絶影のキス~幽霊彼女と蘇生のバトルロイヤル~

桐ケ谷アスナ

霧化する愛と嫉妬の刃

神谷蓮は、アクション俳優だった。

生身でスタントをこなし、映画のヒーローを演じていた頃、撮影現場近くのカフェで佐伯美咲と出会った。 美咲はカフェの店員で、いつも明るい。

「ヤッホー、いらっしゃい! 蓮さん、今日もコーヒー?」

蓮は無口に頷くだけだったが、彼女の笑顔に惹かれていった。

何度か通ううちに話すようになり、付き合い始めた。

掴みどころがないけど、それが魅力だった。

甘党で、コーヒーは苦手。いつも甘いカフェオレを飲んでいる。 一回目のデート

水族館。

美咲が水槽の前で跳ねる。 「見て見て、この魚、蓮に似てるよ!」

蓮は苦笑い。

「俺、そんなに目がでかいか?」 夕方、観覧車でキス。

美咲の頰が赤い。

「また、次もデートしようね!」 二回目のデート

土曜の午後、商店街は賑やかだった。

蓮は美咲の腕に手を添えて歩く。 「蓮、次はアクセサリー屋さん!」

美咲の声が、弾む。 蓮はポケットの指輪を握る。

今日、プロポーズするんだ。 ベンチに座り、カフェオレを分け合う。

美咲が急に立ち上がる。 「ちょっと飲みすぎたわ。トイレ行ってくる」 蓮:「えっ、飲みすぎたって……どれぐらい飲んだんだ?」 美咲:「500ml、二つ」 蓮:「……さすがに飲みすぎだろ」 美咲:「でしょ? すぐ戻るから、待ってて!」 蓮は頷いた。

