速報
増田朋美
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その日は、秋を通り越して一気に冬がやってきてしまったような大変寒い日で、みんなそろそろ、防寒用品が必要だねと口に出して言っていた。そんな寒い日では、あったかいラーメンでも食べたいねと言っていた。
その日、杉ちゃんと、ジョチさんが、連休明けでゴミが溜まったねなんていいながら、ゴミ捨て場にゴミを捨てに行って見たところ、
「あれれ、子供がゴミ捨て場で何をやってるんだ?」
と、杉ちゃんがでかい声で言った。ジョチさんがその方を見ると、小さな男の子が、ゴミ捨て場で一生懸命なにか探していた。
「何を探しているんでしょうね?」
ジョチさんがそう言うと、5歳くらいの年齢の小さな男の子が、ゴミ捨て場でなにかを嘱望しているのかのように、一生懸命ゴミを漁っている。
「ちょっと待て!」
杉ちゃんがでかい声でそう言うと、小さな男の子はすぐに逃げようとしたが、石に足をとられて転んでしまったので、すぐにジョチさんも杉ちゃんも追いついてしまった。
「ほら捕まえた。お前さん、ゴミ捨て場を漁って何やってるんだ。なにか、大事なものを捨てられたのかい?親にでも?」
杉ちゃんがそう言うと、
「食べるものを探してました。」
と、小さな男の子は答えた。
「まず初めに、ここでは、話しにくいので、どこかで食べ物を食べさせる場所へいかせましょうか。」
ジョチさんはそういった。
「このあたりだと、ぱくさんのラーメン屋が近いですかね。それにしても、こんな寒いのに、半袖に半ズボンなんて、ちょっと冷えすぎやしませんか?」
確かに、小さな男の子は、半袖のTシャツに、ボロボロの半ズボンをはいていて、靴下もはいておらず、裸足だった。
「確か、この近所に、古着屋があったよな?ほら、ちゃくちゃくとか言う服が100円とかで売ってる店があっただろ?」
杉ちゃんがそう言うと、
「ええ。歩いていけます。その前に、ご飯を食べさせたほうが良さそうですね。ゴミ捨て場で食べ物を探すなんて、発展途上国でなければしませんから。」
と、ジョチさんは言って、小さな男の子を連れて道路を歩き始めた。怖がっている小さな男の子に、
「安心しなさいや。僕も、ジョチさんも、悪いようにはしないから。」
と、杉ちゃんは、そう言ってあげた。しばらく歩いて、ぱくちゃんこと、鈴木イシュメイルさんがやっているラーメン屋、イシュメイルラーメンに到着した。ジョチさんは、店主のぱくちゃんに事情を説明して、ラーメンを作って上げて欲しいと頼んだ。ぱくちゃんは、三人を、ラーメン屋のテーブル席に座らせて、しばらく待っているように言った。数分待って、小さな男の子の前にラーメンが差し出されると、
「ラーメン大好き!」
と言って小さな男の子は、ラーメンをものすごい勢いで食べるのであった。うまいとか、美味しいとかそんな感想も漏らすことなくものすごい勢いで食べるのであった。
「それではですけど、あなたのお名前は?」
ジョチさんがそうきくと、小さな男の子は、
「金本正男です。」
とちゃんと自分の名前を名乗った。
「じゃあ、どこから来たの?」
杉ちゃんが聞くと、
「わかんない。」
と答える。
「まあ子供さんだからしょうがないか。じゃあ、どこに住んていたのか教えてくれるか?例えば、家はどんな感じだったかな?アパートとか、マンションとか、住んでるところの特徴を教えてくれ。」
杉ちゃんがでかい声で言った。
「家は、アパートで、部屋が一つあって、僕が起きたとき、部屋のドアは鍵が閉まっていました。窓の鍵もしまっていましたが、鍵を塞いでいたガムテープが雨で剥がれていたのでそれを剥がして鍵を開けて、そして外へ出た。」
小さな男の子はそういった。
「学校は行ってる?」
と、杉ちゃんが再度聞くと、
「行ってない。行っても面白くないし、先生も他のひともみんな僕のことを貧乏たれと行って笑うから行きたくない。」
金本正男くんは答えた。
「そうですか。じゃあ、家族構成はどんな感じですか?」
ジョチさんが言うと正男くんはなんのことを聞いているのかわからない顔をしたので、
