顔の無い男
些阨社
顔の無い男
俺は一人暮らしのしがないフリーターだ。
地元でちょっとばかし悪さが過ぎた。玩具が壊れてしまった。何時もの悪さなら親の力で揉み消していたがそれも難しかったようだ。暫く身を隠せと形だけの養子に出され、その里親が今の両親達だった。あの人達は慈善事業として行き場を失った人間を養子に迎えているらしい。それを利用しようと言うことだ。しかし会うの代理人で実際に会ったことは無い。養子の手続きが終わると俺は一人暮らし用のアパートを充てがわれた。 毎月入金もあり、働かずとも食っていける。実家が太いとは言うが、里親が太いこともあるようだ。
一人暮らしをするに当たって両親達から条件が付いた。
それはトイレ清掃のバイトをすることと、健康管理として体形を維持すること。
働か無くても食っていけるほど金を貰ってはいるが、やはり形だけでも社会で働くと言うことを経験して欲しかったのだろう。健康面を気に掛けていて、歯の総インプラント化だったり人間ドックを受けさせられた。
トイレ清掃のバイトは毎週決められた曜日に指示された担当の現場を周り清掃する。
とある町工場の事務員の女性はいつも喋りかけてくる。
「あら、元気無いじゃない? 若いんだからそんな顔しないの。そうだ最近ね……」
いつものことで少し面倒だが、喋るのは嫌いじゃない。少々無駄話をこなして仕事に入る。作業はなかなか大変な労働だが、金が切れると困るのでまあまあやっている。
家でテレビを観ているとニュースで連続殺人事件が起きていることを知る。市議会議員やら、一般市民やら、職種や年齢、性別はバラバラだが、殺害方法に共通点があり、メッタ刺しにされた後、顔の皮を剥がされている。猟奇殺人犯と言うやつか。当初は二つ隣の町だったが、段々とこちらの町へと近づいているようだった。監視カメラが捉えた犯人の顔が写し出される。画像が悪く見にくいが頬に傷がある男だ。番組の途中、美容整形のテレビCMが流れる。そこではどんな傷も跡形無く消せると声高に謳っている。タイミングの妙だな、等と思いながら今日も仕事に向かう。
仕事の報告は全てスマホで行う。清掃先の指示も、仕事を始めることも、仕事が終わったことも、全てスマホのアプリから報告する。誰とも会うことが無く仕事は完了するのだ。楽で良い。
今日の担当が割り振られている公衆トイレへ向かう。公衆トイレの掃除は大変だ。不特定多数が使用する為に酷い所が多い。適当に時間を潰して切り上げよう。切れかけの蛍光灯がチカチカとチラつく光の下、個室を清掃していく。するとトイレに誰か入って来た。ちっ、入って来んなよ、とは言えず無言ですれ違った瞬間、ドスンとぶつかって来た。おいおい、痛いじゃないか、と思うと同時に腹に激痛が走る。
腹を見ればナイフが深々と刺さっている。
段々と赤く染まっていく。
力が抜け膝から落ちる。
ハッとして顔を見上げるとそこには顔に傷がある男が立っていた……。
傷の男は倒れた清掃員の服からスマホを取り出すと、バイトのアプリを確認し、清掃作業終了のボタンを押す。そうこうしている内に数人の男がやってきて清掃員の死体から服を脱がせ別の服を着させる。その後、死体の身体をナイフでメッタ刺しにし、顔から皮を剥ぎ取っていった。
後日。
テレビでは新たな被害者のニュース。
「昨夜未明、新たな被害者が発見されました……」
とある町工場、事務員の女性社員はいつものように清掃員を迎え入れる。
「暫くぶりねえ。三週間くらい? 顔に火傷したって聞いたけど大丈夫だったの?」
清掃員は不器用に微笑み作業に入る。
「あら、今日は連れないのねえ」
昼頃、事務所のテレビはワイドショーが流れている。
「今月に入ってまた三件の殺人事件が発生しています。今月一人目は公衆トイレ、二人目は……」
「怖いわねえ、うかうか歩いてらんないわあ」
「あんたは狙わないよ。逆に圧し殺されそうだ。はははは!」
「もう社長! それあれよ、あれ。ほら、なんとかハラよ。訴えるわよ」
「あー、怖い怖い」
楽しそうな二人の後ろで流れ続けるテレビ。コメンテーターが喋っている。
「二人目、三人目は身元が判明してますが、一人目がまだ不明なんですよね」
「はい、身元を証明する物が何も無く、特徴らしいもの無く、歯も全てインプラントになっていて歯型からの特定が難しいとのことで……」
そうこうしていると清掃員が帰って行く。
「ちょっと! なんか言って行きなさいよ!」
事務員の女性は清掃員の後を追い、非常識に感じたその行動を咎める。すると清掃員は応える。
「両親達から聞いてないんで……」
そう言うと背を向け去っていく。
「は? ちょっと! ……今の親はどういう教育してんのよ全く。若いからかねえ」
女性は事務所へ帰っていつもの仕事に戻る。
清掃員もいつも通り次の仕事へ向かう。
全ていつも通りに。
顔の無い男 些阨社 @plyfld
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