——それが、最後の会話だった。 30分経っても、美咲は戻らない。

蓮はスマホを握り、商店街を歩き回る。 廃工場の裏手。

悲鳴が聞こえた。 蓮は走った。

鉄扉を蹴破る。 バラバラの死体。

手、足、胴体。

美咲の指輪が、血溜まりに浮かぶ。 「美咲……!」 暗闇の奥。

光が浮かぶ。 美咲の霊体が、ゆっくり現れる。 蓮は目を擦る。

「なんで……俺に、見えんだよ……」 美咲は、軽く手を振る。

「ごめんね。ここで、死んじゃったんだ」 蓮は息を飲む。

「誰に……誰に殺されたんだ?」 美咲の表情が、暗く沈む。

「……男の声だった。低くて、冷たくて……忘れられない」 蓮は拳を握る。

——男か。必ず見つける。 蓮は俳優を辞めた。

表向きは探偵事務所を開き、主に浮気調査や人探しを請け負う。

裏では、美咲と一緒に、美咲を殺したやつの跡がないかを探していた。 「蓮、今日も張り込み?」

「浮気調査だ。……ついでに、美咲を殺したやつの跡がないかを探す」 美咲は蓮の肩に手を置く。

蓮はぞくりとする。

「ほら、こうやって触れられるんだよ。幽霊だけど、便利でしょ?」 蓮は頷く。

「確かにそうだな。触れられるし、便利だよな」 美咲がくすくす笑う。

「でしょ? 私、最高のパートナーだよ」 蓮も小さく笑った。

こんな和やかな会話をして、美咲を殺した犯人を一緒に探す毎日を過ごしていた。 そんなとある日、事務所に封筒が届いた。 能力者バトルロワイヤル。

殺し禁止。気絶で勝利。

勝ち抜けば主催者戦。

勝利で「願い一つ」。 蓮は、美咲を見る。

「叶えられる願いは一つか……なら、決まってる」

「美咲、君を蘇らせる」 美咲は目を丸くして。

「えっ? 本当に? ……嬉しいけど、怖いよ」 廃工場跡。

参加者7人(蓮+6人)。

蓮はアクション俳優時代のおかげで、生身でもかなり戦える。 1回戦 vs 炎使い・火野 剛

パートナー幽霊:炎の剣に変わる元ヤクザ。 剛は組を裏切られ、家族を失った。

炎は怒りの象徴。

「金で全て取り戻す」——だが、心底では、失った温もりを求めていた。 ゴング。

剛は即座に炎を纏い、**「ファイアバースト!」で火球を連射。

蓮は身を翻し、地面を蹴って間合いを詰める。

剛の拳をかわし、肘を顎に叩き込み、膝を腹に沈める。

剛はよろめくが、「燃えろよ!」**と叫び、炎の剣を振り上げる。

蓮は距離を取り、剛の攻撃パターンを読む。

三度目の突進で、蓮の掌底が剛の胸を捉え、壁まで吹き飛ばす。 剛:「くそっ……まだだ!」

合体——炎の剣が体を覆い、「インフェルノスラッシュ!」

巨大な炎刃が蓮を襲う。

蓮は避けきれず、肩を焦がされ、地面を転がる。

炎の追撃が続き、蓮は防戦一方。 美咲:「蓮、こっちも合体しよう!」 蓮は頷き、美咲の顔を両手で包む。

唇が触れ、

ちゅっ……

舌が深く絡み、息が熱く混じり、体が震え、鼓動が一つに。

想いが芯から湧き、共鳴。 蓮の身体が霧化。

剛の斬撃をすり抜け、背後に回り込む。

「絶影・炎穿(えんせん)!」

拳が炎の中心を貫き、剛をノックアウト。 2回戦 vs 岩肌使い・石田 恵

パートナー幽霊:岩の盾に変わる元母親。 恵は息子を事故で失い、以来「守れなかった」罪悪感に苛まれる。

岩は母の愛の形。

「息子を抱きしめたい」——ただ、それだけ。 恵は両手を広げ、**「ロックガード!」で岩壁を展開。

蓮の拳が岩を砕くが、恵は怯まず「アースハンマー!」で巨大な岩拳を振り下ろす。

蓮は横に跳び、岩の隙を突いて接近。

恵の腹に膝を入れ、肘を肩に落とす。

恵はよろめくが、「マザーシールド!」**で岩を纏い、蓮を押し返す。 恵:「息子のため……!」

合体——岩の鎧。

**「グランドインパクト!」**で地面を割る。

蓮は岩の破片を避けきれず、背中を打つ。 美咲:「今よ!」

ちゅっ……

共鳴で霧化。 互角の応酬——恵のハンマーをすり抜け、蓮の拳が盾を揺らす。

恵が涙目で**「守るよ……!」と岩壁を増強。

蓮は優しくいなし、「絶影・岩砕(がんさい)!」**

拳で鎧を割り、恵を気絶。 3回戦 vs 風使い・風間 翔

パートナー幽霊:風の鞭に変わる元恋人。 翔は恋人を病で失い、風は彼女の残した歌声。

願いは「もう一度、笑顔を見たい」。 翔は風を操り、**「ストームウィップ!」で鞭を振るう。

蓮は風圧を読み、間合いを詰める。

鞭を掴み、翔を引き寄せて拳を腹に。

翔は吹き飛ぶが、「ラブテンペスト!」**で嵐を巻き起こす。

蓮は風に翻弄され、視界を奪われる。 翔:「彼女のため……!」

合体——風の嵐。

**「サイクロンブレード!」**で風刃を連発。

蓮は切り傷を負い、膝をつく。 ちゅっ……

共鳴。 互角——風を幻に変え、蓮の蹴りが翔を掠める。

翔の**「永遠の風!」をかわし、「絶影・風斬(ふうざん)!」**

拳で嵐を切り裂き、気絶。 4回戦 vs 氷使い・氷川 零

パートナー幽霊:氷の槍に変わる元軍人。 零は戦場で部下を失い、氷は凍りついた心。

願いは「支配」で孤独を埋める。 零は**「アイスランス!」で氷槍を連射。

