文化祭、君と僕

山口甘利

文化祭、君と僕

 一花と付き合ってから約2ヶ月が経った。

 自分で言うのもなんだが、相変わらずラブラブだと思う。

 今まではバイト以外、会うことはなかったけど、最近はバイトがない日も会うようになった。映画に行ったり、ボウリングに行ったりしている。この時間が何よりも幸せだ。


 10月になり、文化祭の季節がやって来た。

 僕の学校は他校の生徒が入ることができないため、一花と回ることができなかった。

 でも、一花の学校では、誰でも入ることができるらしい。

(一花:私のとこの文化祭一緒に回らない?)

 そうLINEで誘われ、もちろん行くことにした。

 文化祭デート、まるで夢みたいな話だ。


 何かがある日の前日はあまり眠れない。文化祭前日も。

 あまり行ったことのない土地で、戸惑いつつもなんとか一花の学校に着くことができた。

 周りを見渡すと、見たことのない制服の子たちや、僕と同じような他学校の生徒や、普通の一般客までたくさんの人が歩いていた。

 校門には、「〇〇高校文化祭」と書かれ、スピーカーからはクラスの出し物を紹介するアナウンスが流れている。僕は文化祭に来たなあと実感する。

 約束していた池の前のベンチに着くと、一花はもうすでに着いていた。

 校舎から少し離れたこの場所には人がいなかった。

 何度見ても優しいその笑顔と、大きな瞳。少し顔が熱くなる。

「ごめん、ごめん、待たせたよね。」

「全然そんなことないよ。今日はここまで来てくれてありがとっ。迷わなかった?」

「まあ、ちょっとだけ?」

 そう言って少し笑うと、可愛いーと言いながら腕に抱きつく。一花の方が何百倍も可愛いのに、照れくさくて言えない。

「じゃあまあとりあえず行こっか。」

 一花がそう言って背筋をピンッとした。

「うん。一花は何か役割とかないの?クラスで出し物してたって言ってなかったっけ?」

「あーそれは大丈夫。じゃんけんで勝ったから。」

 そう言い、一花はドヤ顔をする。それを見て微笑んでしまう。

「なにーー」

 一花は体をぐらぐらさせる。僕もクラゲみたいに力が抜けてフニャフニャとなった。少し変な例えな気もするけど。

「いや、やっぱ一花可愛いなって思ってさ。」

 口に出すのは恥ずかしい。

「もー恥ずかしい。」

 そう言って一花は僕の胸に飛び込んだ。僕よりも小さい位置にある頭をくしゃくしゃと撫でる。一花は恥ずかしそうに顔を上げ笑顔で微笑んだ。

「ほらほら、そんなことしてないで早く行くよー。」

 一花を抱きしめたまま、少しずつ歩き始めた。少しすると一花はムッと口を膨らませて、横に並び、手を繋ぎ始めた。こんな些細な行動さえも可愛いと思ってしまう。

「どこ向かってるの?」

 どこへ向かっているのかわからず、一花に聞いた。

「それは秘密。もう着くから分かるよ。」

 ふーん、と言い、一花に着いていった。

 校舎に入り、2階に上がり、少し進んだ教室に入ると飲み物が売っていた。

 そして、そこには同じバイトをしている青山なぎさもいた。

「えっ?なぎさ?」

 横にいる一花に聞いた。

「うん。同じ高校って最初言ったじゃん。やっぱり忘れてたよね。」

 そう言ってくすくすと笑っていた。


 前の人が飲み物を買い終わり、順番が回ってきた。

「あ、ラブラブたちが来たじゃん。」

 ニヤニヤした顔でなぎさはそう言った。

「まーねー。なぎさちゃんはいつまでここ?」

 横で一花がそう聞いた。

「うちはあと30分ぐらいで交代。一花は?」

「私は仕事なしだよ。」

 ちょっとドヤ顔で一花は言った。

「えーいいなーまあ2人でデート楽しみな。今年は結構すごそうだし。」

 確かによく見るとここの文化祭はすごそう。屋台は、からあげ、フランクフルト、焼きそば、ポテト、デザート系もあるし、写真スポットもあるらしいし、お化け屋敷もあるらしい。人が多いからできることも多いんだと思う。

「うん、ありがとっ。じゃあ飲み物頼んでもいい?」

「あっ、うんうん。これがメニューね。」

 そう言った物の2人はまた、違う話が始まった。今は後ろに誰もいないから話が長くなりそうだ。


 午後16時。午前中はそれほど人が多くなく、すんなりと大体の出し物を回ることが出来た。

 何もすることがなくなり、一旦集合した池のベンチに戻ることにした。

 相変わらず、ここに人はいなかった。

「ふー疲れた。で、この後どうする?」

「この辺に何かあるならそこ行こうよ。ここら辺のことよく分かんないし。」

 うーん、と言いながら少し考えていた。

「あ、あそこが良いかも。砂浜とかどう?」

 確かにここは海が近かった。電車で来る時も、キラキラ光る海が見えていた。

「良いじゃん、そこ行こっ。」

「うん!」

 校門を出て、海へと歩き始めた。少しずつ学校からの声が聞こえなくなり、車の音だけが聞こえるようになっていった。

 いつの間にか秋が終わりに近づいていたのか、きれいな落ち葉が落ちていた。

 2人の繋いでる手に、ふわっと冷たい風が吹いた。

 手をぎゅっと握り直す。天使のような笑顔がこっちを見て、笑った。


 15分ほど歩くと、海が見えた。

 靴を脱ぎ、砂浜を歩き、海の近くに座った。

「今日、来てくれてありがとう。」

「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。こんなに楽しかった文化祭初めて。」

「蒼空君の学校の文化祭楽しくなかったの?」

「いや、別にそんなことなくて…一花と一緒に回れたからに決まってんじゃん。」

 恥ずかしい。

「もー私もっ!」

 頬を膨らませながらも、顔が少しだけ赤い。一花もきっと僕のことを好きでいてくれていると少しだけ確信する。

 こんなにも照れくさい会話をする時間が何よりも好きだ。


 今日の出来事をたくさん話している内に、いつの間にか空は夕焼けに染まっていた。

 赤いような、オレンジのような、きれいな色をした空が広がっていた。

「あっ、そうだ。思い出に写真撮ろうよ。」

 一花はそう言ってスマホを取り出した。きれいな海と夕景を背景にして。

 スマホを掲げ、シャッター音が響く。また、大切な思い出が増えた。

 撮った写真を送ってもらった。見ると、2人の笑顔は夕陽に照らされ輝いていた。そして、幸せそうな笑顔だった。

「ね、これおそろで待ち受けにしようよ。」

 そう提案した。

「良いじゃん。しよしよ。」

 一花は嬉しそうに背景に設定した。その笑顔を少しだけ横目で見ていた。やっぱり可愛い。

「おそろー。」

 お互いのスマホを見せ合い、そう言い合った。

 

 オレンジ色の夕陽が照らす僕たちは、世界で一番幸せだ。

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文化祭、君と僕 山口甘利 @amariyamaguchi

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