森から森へ旅する子猫

昼月キオリ

森から森へ旅する子猫

〜紹介〜


にゃー

キジ白猫。(メス)

森に行くことを夢に見てずっと憧れていた。

この中で一番弱い。


ガルム

体の大きな虎。(オス)

この森の中で一番強い。


マリー

カラカル(オス)

明るく元気で世話好き。この中では四番目に強い。


ビネガー

ドーベルマン(オス)

クールで毒舌。この中では二番目に強い。


タイム

鷹(オス)

普段は無口。この中では三番目に強い。






産まれてすぐに母猫に捨てられ、人間に拾われた子猫だったが

人間が放つ環境音、匂いが嫌過ぎて脱走する。



家の人が寝ている間にたまたま空いていた窓の隙間からそっと外へ出た。

拾われてから二月後の出来事だった。



車の音も工事の音もドアを開けたり閉めたりする音も嫌にゃ。

香水も油の匂いも嫌なのにゃ。



一度も行ったことのない森を夢の中で沢山沢山見た。



いいにゃー、こんな広い草原に行きたいにゃ。

そしたら蛇やクマに食べられたっていいにゃ。



自然の中で死ねるならきっと私は幸せにゃ。

まだ見ぬ自然の世界に憧れるのは

それはきっと動物本能なのにゃね。



にゃーが歩き続けてなんとか近くの森にたどり着いた。

ようやくたどり着いた時には体がボロボロになっていた。


ずっと夢にまで見ていた世界がそこには広がっていた。

にゃーはこてんっと転がった。


広い原っぱの上。

さああっと心地良い風が吹く。



これでいいのにゃ。風が気持ちいいのにゃ。

あとは煮るなり焼くなり好きにすればいいにゃ。



ガルム「おい」



その時だった。

自分よりも何倍も体の大きな虎に声を掛けられた。



にゃー「にゃ!?にゃにゃにゃ、煮るなり焼くなり好きにしてにゃ!」


ガルム「何を言ってる?そんな場所にいたら死んじまうだろうが、早くこっちに来い」



子猫はこの虎の仲間と一緒に食べられるんだと思った。



しかし・・・。



ガルム「ほら、食え、遠慮はいらん」



目の前に魚やら肉やら色々な食べ物を出された。



そうにゃ、きっとにゃーを肥やして食べる気なのにゃ。



にゃー「ぐぅ〜」


ガルム「どうした、食べないと死ぬぞ」



いいにゃ。

どっちみち死ぬんにゃから食べておくにゃ。



子猫はバクバク食べ始めた。

その様子を見たガルムは満足気にニヤッと笑うと近くの木の下に座った。



ふにゃあ・・・食べたら眠くなってきたにゃ。でも、寝たら食べられてしまうにゃ。



ガルム「眠くなったら好きに寝ろ、俺がいるから安心して眠るといい」


にゃー「あ、ありがとうにゃ・・・でも、何でそんなに優しくしてくれるのにゃ?」


ガルム「深い理由はない、ただなんとなく助けた、それだけだ」


にゃー「そうにゃか・・・」


ガルム「お前、名前は?」


にゃー「にゃーにゃ」


ガルム「にゃーだな、俺はガルムだ」



そう言ってガルムは目を瞑ってしまった。

すぐに寝息が聞こえてきてにゃーもつられて眠る。





しばらくしてガルムが起きるとにゃーもちょうど目を覚ました。



ガルム「少し散歩するか、まだ体力が無さそうだから背中に乗れ」



にゃーがよじ登ろうとするのを手で押して助ける。



にゃー「凄いいい眺めにゃ!」


ガルム「もっと眺めのいい場所を見せてやる」


にゃー「いい場所ってなんにゃ?」


ガルム「このまま運んでやるから少し待て」




しばらく歩いていくと崖が見えた。


にゃーがガルムの背中にしがみつく。


ガルム「安心しろ、俺の上にいれば落ちない」


にゃー「わ、分かったにゃ」


ガルム「あと、目を開けて見てみろ」



にゃーはガルムにそう言われて薄らと目を開けた。



そこには周りが木に覆われている高い崖から滝が下に向かって勢いよく流れていく様子が見えた。

そんな滝がいくつも見える。

周りは全て山と森に囲まれているのだ。



にゃー「わぁ!!凄いにゃ!こんな綺麗な場所初めてにゃ!」


ガルム「フッ、そうか」



にゃーは景色を見た後、ガルムの体からゆっくりゆっくり降りる。



ガルム「?どうした」



そしてガルムの前にこてんと横になった。



にゃー「にゃーは満足にゃ、

ずっと夢見てた森に来れて、美味しいご飯を食べて、

こーんな綺麗な景色も見れたにゃ、

だからもう食べていーにゃよ」


ガルム「いや、何か勘違いしてないか?

