第6話 In my memory
「真実は私の最後の記憶に追体験すると明らかになります」
そう伝えると
非常灯の白光が
厳重に管理された小さなガラスの容器からデータが解放された瞬間、展示ホールは突如として深い霧に包み込まれた。視界を奪う白い
———耳をつんざくようなブレーキ音。タイヤが焼ける焦げ臭い匂い。夕陽に赤く染まり始めた交差点。
気づけば視界は彼女のもの。
車道の向こうから制御を失った一台の車が蛇行しながらこちらへ突っ込んでくる。その迫りくる光景を悠里自身の視点でただ見つめるしかなかった。
その時、誰かが猛烈な勢いでこちらに駆け寄ってくる。
――
白髪の混じりはじめた髪、穏やかな顔立ち。その初老の彼が、
「生きてくれ!!!」
その叫びが記憶の奥で響いた瞬間、
次の瞬間――未来の
鈍い衝撃音。骨の砕ける嫌な感触。アスファルトに叩きつけられ、血の匂いが辺りの空気を満たした。その生々しい感覚が記憶越しに
「動け!!!」と未来の自分に向けて。
しかし声は出ない。この記憶には干渉できないと知っているからだ。
悠里の視界は涙で滲み、画像が激しく揺れる。涙が画面を乱すように、映像はトラッキング現象を起こすと記憶はそこで途切れた。
———そう。
自分が彼女の記憶に追体験を繰り返したことで彼女を愛し、時間のルールを破ってまで命を救ったことを。
そして
夜の
◇🔷◇
しばらくして、ふと意識が戻った――そう感じた。だが
記憶標本館に演色性の高い照明が静かに点ると、
【 展示標本 №525323:時任璃空 】
呼吸もない。声もない。体の感覚さえない。あるのは、硝子の容器の中に閉じ込められた“意識”だけ。
そんな
「
それは、年老いた
未来の
「あなたが私を救ってくれたから、私は今日まで生きて来られたのよ」
彼女の頬を伝い落ちる涙を、璃空は見守ることしかできない。
失われた命と、救われた命。
その狭間には『命の重さ』だけが、二人を結び続ける。
時任璃空は久遠悠里の記憶の中で。
久遠悠里は時任璃空の記憶の中で。
この場所を介して、きっと永遠に生き続けるのだろう。
静寂の中、記憶標本館は今日もゆっくりと開館の時を迎えようとしていた。
[ 完 ]
記憶標本館の異常記録~故人の記憶に映るのは僕!?~ あさき いろは @iroha-24
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