全自動AIニュース
ちびまるフォイ
小汚い報道
知っての通りテレビ局というのは激務の最前線だ。
「おい! お前の番組視聴率0%じゃないか!」
「すみません。最近は動画サイトに人気取られて……」
「言い訳なんか聞きたくないんだよ!
出演してる俳優もキレてたぞ!
あんなクソ番組もう出たくないとまで言ってる!」
「そんな……」
「次コケたらもう局に居場所はないと思え! わかったな!」
「は、はい……」
ひとり残された真っ暗なオフィスで頭を抱えた。
こんなにも追い詰められているのにアイデアも出ない。
「こんな低予算じゃキャストは雇えない。
ロケもできないし、いったいどうすればいいんだ……」
半ば追い出す口実を作るための低予算番組なのだろう。
寝ずに考えて苦し紛れに出したのは「AI報道番組」だった。
ニュースキャスターもAI生成。
報道の内容はすべてAIが探して構成したもの。
番組終了のテロップには人間の名前はひとつもない。
そんな番組がひっそりと誕生した。
「はは。こりゃ楽だ。AIがニュースの内容も作ってくれる。
再現VTRや、インタビューも不要。
自動で番組を回してくれるし低予算で完璧だ」
どうせクビになるのであれば、めちゃくちゃしてやる。
そんな思いでAIニュースは地上波の電波に乗る。
最初こそ誰も見向きもしなかったAIニュース。
けれどしだいに認知され、ある時をピークに爆発的に人気となった。
「おい、〇〇!」
「はい主任!」
「お前のAIニュースすごいぞ! 視聴率50%だ!」
「そんなに!?」
「お前、自分の番組なのに知らなかったのか?」
「はあ、もう勝手に番組を作って、勝手に配信してくれてるので。
私はすでにノータッチなんですよ」
「番組運営費もかからないから、局としても大助かりだ。
まったくとんだ次世代報道のアイデアだよ」
AIニュースの人気により、自分の地位は大きく向上。
地を這うナメクジだったのが局のスーパースターになった。
街を歩いても、電車に乗っても、順番待ちをしていても。
誰もがスマホでAIニュースを見ている。
「ねえ、▲▲動物園でパンダ生まれたんだって」
「カフェの新作スイーツが出てるみたい」
「ふむふむ。今の政治はこんな感じなのか」
「AIニュースはスポーツ分析が細かくていいなぁ」
もう誰もがAIニュースに釘付け。
人間があくせく働いて集める情報に対し、
AIが広大なネットの海から地引き網のごとく回収する大量の情報。
AIはおびたただしい数の情報を集めて、
さらにそれを人間がおよびもつかない速度で加工。
人間が見たい、知りたい情報と映像構成で届けてくれる。
AI生成されたキャスターは誰もが疑いようのない美男美女。
スタイルはグラマラス&スタイリッシュで目の保養にちょうどいい。
人間以上に人間を知り尽くしたAIが、人間に寄り添った報道を続けていた。
「フッ……。時代の転換期を作っちまったぜ……」
これからはAIニュースが主流になるだろう。
そう確信し、AIニュースで報道されていた人気ラーメン店に向かう。
しかしやってきたのはどう見ても……。
「いらっしゃい。なにうどんにしますか?」
「あの、ここってラーメンじゃ……」
「またかい。いい加減にしてくれ。うちはうどん屋だよ。
なぜか来る客来る客、ラーメンを求めてるんだ」
「そんなはずは……」
報道されていたAIニュースの情報源を確認した。
そこには美味しいラーメン店の紹介のあとに、この店のうどんが紹介されていた。
それを同じラーメンだと解釈してしまったのだろう。
「こんな初歩的なミスがありえるのか……!?」
人間だったらうどんとラーメンが違うことくらいすぐわかる。
ラーメンの紹介記事の中にうどんが紛れていても明らかだ。
しかしAIにはわからない。
わからないくせに、正しいかどうかも確かめずに報道されていた。
今みんなが見ているAIニュースのどれだけが真実に沿っているのか。
報道しているAI自身もわかっているのだろう。
情報を確かめるシステムすらないのだから。
「なんか……これってまずいかも……」
そう思っているとAIニュースの最新通知が届く。
『AIニュース:まもなく大地震が発生します。避難してください』
ニュースの内容を確かめてみるが、どう見ても真実っぽい。
AIは賢いので、間違った情報をソースにしても、正しいように報道するのだろう。
「この地震はマジのやつなのか!? 嘘なのか!?」
地震はまてど暮らせど発生しなかった。
