エメラルドアイズ 渇望する未来

ふしたくと

プロローグ:炎の使い手(タカ)の入隊試験


予言の精度、およそ一99.9パーセント。

数分先の銃弾の軌道から、数年後の国家の命運まで見通す、この世で最も確かな情報源。

――彼女は、未来を売る女。

カナデ・マベルの『エメラルドの瞳』を奪うためなら、王は国家予算を投じ、マフィアは全勢力を賭ける。そして、彼女自身の未来だけは、決して見えない。



ここは、マントス王国の海外拠点にある高級ホテル「ザ・ラグーン」。

タカはこの高級ホテルのカフェで待たされていた。彼の服装と荒っぽい雰囲気は、周囲の客の洗練された装いから浮いていた。

(チッ。ベディの野郎、やけに遅せぇな……)

窓の外では太陽が眩しく、タカは苛立ち、席を立った。そのとき、携帯が鳴る。表示はベディ。


「今どこだ、この海坊主」

電話越しの声が響く。

「タカ!今どこにいる?」

「今ホテルだ。もう席を立つぞ」

瞬間、頭上を通過する鈍い銃声が響いた。


ベディは電話越しで叫ぶ!

「周りを見ろ!1階のロビーだ!」

タカは窓の外、ホテルの正面玄関を見下ろした。

一人の女が、十数人の黒服の男たちに囲まれ、集中砲火を受けている。

女は金色の派手なウィッグを被り、鮮烈な赤いドレスを纏っていた。銃撃を紙一重で避けながら、彼女は躊躇なく2階のバルコニーからロビーの吹き抜けに向かって飛び降りる。

ベディ:「至急、姫を助けてくれ!今、マフィア共に追われている赤いドレスに金髪のカツラを被った女だ!」

タカは舌打ちした。

(あの女か……派手なことしやがる)

彼女は1階に飛び降りてもなお優雅に身を翻し、銃弾の雨を華麗にかわしながら人混みが多いラウンジへと向かう。マフィアたちが追いついた瞬間、女はカツラとドレスの一部を脱ぎ捨て、その場で人混みに紛れた。

「クソッ、どこに消えた!」

「あれだ!」

マフィアの一人が端末の画面を見て叫んだ。画面に映し出されていたのは、鮮やかなエメラルドの瞳を持つ、美しいカナデ・マベルの顔写真。

(なるほど、あの女が。そして、これが俺の入隊試験ってわけか)

2.爆炎のチェイス

カナデは警報が鳴り響くホテルの外へ、さっきまでの派手な装いとは違う、シンプルな黒いパンツスーツ姿で出てきた。

ロビー前に停車した改造バイクの上から、タカは短く指示した。「乗れ!」

「あんたが新人?フケ顔ね」

カナデは軽々とタカの後ろに跨った。「そうだ。早くしろ、舌を噛むぞ」

バイクは爆音を上げて走り出した。後方からは黒塗りのセダンが数台、執拗に追ってくる。銃声が響き、タカのヘルメットの横を弾丸がかすめた。

「くそっ」

「門を曲がったところで、正面からダンプカーが向かってくるわよ。よけて」

カナデの声に、タカは叫ぶ。「前!前!……はぁ?何言ってんだテメェ!」

タカがコーナーを曲がった瞬間、巨大なダンプカーが目前に迫った。

「大丈夫よ。あなたなら勝てる」

「チッ、予言なんて信じねぇが!」

タカはバイクを止めず、炎を拳に強く纏わせ、ダンプカーのフロント部分を直に殴りつけた!

ドッッッ!!

ダンプカーに触れた拳から大爆発が起こり、巨大な車体が勢いで一瞬宙を舞う!

「嘘ッ!?……**すごいね!**なかなかの戦闘力!」カナデが感嘆の声を上げる。

「黙ってろ。マジで舌を噛むぞ」タカは苛立ちを隠さない。

後方の追っ手は、宙を舞うダンプカーに巻き込まれ大爆発。しかし、爆発を逃れたセダンが二台、タカのバイクの両脇に追いつく。窓が開き、再び銃が火を噴く!

タカはバイクから手を離さず、両手から炎の盾を錬成し、銃弾を防ぎ切った。

「ばっ、馬鹿な!炎で弾丸を!?」追っ手の一人が叫ぶ。

「熱いぜ」

タカはそのまま炎の盾を両脇の車に放つ!業火の塊となった炎弾が車を直撃し、二台ともに大爆発を起こして道路脇に吹き飛んだ。

「ねぇ!次は上から爆弾が来るって!」カナデが叫ぶ。

「あん?何もねぇじゃねーか!」

そう言った矢先、上空に戦闘ヘリの姿が見え、爆弾を投下する「ヒュン」という音が聞こえてきた!