俺は最初からにゃーを食べる気はないぞ」


にゃー「え?」


ガルム「そもそも、ほとんど骨と皮しかないそんなちっぽけな体を食べても栄養にはならない」


にゃー「ガ〜ン・・・そ、それは確かにそうにゃね・・・」


ガルム「にゃーは俺を食べれない、俺もにゃーを食べない」


にゃー「ガルム?」


ガルム「だから、今はご飯を食べて散歩をして体力をもう少し付けるんだ、

そして元気になったら一緒に旅をしよう」



旅?旅って言ったのかにゃ?

確かに森の中は広いにゃから旅にはもってこいだと思うにゃけど・・・。



ガルム「旅は嫌か?」



にゃーは体を左右に振った。



にゃー「行きたいにゃ!したいにゃ!」


ガルム「はは、なら良かった、他にも仲間がいるんだ、時期に来るよ」


にゃー「ガルムは仲間がいるのかにゃ?

やっぱり強いと仲間ができるのにゃね」


ガルム「いや、強くなくたって仲間はできる」


にゃー「ほんとかにゃ?」


ガルム「だって、俺はもうにゃーの仲間だからな」


にゃー「にゃ・・・」


ガルム「おい、何故鳴く!?」



その時、草むらをザッザッと歩く音が聞こえてきた。



マリー「あー、ガルムが可愛いコちゃん泣かせてる〜」

ビネガー「顔が怖いんですからもっとニコニコすれば良いんですよ」

タイム「まぁ、顔が怖いのはいつものことだけどね」



ガルム「うるさいぞお前達」


にゃー「にゃ!?さっき言ってた仲間にゃ?」


ガルム「ああ、こっちはにゃーだ」


にゃー「にゃーにゃ、よろしくにゃ」



マリー「僕はマリーって言うんだ、よろしくね」

ビネガー「俺はビネガーです、それにしても小さいですねぇ」

タイム「俺はタイムだよ」

マリー「弱ってるみたいだけどいきなり連れ回して大丈夫なのかい?」



ガルム「いや、もちろんすぐにじゃない、

しばらくご飯を食べたり散歩したり体力を付けて旅はそれからだ」


マリー「なるー、それならいいんじゃない?」


にゃー「あの・・・ごめんなさいなのにゃ、

にゃーが小さくて弱いから皆んなが旅が始められないのにゃ・・・」



にゃーが申し訳なさそうに謝る。



ガルム「いや、それは分かった上で俺が仲間にしたんだ、にゃーは何も気に病むことはない」


マリー「そーそー、ガルムのこういうとこは今に始まったことじゃないのさ、

じゃなきゃこーんな訳の分からないチームなんて作らないよねぇ」



確かに虎ににゃーにドーベルマンにカラカルに鷹・・・す、凄い組み合わせなのにゃ・・・。



ビネガー「本当、最初に旅をしないかと誘われた時は」


「は?」


ビネガー「ってなりましたね」


マリー「僕の時もびっくりしたよ、てっきり食べられると思っていたら旅をしないかって言ってきてさ、

しかも、後ろにビネガーがいて、うひゃうひゃ」


タイム「俺の時もいきなりだった、

足怪我して飛べなくなってた時にガルムに見つかって、

一思いに食べてくんないかなぁ、痛いのやだなぁって考えてたら旅をしないかって言ってきたんだ」


にゃー「す、凄いのにゃね・・・タイムは足は良くなったのかにゃ?」

タイム「うん、もうすっかり」

にゃー「良かったにゃあ」

タイム「ありがと」



にゃーがそう言うとほわわ〜と空気が柔らかくなる。



ビネガー「ゆっくりいけばいいんですよ、

旅など急ぎの用事ではいのですから」


にゃー「ありがとにゃ、タイムもビネガーも優しいにゃね」


ビネガー「んん!いえ、どうかお気になさらず」



ビネガーは照れ隠しに咳払いをした。



マリー「ガルム、あんたでかしたわね」

ガルム「?何の話だ」

マリー「このチーム、むさくるしい男ばっかだったじゃないか」

ガルム「失敬な」


マリー「可愛いコちゃんが来てくれて良かったじゃないか」

ガルム「可愛いコちゃん?・・・

なんかよく分からんが打ち解けたみたいで良かったよ」

マリー「もー、素直じゃないんだから♪」





それから一ヶ月。

にゃーはすっかり体の調子も良くなり、

時折、休憩を挟んだりガルムの背中に乗ったりするなど工夫をすれば

ある程度の距離ならば自力で歩けるようになった。



森から森へ。

ガルム、にゃー、ビネガー、マリー、タイムの長い旅がついに始まった。

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森から森へ旅する子猫 昼月キオリ @bluepiece221b

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