蓮は槍を避け、零に肉薄。

零の腕を掴み、投げ飛ばす。

零は即座に「フロストドミネーション!」**で氷の嵐を起こす。

蓮の足元が凍り、動きが鈍る。 零:「跪け!」

合体——氷の嵐。

**「アブソリュートゼロ!」**で極寒を放つ。

蓮は凍傷を負い、息が白い。 ちゅっ……

共鳴。 互角——氷を幻に、蓮の肘が零を捉える。

零の**「氷帝の裁き!」をすり抜け、「絶影・氷破(ひょうは)!」**

拳で槍を砕き、気絶。 5回戦 vs 毒使い・毒島 腐

パートナー幽霊:毒の霧に変わる元恋敵。 腐は蓮に女を奪われ、毒は腐った嫉妬。

願いは「無敵」で全てを壊す。 腐は**「ポイズンミスト!」で毒霧を撒く。

蓮は息を止め、腐に接近。

腐の腕を捻り、肘を顔に。

腐は「ヴェノムエタニティ!」**で毒を濃くする。

蓮は皮膚が爛れ、膝をつく。 腐:「お前の女、バラバラにしたのは俺だ! 廃工場で、嫉妬でな!」 蓮の目が血走る。

「てめえが……美咲を!」 腐:「ああ、そうだよ。願いで蘇生? 笑わせるな。俺は無敵になる!」

合体——毒の海。

**「腐敗の王!」**で毒液を浴びせる。

蓮は苦悶。 美咲:「蓮、落ち着いて……!」

ちゅっ……

共鳴。 互角——毒を幻に、蓮の肘が腐を捉える。

腐の**「永遠の毒!」を払い、「絶影・毒消(どくしょう)!」**

拳で霧を払い、腐を気絶。 だが——腐が倒れる瞬間、美咲の表情が揺れる。 美咲(小声):「……違う。こいつの声、違う……」 蓮:「どういうことだ、美咲?」 美咲:「殺したのは……この人じゃない。声が違う。もっと……優しい、でも壊れた声だった」 6回戦(決勝) vs 主催者・香月 澪

パートナー幽霊:分解の刃に変わる元俳優。

能力——分解幻影。 澪は仮面を外し、静かに語り始める。 「知ってる? 私も昔、女優だったのよ。あなたの同期で」「どれだけ努力しても、どれだけ魅力的な演技をしても……

 あんたという存在がデカすぎて、何をしても霞んでしまう。

 監督はいつも言ったわ。

 『澪ちゃん、蓮の真似はいい加減にしろ』って」 澪の声が震え、目が歪む。 「でも、私は真似なんてしてないこれっぽっちも真似なんてしてないんだよたとえあんたの真似をして、それで売れたとして、何が嬉しいのよ

 私はただ自分なりの魅力を引き出そうと、必死で努力したのに……

 勝手に真似と判断されて、一女優として見てくれない」 澪の拳が握られ、涙が零れる。 「病んだわ。嫉妬で狂った。

 蓮の隣にいる女——美咲を殺して、

 蓮を私だけのものにしたかった」 美咲の霊体が、静かに頷く。 澪:「あの夜、廃工場で、美咲は抵抗しなかった。

 私の話を全部聞いて、涙を流して……

 『蓮を愛してる。でも、あなたの痛みもわかる』って。

 自分で首を差し出したのよ」 蓮の拳が震える。 美咲(記憶の声):「……ごめんね、蓮。私、殺されるってわかってた。でも、その人の痛みを……受け止めたかった」 澪:「でも、まだ足りない。蓮は私のものよ!」 戦闘開始。

澪は**「ディコンポーズブレード!」で分解斬撃。

蓮は避け、澪に肉薄。

澪の腕を掴み、投げ飛ばす。

澪は即座に「ジェラシーデストラクション!」**で分解の嵐。

蓮の服が裂け、血が滲む。 澪:「まだよ!」

「ディコンポーズフィールド!」——周囲の空間が歪み、物体が分解され始める。

蓮は足場を失い、転倒寸前。 美咲:「蓮、今だ!」

ちゅっ……

共鳴爆発。 絶影の幻——分解をすり抜け、互角の応酬。

蓮の拳が澪の肩を掠め、澪の刃が蓮の脇腹を切り裂く。

血が飛び散るが、蓮は怯まない。 澪:「なぜ……私じゃダメなの!? 蓮の影で生きるのが、そんなに嫌だった!?」

「嫉妬の頂点!」——分解の渦が最大に膨れ上がる。 蓮は渦を真正面から突き進む。

「絶影・幻絶(げんぜつ)!」

拳が澪の腹に沈み、衝撃が分解の核を打ち砕く。 澪が膝をつき、気絶。 「勝利者、神谷蓮。願いを言え」 蓮は息を整え、美咲を見つめる。

美咲は涙を浮かべ、優しく頷く。 蓮:「美咲を蘇らせてくれ」 白い光が会場を包む。

光の粒子が美咲の霊体に集まり、

輪郭が鮮やかになり、

肌に色が戻り、

息が動き、

鼓動が響く。 光が収まった時——

美咲は、生きて立っていた。 美咲:「蓮……」 蓮は駆け寄り、美咲を抱きしめる。

温かさが、確かに伝わる。 蓮:「……おかえり、美咲」 美咲:「ただいま……蓮」 二人の涙が混じり合う。

美咲の指に、蓮の指輪が輝く。 廃工場の外。

朝陽が昇り、二人の影を優しく伸ばす。 美咲:「これからは、ずっと一緒に」 蓮:「ああ……約束だ」 風が優しく吹き抜け、

二人の未来を祝福するように。 美咲は、そこにいた。

永遠に。 [完]


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶影のキス~幽霊彼女と蘇生のバトルロイヤル~ 桐ケ谷アスナ @asdfghjniop

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