「マジかよ!右の通路に避けるぞ!」

「だめ!ここの先、敵がわんさか見える。後ろに旋回して!」カナデは鋭く指示を出す。

タカは彼女の予知を信じ、急ブレーキと急カーブでUターン!直後、右の通路からは武装した敵の集団が雪崩れ込んできた。

「嘘だろ……!?」

「やばいかも。このままだと**囲まれちゃう!**左前方に指さす!それを信じて!」

「くそったれ!お前の予言は最後まで信用できねぇが、この際乗ってやる!」

タカは指示された方向へ走る。上空のヘリは、完璧に逃げ切るバイクに焦りの色を見せ、地上の部隊に指示を出している。

「どうなってやがる。まるで俺たちの動きが全て読まれているみたいじゃねぇか!」

「当然よ。私の眼が働いているんだから。ドローンが数体襲ってくるわ!」

「ドローンなんざ……たくさん相手にしてきた!」

タカは右手を振りかぶり、灼熱の炎をドローン集団にぶち当て、一瞬で溶かし尽くした。

「すごーい!」

「関心してる場合じゃねぇ!次はどこに行けばいいんだ!?」

「そのまま真っ直ぐでいいよ!後ろからはもう来ない。けど、でっかい敵が来るわ」

3.炎 vs 機械の蜘蛛

通信を傍受していたマフィアのボスが叫ぶ。

通信音声:「逃げられるだと!?……我々は失敗した。後は**『兵器』**に任せる」

その言葉と同時に、上空から巨大な蜘蛛のような形状の機械が降下してきた。

「おいおい……あれは何だ?戦車か?」タカが尋ねる。

「違うけど、似たようなものよ。でも、あれは『兵器』じゃない。人よ」

巨体の四足歩行の機械、その内部には強化スーツを纏った兵士が収まっていた。

「目の前に降りてくるぞ。どこへ逃げる」

「逃げなくていいよ。このまま正面で勝負。大丈夫、あなたなら勝てる。私の眼にはそう見えている」

「……俺は占いだの予言だの信じないタイプだ」

「じゃあ何?私の予言を無視して逃げる?」

「いいや。俺はな。昔から俺の感を一番信じているんだ。あんなもん、誰が見ても俺が負けるわけねぇ」

タカはバイクを急停車させ、降り立つ。炎を纏った拳を構え、機械の蜘蛛に殴りかかる!

兵士(機械内):「ほぅ?この体を見ても逃げないか。一か八か向かって来ようとは」

「一か八か?何寝言を言ってやがる。俺はお前を破壊する気満々だぜ!」タカが叫ぶ。

兵士:「やってみろ!!」

炎の拳は、蜘蛛の硬質な前足に受け止められ、タカはそこで立往生する。蜘蛛は口から強力な粘着性の糸を吐き出し、タカは身動きを封じられた。

兵士:「ハハハ!他愛もない!この糸から逃げられた者は誰一人いない。後はもう喰われるだけだ!」

「くそっ、動けねぇ!……おい、助けてくれ!」

タカはカナデに助けを求めるが、彼女は微動だにしない。

蜘蛛は牙を剥き、タカの鼻先まで詰め寄る。

「なーんてな」

ドッッ!!

糸の中で、タカの体から大爆発が起こり、蜘蛛は吹き飛ばされる!煙の中から、糸を焼き切り解放されたタカが現れた。

「凡人には効くかもしれねぇがよ。この俺に効くわけねぇだろ!」

怒りと共に炎の勢いを増し、瞬時に蜘蛛の懐に潜り込む。

兵士:「ま、待て!」

「うらあああああ!!!」

ぼおおおおん!!

炎を纏ったアッパーカットから超高熱の爆発が起こり、蜘蛛型兵器は**粉々に吹き飛んだ!**上空にいたヘリは、その規格外の戦闘力を見て即座に退散していった。

4.入隊と探求

パチパチパチ!

カナデが拍手しながらタカに近づく。

「おい、今近づいたら燃えちまうぞ」

「大丈夫よ。だって、もう力残ってないでしょ?」

彼女の言葉と同時に、タカの体から炎が瞬時に弱まり、鎮火した。

(こいつ……本当に未来がみえるのか?胡散臭いと思っていたが……本物か?)

遠くから、一台の車がやってくる。ベディが車から降り、大柄な手で手を振っている。

「おそーい!」

「悪いわね、ダディ」

カナデがベディに甘えた声を出すと、タカは呆れたように言った。「ダディ!この女狂ってるぞ!」

「あー?姫はそれが通常運転だ。いいボディガードを連れてきてくれたじゃないか」

「バカは一言多いだろうが!」

「なんせ、クラバ戦争を生き抜いた奴だからな」

「え?あの戦争の生存者?数人しか生き残れなかったって聞いてるけど。すごーい!」

カナデの好奇心に、タカは顔を背けた。「やめろ。そんなもん何の勲章でもない」

「ごめんよ。嫌なこと思い出させちゃったね。でも、こんなに素敵なボディガードなら安心ね」

ベディは車に乗り込むよう促す。「よし、島に戻ろうぜ、姫。ここラグーンでの土産話を聞かせてくれよ」

「いーよー」

車に乗り込む前、カナデはタカを見つめた。「そうだ。あなたの過去も聞かせてよ、タカ」

「お前何でもみえるんだろ?なら説明は不要だ」

カナデはエメラルドの瞳を真直ぐに向けた。「いいえ。私は未来が見えても、過去は見れないもの」

タカとカナデの眼が合う。タカは一瞬、心を見透かされたような感覚に陥ったが、すぐにその瞳の奥に、彼の過去の傷と同じくらい深く、物悲しい哀愁が漂っているのを感じた。

(この女はいったい……)

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