「正男くんは、誰と暮らしてるの?」
杉ちゃんが聞いた。
「ママと二人暮らし。」
と正男くんは答える。
「ママは何をしているのかな?仕事は何をしているの?まあ、お前さんの事を放置してるんじゃろくな仕事してないと思うけど。どっかのホステスとか、そういうのかな?」
杉ちゃんが聞くと、
「わかんない。夜遅くまで働いてる。最近はずっと帰ってこないんだ。」
と正男くんは言った。
「そうなんですか。ちょっとお体を拝見させてもらってもよろしいですか?」
ジョチさんはそう言って、正男くんのTシャツをめくった。そして、肩のあたりにあるやけどの跡を指さして、
「これは誰から受けた傷ですか?ころんだとか、そういうことでは説明する理由になりませんね?」
と正男くんに聞いた。
「もう理事長さんさ、取り調べをするような言い方をしちゃだめだよ。きっとすごく傷ついているし、子供は親が好きだから、親のことをヴィランズ扱いすることはないでしょ。」
と、デザートのプリンを持ってきてくれたぱくちゃんが、そういったため、ジョチさんはそうですねと言い直した。
「まずはじめにですね。最近、虐待事件というものは流行っていますから、できるだけ早く犯人を警察に出さなければなりませんね。それに、あなたが言う様に、部屋のドアや、窓の鍵を閉めたままにして外出してしまうというのは、多分明確な殺意があったんだと思います。おそらく、食事をさせないで、殺害するつもりだったのでしょう。しかし、幸か不幸か、窓のガムテープが雨で剥がれたということで、あなたは逃げることができたというわけです。せめてお母様が外出した日付がわかると、犯人逮捕につながると思うのですけどね。」
「ジョチさん、お母様のことを、犯人扱いしてはだめだよ。正男くんのお母さんは、一人しかいないんだぞ。」
杉ちゃんが、でかい声で言った。
「確かにそうかも知れませんが、子供を殺害してしまうというのは、母親としてはまずいのではありませんか。それで、法律で裁いてもらって、ちゃんと罪を償って貰わないと。それをさせるために、早く逮捕してもらわないと困るんですよ。お母様が、どこへ行ったのか口にされていませんでしたか?」
ジョチさんはもう一度正男くんに言った。
「わかりません。だって、僕が寝ている間に出ていったから。」
と正男くんは正直に答える。
「そうですか。じゃあお母様の交流関係で、誰か有力な人物はいますか?」
ジョチさんがそうきくと、正男くんは
「わからない。」
と答えた。
「お前さん、片一方の親だけで生まれてきたわけじゃないよなあ。お父ちゃんとお母ちゃんが揃わないと、子供はできないからな。それでは、お父ちゃんが居るはずだよね。お父ちゃんはどこにいったのかなあ?」
と、杉ちゃんが聞いた。
「もしかしたら、もう亡くなっているのではないでしょうね?」
ジョチさんが聞くと、
「ううん、どこかで生きてると思う。ママが二度と帰ってこないでって言ったんだ。だから出ていったんだ。」
と正男くんは答えた。
「それでは、いつ出ていったのかわかりませんか?」
ジョチさんが聞くと、
「わかんない。」
と正男くんは言った。
「じゃあ、正男くんが通っている小学校の名前は?そこから当たっていけば、お母さんの名前がわかるかもしれない。」
杉ちゃんがでかい声でそう言うと、
「南小学校。」
と正男くんは小さな声で答える。ジョチさんは、すぐに持っていた巾着袋から手帳を出して、南小学校、金本正男と書き込んだ。
「じゃあ、お前さんの今晩泊まる場所はないってことか。じゃあしょうがない。製鉄所で部屋を貸してあげるから、そこで寝泊まりしな。そのうち警察が話をしてくると思うけど、思ってること正直に答えるんだぞ。早く、犯人が捕まるといいね。」
と、杉ちゃんが言った。ぱくちゃんがそれよりも彼の服を買ってあげたほうが良いと言ったので、杉ちゃんたちは、ぱくちゃんの店にお金を払うと、すぐに古着屋に行って子供用の服を買ってやり、正男くんに着せてあげた。そして、とりあえず製鉄所へ戻り、ジョチさんが、警察に子供が虐待をされていると電話して通報した。被害者は南小学校に通っている金本正男という少年であることも伝えた。
