ハロウィン電車と のびる道

霜月あかり

ハロウィン電車と のびる道

十月の終わり。

街はカボチャのランタンやコウモリの飾りでいっぱい。

夜になると、どの家からも楽しそうな笑い声が聞こえてきます。


その晩、駅のホームに立っていたのは、小学三年生の カイ。

魔法使いの帽子をかぶり、マントをひるがえしていました。

「ママ、ほんとに来るの?」

「きっとね。去年も“ハロウィン電車”が走ったって、駅の人が言ってたのよ」


ママがそう言い終わると、

――しゅぽんっ。

霧のような音とともに、あたりにオレンジ色の光が広がりました。


ホームの向こうに、かぼちゃランタンをつけた電車が止まっていたのです。



---


「のってみる?」

ママの言葉に、カイはドキドキしながらうなずきました。


扉が開くと、中には仮装した乗客たち――魔女、吸血鬼、オオカミ男、それから黒猫の親子まで。

「トリック・オア・トレイン!」

乗る人たちは笑いながらチョコを交換しています。


電車が走り出すと、車窓の外に不思議な光景が流れました。

街の灯りが遠のき、かわりにランタンの森、キャンディの丘、チョコレート色の川――。


「わあ……ハロウィンの国みたい!」

カイは目を輝かせます。



---


そのとき、車掌さんがやってきました。

帽子の先に小さな星が光る、魔法の車掌です。


「こんばんは。ようこそ“ハロウィン延伸線”へ」

「えんしん線?」とカイ。


「そう。この電車はね、ハロウィンの夜に“想い”があるところまで、線路をのばす電車なんだ」


「想い?」

「うん。誰かに“会いたい”とか、“伝えたい”とか。そういう気持ちが線路をのばしていくんだよ」


カイは考え込みました。

――ぼく、だれに会いたいんだろう。



---


電車は夜の空をすべるように走りつづけました。

やがて車窓の外に、月明かりに照らされた古い駅が見えてきました。


看板には「おもいで駅」と書かれています。


カイが降り立つと、そこにいたのは――

やさしく微笑む、おばあちゃんの姿。


「おばあちゃん……!」

去年の春に天国へ旅立った、大好きなおばあちゃんでした。


「カイ、大きくなったねぇ。今日も仮装してるの?」

「うん! 魔法使い!」


おばあちゃんは笑いながら、カイの帽子をそっと直してくれました。

「ハロウィンはね、“ありがとう”を伝える日でもあるのよ」



---


気がつくと、電車の鐘が鳴っています。

そろそろ戻る時間です。


「もう行かなきゃ……」

カイが言うと、おばあちゃんはポケットから小さな袋を差し出しました。

中には、星型のボタンがひとつ。


「このボタンを見たら、思い出して。

人の想いは、いつだってのびて、ちゃんと届くの」


カイはうなずき、袋を胸にぎゅっと握りしめました。



---


気づくと、カイはホームでママの隣に立っていました。

ハロウィン電車の姿は、もうどこにもありません。


けれど、夜空を見上げると――

星が線のようにつながり、まるで遠くへと「のびる道」を描いていました。


ママがつぶやきます。

「……見て、あの星。まるで線路みたいね」


カイは胸の中のボタンをそっと握りしめました。

「うん。きっと、おばあちゃんのところまで、つながってるんだ」


夜風がやさしく吹き抜け、街のランタンがひとつ、またひとつ灯っていきます。

ハロウィンの夜の“延伸線”は、今日も誰かの想いをのせて――

静かに、空の向こうへ走りつづけました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハロウィン電車と のびる道 霜月あかり @shimozuki_akari1121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