いつもの場所に 君の影

cotocoto

第1話

あたりまえの匂いがする場所だった

幼馴染の親友の隣には いつも私がいて

私の隣には いつも親友がいた

空気みたいに自然で

深く息をするみたいに安心できる

世界で一番 居心地のいい場所

教室の窓際 昼休みのベンチ 図書館の奥まった席

どこでもそこが私たちの指定席

特別に言葉を交わさなくても

隣にその体温を感じるだけで

すべてが満たされていた

親友の隣に座っているのが 当たり前の私の風景

あの日 信号の青が私たちの運命を分けた

呆気なかった 嘘みたいだった

世界から色が消え 音が遠ざかり

最後に残ったのは 隣に感じるはずの

温もりの喪失という 永遠の冷たさ

親友が居なくなってから

私のいつもの場所は 悲しい場所になった

隣は空席

光が射し込むはずの空間は

君のいない影で 深く澱んでいる

それでも私は 座り続ける

この空席が 私の いつもの場所

君の残り香を探すように

まだそこに君の笑顔があるような気がして

隣を見れば

君がいつも置いていたペンケースがあるみたい

君が読みかけの文庫本のしおりが 揺れているみたい

幻だと知っている

それでも 立ち去れない

ここを離れてしまったら

君との日々まで 遠くへ流れて行ってしまいそうだから

座り続ける 私の いつもの場所

悲しみと愛しさが混ざり合い

涙と微かな笑みが 滲む場所

君の魂が一番近くに寄り添える

と信じている 私だけの聖域

いつか隣に誰かが座る日が 来るのかもしれない

でも 今はまだ 君の場所

空席はただの空白ではない

それは 君という存在の 確かなる余白

私は今日も いつもの場所にいる

君との永遠の約束を 守り続けるように

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