処刑回避したい令嬢と魂を取りたい悪魔との死に戻り契約

ful-fil

第1話

「困ったわ、どうしたら良いのかしら」


 真夜中の貴族邸宅。

 明かりが消えていない部屋の中、気品ある令嬢が独り言を呟いていた。

 優美な書き物机の上には思考をまとめるためか、アイデアを書き殴った紙、ペン、インクなどがある。


「駄目ね、打開策が見えてこないわ」


 ハア〜と深い溜め息が出てしまう。

 すると令嬢一人しかいないはずの室内に誰かの声がした。


「幸せが逃げちまうぜ、お嬢さん」

「誰?」


 見ると暗がりに黒っぽい人影が足音もなく歩いてくる。

 まるで宙に浮いているような足取りで。

 明かりの照らす範囲まで来ると、中肉中背・黒髪黒服の男だとわかった。


「暗殺者?」

「チッチッ」


 男はわざとらしく人差し指を左右に振った。


「俺は悩める乙女を救いに来た白馬の騎士みたいなもんさ」

「みたいなもの、という事は、実態は別のものですのね。正体を明かしなさい。場合によっては話を聞かなくもないですわ」

「悪魔だよ」

「取引ですわね。どんと来い」

「やけに話が早いな」

「追い詰められてますもの。婚約者とその浮気相手及び取り巻き一同が私を陥れようとしてますの。ちなみに婚約者はこの国の王子ですわ」

「なかなかヘビーな状況だな」

「学園の大半がやつらの味方ですわ。教員も含めて」

「敵多いな?」

「対する私は自宅の使用人や家族でさえ信頼できない有様」

「どうすればそこまで孤立できんの?」

「話せば長いので割愛しますわ。とにかく溺れる者は藁をも掴む。掴みますわ、この藁を!」

「藁かよ」

「悪魔の力で一発逆転ですわ!」

「大丈夫か、この子」

「疲労が高じてもう何がどうでも良くなってますの。どうせ明日になったら断罪されるんですし。確かな筋から情報を得ましたの。奴ら私に冤罪かぶせて公衆の面前で婚約破棄、仕上げに処刑台へ直行ですってよ。ハ!」

「滅茶苦茶窮地だった」

「用心したって明日には破滅。でしたらルーレットに賭けますわ。チップは私の魂ですわ!」

「覚悟ガン決まりというべきか、ヤケクソというべきか。ギャンブルって必ず負けるんだけどなあ。だがまあ契約取れるならそれで良し。俺から提案するプランはこうだ。今から1年前に時間を巻き戻してやる。それで危機回避できたら対価として魂をもらう」

「回避できずに破滅したらどうなりますの?」

「上手く回避出来るまで何度でも巻き戻してやるよ」


 こうして二人は契約を交わした。



1回目。


「失敗でしたわ。私の方から先に婚約破棄しようと思いましたのに、親の許可が下りず、手をこまねいているうちに時間切れ。あちらから婚約破棄され、処刑されてしまいましたわ」

「次があるさ。それ巻き戻しだ」


2回目。


「また失敗ですわ。浮気相手を排除すればいいと思ったのですが。しぶとく抵抗されて、時間切れになってしまいましたわ」

「次行こう次。巻き戻し」


3回目。


「またまた失敗ですわ。家出して自由に生きようとしたら、連れ戻されて監禁され、何も出来ないまま時間切れですわ」

「あんたやり直しの才能無いんじゃ? 巻き戻し!」


……


n回目。


「素朴な疑問なのですけど、どうして過去に戻る事を巻き戻しって呼ぶのでしょうか? そもそも時間って巻いてあるものですの? 流れるものではないんですの?」

「現実逃避で屁理屈こね始めたよ」

「時を計る道具としては、教会の時計台がありますわよね。あれは針が文字盤の上を回転しているのですわ。でしたら時を戻すのは巻き戻しではなく、回し戻しでは?」

「一理ある、と言えるような、そうでもないような」

「砂時計でしたら、砂は上から下に落ちるのですから、逆の運動と考えれば、上げ戻しですわ」

「こじつけが過ぎる」

「水時計や日時計でも巻き戻しにはなりませんわよね。巻き戻しって一体何を巻いてますの?」

「ビデオテープとかラジオ付きカセットテープレコーダー……ってこの世界にそういう概念は無いか。えーと、巻物、スクロールみたいなもんだよ、羊皮紙とかの」

「羊皮紙……」

「前の方に戻って、中身を書き換えると思えばいいんだよ」

「書き換える……なんとなく見えてきましたわ」


n+1回目。


「やりましたわ! ついに回避成功しましたわ!」

「長かったな……(遠い目)」

「書き換えがヒントになりましたわ。やつらの交わす手紙・伝言・命令書、その他諸々、片っ端から途中でインターセプトして中身を書き換えてやりましたの。最終的には婚約破棄を相手有責に書き換え、処刑対象を浮気相手に書き換えましたわ!」

「なぜそれを最初の1回目でやれなかったのか……」

「慰謝料の小切手にゼロ2つ付け加えてやりましたわ!」

「普通に犯罪だからね?」

「気分爽快! 思い残す事はありませんわ! 魂、お支払いしますわ! 遠慮なく持ってってくださいまし!」

「いいのかなあ、そんなに浮かれちゃって。まあ仕事だからもらうけど」

「ところで素朴な疑問なのですけど、どうしてわざわざ契約して魂を受け取りますの? 強引に奪うほうが楽ではありませんこと?」

「私文書や公文書を強引に書き換えた人がなんか言ってる。まあ説明するとだな、魂って揮発性が高いんだよ。注意深く取り扱わないと、すぐに昇華ならぬ昇天しちまう。持ち主に自主的に差し出してもらうのが一番なんだよ」

「揮発性でしたのね、魂って。はいどうぞ」

「うん、熱くなってる魂なんか油断するとコンマ1秒で」

「あっ」

「あっ」







 とある国の王子が婚約破棄された。

 元婚約者である令嬢は多額の慰謝料を持って姿を消した。

 今も捜索は続いているが、令嬢の行方は定かではない。


<完>

後書きは書かれていません

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