この理由について、AIニュースではAI生成された架空の専門家を呼び出し
今回の地震が起きなかった理由をそれとなく話している。
もう何が本当なのかわからない。
慌てて局に戻ってAIニュースシステムのブレインを開いた。
AIにより構築されたブレインは何がどう作用してるかわからない。
自分でもメンテナンスができない。
できることといえば、AIが回収してくる情報を精査するくらい。
「おいこんな遅くまでなにやってる」
「主任!」
「とっくに就業時間は過ぎているぞ。
それにお前はAIニュース担当だろう。
ニュースは自動配信なんだから仕事なんてないだろう」
「実は……AIニュースの落とし穴に気づいたんです。
AIニュースでは情報を精査する工程が抜けてまして……」
「だから?」
「だから、AIが回収してきた情報ソースを確かめて
嘘の情報には"うんこ"と文字を入れておいてるんです」
「なんだそれ……。なんの意味が……」
「もしもAIニュースが嘘を情報ソースとした場合、
そこから生成される報道コンテンツにはうんこが混じります。
それで情報の信頼性が確かめられるんです!」
「もしもクソだらけの報道がされていたら……」
「嘘っぱちだとわかるはずです」
「しかし……しかしだな。AIが集める情報は膨大だ。
それにひとつずつ"うんこ"ラベルづけをするなんて無謀だ」
「でもやるしかないんです!
そうしないと、みんながAIニュースに騙されてしまう!」
主任がオフィスを去っても自分は残った。
ひとつでも多くの情報ソースを確かめ、うんこジャッジを続けた。
やがて日も明けたことろ、次のAIニュースが始まる。
すべてのソースを確かめるまでには至らなかったが、
それでもすでに一部のニュースでは効果が出ていた。
『次のニュースです。
N国の大統領が昨日、本国への核攻撃を発表しました。
うんこ。』
『この週末の天気は晴れときどき曇り。
秋晴れの素敵な日になるでしょう。
うんこ。』
『大人気監督の最新劇場版アニメが、
この夏限定で公開されることがSNSでわかりました。
うんこ。』
何もかもうんこに汚染されていた。
「クソまみれじゃないか!」
AIが回収してきた情報の半分もうんこラベルづけは終わってない。
それでもAIがいかに情報を確かめずに、うんこ垂れ流してるかが明らかにされた。
「効果は確認できた。ここで止まるわけにいかない。
もっと嘘の情報にうんこを紐づけて……あ、あれ……?」
パソコンの前に向き直ったとき、
あっという間に気分が悪くなりそのまま倒れた。
次に目をさましたのは病院だった。
「しゅ、主任。ここは……」
「お前はオフィスで倒れてたんだ。
うわ言のようにうんこうんこ言っていたぞ……」
「そうだった。この世界はAIニュースの嘘にまみれてるんです。
自分がどうにかしないといけないんです!」
「バカをいえ。お前ひとりで何ができるんだ」
「主任……。しかし……」
「お前がひとりオフィスに残って、
嘘情報を必死に調べて"うんこ"をつけたりしてたのは知っていた。
結果としてムリがたたって倒れてしまっただろう?」
「はい……」
「困ったときはひとりで立ち向かわず周りを頼れ。
そんなお前だから、私が特別にこれを用意した」
「こ、この機械は……!?」
「AIファクトチェッカーだ。
お前がこれまで寝ずにやっていた作業のほとんどを
このAIチェッカーなら1分で終わらせてくれる」
「主任……!」
「もうあんなにムリをする必要はない。
お前はひとりじゃないんだ。AIだって力を貸してくれる」
「主任。ありがとうございますっ……!
ひとりで悩んでいたのがバカみたいです。
もうあんなにひとりで働かなくていいんですね……」
「いやそうとは言ってない」
「へ? いやでも、AIチェッカーがいるでしょう?
AIニュース用に集めた情報を、AIチェッカーがチェックする。
これで完璧じゃないですか」
「なにをバカなことを言ってるんだ」
主任はきょとんとした顔で答えた。
「AIファクトチェッカーが正しいかどうか。
それをお前が見極める仕事があるだろう。
さあ、早く起きて、AIチェッカーが正しいか見てこい!」
局のオフィスから明かりが消えることはもう無い。
今日もAIのために、人間はいつまでも労働を続けていた。
全自動AIニュース ちびまるフォイ @firestorage
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