〜逆ギレ香織〜
数日後、怪奇現象連発。冷蔵庫を開ければビールが腐った井戸水。トイレの鏡に「呪」の血文字。バイトのレジでお釣りが小銭999枚。
香織の反応は――
「焼酎残ってるからセーフ」
「血文字? 後輩の字よりキレイじゃん」
「小銭999枚? 貯金箱パンパンできるわ、ありがと」
祟り神は頭を抱える。
『なぜだ……! 何故怖がらぬ!』
「祟りって嫌がらせでしょ? 半端なことするからナメられんだよ」
タバコを吹かし、ニヤリ。逆転完了。
〜祟り神、心折れる〜
数日後、香織の部屋に祟り神が居座る。黒い煙の塊がちゃぶ台の前に座り、ため息。
『……千年この地を祟ってきたというのに……』
「うるせーな。で、名前は?」
『名など不要。人は我を”祟り神”と呼ぶ』
「は? ダセぇ。あだ名つけてやる。“クソ影”」
『ぐはぁっ……!』
香織は祟り神を買い物に連れ出したり、バイト先に同伴出勤させたり。
バイト仲間から「黒い彼氏できたんすか?」
祟り神は己の存在意義を見失いかけた。
〜最後の祟り〜
ある晩、祟り神は全霊を振り絞る。
『今宵、千年の呪いを下す!』
空が裂け、稲妻がアパートを直撃。黒い瘴気が町を覆い、巨大な鬼面が現れる。
『跪け! これぞ祟りの極み!』
香織はソファで冷凍チャーハンをチン。
「……うるせぇな。夜勤明けなんだよ」
鬼面の圧力が部屋を揺らす。
窓ガラスが割れ、家具が吹き飛ぶ。
香織はチャーハンを一口。
「味薄っ。塩取れ」
祟り神は思わず従い、塩を渡す。
「サンキュー」と笑われ――神、完全に心折れる。
〜喧嘩の果てに〜
数週間後、祟り神はちゃぶ台の前で塩むすびを握る。
『……何をしているのだろう』
「おにぎりうまいじゃん。コンビニよりイケる」
香織はタバコを吹かす。
「悪さばっかしても誰も相手してくれねーんだよ。でも誰かと飯食えば案外悪くないだろ?」
祟り神は黒い煙の中で苦笑いのような形を見せた。
こうして、“祟り神に喧嘩を売った女”として、香織の伝説が増えた。
~完~
香織☆無双 籠目 @kagonome
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