それから、暫くの間、正男くんは、製鉄所で過ごした。水穂さんの肩をもんだり、簡単な掃除を手伝ったり、正男くんはできることを一生懸命やってくれた。しかし、正男くんの母親は、いつまで経っても発見されなかった。
杉ちゃんたちが、お昼食を食べていたときのことであった。いきなり、製鉄所の玄関の引き戸がガラッと開いた。そして若い男女の声で、
「あの、すみません。こちらに正男という子供がいませんでしょうか?」
「正男くんは、ここで保護されているって聞いたものですから。」
と言っている声が聞こえてきた。
「はいはいここにいますだよ。だけど、お前さん誰じゃい?」
杉ちゃんがそれに応じて、玄関の引き戸をガラッと開けると、一組の男女が、そこに経っていた。
「あの、星野哲夫と申します。正男の父親です。こちらは、妻の瑠美です。」
と男性は紹介した。
「でも、正男くんの苗字は金本だぜ?」
と、杉ちゃんが言うと、
「それは、女の姓で、その女が、自分のものにしたいために、金本と名乗っていました。」
と、星野さんは答えた。
「もし、正男が、うちの子供になっていたら、星野正男と名乗るべきだったんです。」
「はあ!そうなの?それでその瑠美さんという方は、」
杉ちゃんはでかい声でそう言うと、
「はい。母親になってくれるということで、それで見合いをして結婚しました。やはり、金本恵美のもとにいさせては、正男が危なかったというのは本当だったんですね。保護してくださりありがとうございました。ありがとうございます。」
と、星野哲夫さんは答えた。
「そういうことか。そういうことなら、正男くんは、今水穂さんと一緒です。瑠美さんという方と会うのは初めてかな?とりあえず中に入れ。」
杉ちゃんに言われて、星野哲夫さんと瑠美さんは、製鉄所の中へ入った。正男くんは水穂さんと一緒に、ピアノを連弾して楽しんでいた。
「あ、パパ!」
と正男くんは、父親の存在に気がついたらしい。
「パパ、このおばちゃん誰?」
正男くんは、そう瑠美さんの顔をみていった。
「はじめまして、正男くん。星野瑠美です。正男くんのことをこれから世話をさせていただきます。」
と瑠美さんは言った。
「星野瑠美さんということは、」
「そうよ。正男くん。新しいお母さんになるのよ。」
瑠美さんはそう正男くんのといかけに答えた。
「あたしが、ちゃんと、正男くんのことは見てあげるから。勉強も一緒にできるし、ピアノだって習いたいっていうんだったら習わせてあげるわ。これからは、正男くんが本当にやりたいことをやっていこうね。」
「そうなんだね。」
と、正男くんは小さな声で答えた。
「何だ良いじゃないか。そういうことなら、あたらしいお母ちゃんの誘いに乗っちまえ。そのほうが、お前さんだって幸せになれるよ。」
と、杉ちゃんがでかい声でそう答えると、
「そうなんだね。でも、本当にそのとおりになれるかな?」
と、正男くんは言った。
「あの瑠美さんと言いましたね。お仕事は何を?」
水穂さんが言うと、
「はい、旅行会社で働いています。もちろん、小学校は、正男くんにあった学校へ通わせますし、学童保育だって通わせますから。」
と瑠美さんは言った。
「そうなんですね。それでは、経済的には安定しているし、正男くんにとっては申し分のない環境で暮らせますね。お父さんもいらっしゃることだし、新しいお母さんがいてくれれば、もう寂しくもないですね。」
水穂さんは、そう納得したように言った。
「でも、ママは、僕のこと。」
正男くんはそういいかけたがそこから先が言えなくなってしまったようだ。
「しかし、これで虐待の犯人の名前がわかりました。金本恵美。すぐに、警察へ連絡します。」
ジョチさんはすぐに、富士警察署へ電話をかけ始めた。警察も、すぐに捜査しますと言ってくれた。
「だけど、正男くんの体には、すごいたくさんやけどの跡がありましたね。それは、故意に熱いものを押し付けられなければできない傷なんです。そういうことなら、正男くんは、日常的に虐待を受けていたと考えられます。そうなったら正男くんの命が危ないということも考えられますよ。それでは、星野さんと瑠美さんのもとで暮らしたほうが余程安全ということになります。」
