帰って来なかった母ちゃん

 冬のある日、母ちゃんは海から帰ってこなかった。


 でも僕はいつか母ちゃんが帰って来ると信じて毎日を過ごしていた。


 母ちゃんが帰ってこなくなってから、父ちゃんは毎日たくさん酒を飲むようになった。婆ちゃんはいつもと変わらなかったがブツブツ独り言が増えた。


 それから正月が来た。家族で初詣でにも行かなかった。


 その夜僕は婆ちゃんに母ちゃんはいつ帰って来るのかと訊いた。


 婆ちゃんは僕を港へ連れて行った。


 痛いほど冷たい夜だった。


 心が千切れるほど痛くなってきた。


 指の霜焼けがじんじんする。


 「母ちゃんは星へ帰った。」


 婆ちゃんはそう言うと、「家へ帰ろうか」と言った。


 僕はもう母ちゃんと会えないのだなと悟った。

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海、生命が産まれて帰るところ あ〜ちゃん @mitsugashiwa

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