彗星をしまう手

天使猫茶/もぐてぃあす

片付けられた彗星

「ビー玉を片付けてこっちに来なさい」


 ビー玉を弾いて遊んでいるまだ幼い息子に僕はそう声をかけた。だが息子は僕の言葉なんて聞かずにビー玉を転がすのに夢中になっている。

 仕方ないか、と苦笑しながら僕は息子を抱き上げた。

 まだビー玉遊びを続けたいらしい息子はぐずっていた。だが100年に一度地球に接近するという彗星をどうしても息子に見せてやりたかった僕はその声を無視して二人で庭に出る。

 そこではすでに妻が空を見上げていた。

 親子三人で降るような星空を眺めながら僕は妻に尋ねた。


「あとどのくらいだい?」

「もう少しで見えるはずよ」


 きっと今日はどこの家庭でもこうやって空を見上げているんだろうな、そんなことを考えながら空を眺めていたが、しかし、待てど暮らせど彗星は見えてこない。

 一体どうしたことなのだろうか? 妻と二人で首を傾げている内に空が白み始めてしまう。

 欠伸をしながら家の中へと戻った妻は身を屈めると落ちていたビー玉を手に取ると、星座の描かれている子どもの宝物入れへとそれを落とす。


「なくしちゃいけないから、坊やの宝物はしまっておくわよ」


 その言葉を聞きながら僕は未練がましく明るくなり始めている空を見上げていた。



 ちょうど同じ頃。

 人には観測できない、宇宙よりもなお大きな存在が自らの連れ合いにこんなことを言っていた。


「坊やの宝物、しまっておくわよ」


 その手にあたる部分に持たれていたのは、地球では彗星と呼ばれるものだった。

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