受話器をおいたジョチさんは、すぐそういった。
「そうですか。やっぱり恵美はそうしてしまいますか。彼女は、感情の処理がうまくできないことは、結婚したときから知っていました。それで、正男が生まれて、正男にもそのような態度で接することが多かったものですから、それでは正男のためにならないと思って離婚したんです。」
星野さんはそう説明した。
「そうですか。それで今度は、ちゃんとしてくれる瑠美さんという女性を見つけてくれたんですか。」
水穂さんが心配そうに言った。
「ええ。瑠美であれば、仕事もしてるし、きちんと、他人とコミュニケーションも取れます。そうすれば、正男と感情をぶつけることなく話すこともできるでしょう。そうすれば、正男にとって良い母親に、今度こそ出会えるんだと言うことになります。」
星野さんがそういうのであった。
「そうですか。でも、母親というのは形式時にこうだとか、書類上でああだとか、そういうふうに決まるものでは、ありませんよね。」
と、水穂さんは言った。
「そうかも知れませんが、安全ということを考えてください。第一、あの女は、きちんと話をすることだってできないんですよ。自分がどう考えて、どう感じてっていうことを、言葉で説明できないんです。そのような状態で、誰が育児ができますか。だったら別の人間がやってもいいのではありませんか?」
と、星野さんがそういった。
「確かに理論上はそうなのかもしれませんが、、、。」
水穂さんは複雑な気持ちの顔をする。
「何を言ってら。申し分のない申し出だって、水穂さんが一番わかっているじゃないか。だって、お前さんの家族はお前さんのこと捨てて、蒸発したんでしょ。それなら、他人に育ててもらっても、心配いらないって伝えるべきではないの?それが大人ってもんだろ?」
杉ちゃんにそう言われて、水穂さんは、
「そうかも知れないですけどね。子供は、そういうものが通用しないこともあるんですよ。いくら、言葉で自分の事を説明できない人間であろうと、どんなにひどい人間であろうと、母は母なんです。」
と言った。
「それは昔の話。今は時代が違うよ。今の奴らは、平気で育児放棄だってしてしまうようなやつがどんどん増えちまって、それでは、本当に育児ができそうなやつが、貴重になっている時代だろ?そんな時に、こうして名乗り出てくれるなんて、すごいもんよ。それでは、瑠美さんの事を評価してやるべきでは?」
杉ちゃんがそう言うと、ジョチさんのスマートフォンがなった。ジョチさんは、誰からの電話なのかを確認すると、一度部屋を出て縁側に行き、
「はい。曾我でございます。」
と、電話に出始めた。
「ああそうですか。わかりました。どうしてそんな遠くへ行っていたんでしょうね。それでは本当に、正男くんを育てようという気持ちが無かったですかね。」
そう言って居るのを聞いて、星野さんと瑠美さんはああやっぱりという顔をした。
「金本恵美さんが捕まりました。なんでも、交際相手といっしょに、鹿児島まで行っていたらしい。事件の動機などはこれからわかっていくと思いますが、まあ、ある程度予測は着きますね。」
「そうですか。それならやはり、僕達の判断は間違っていなかったんですね。まあ、一緒に暮らしていたときもわかりますけどね。とにかく、自分の気持ちを処理するのに他人の助けや、薬の助けが必要な女性でしたから、子供を育てるのもできなくなっていったんだろうな。そういうことなら、もうこの女性には無理なんだということをちゃんと法で示してくれたということになりますな。」
星野さんが、そう言ったので杉ちゃんもジョチさんも、そうですねといった。
「正男くんのことは、あたしが対応します。人の子と言われる前に、それ以上に自分の子だと思って対応していきます。」
瑠美さんは選手宣誓するひとみたいに、そう言ってくれたのであるが、正男くんはがっくりと落ち込んでしまったようだ。
「ママは、本当に僕のこと嫌いだったのかな?」
「そういうことではないですか。だって、法律に違反するんですから、きっとあなたのことを愛していることはなかったんでしょうね。」
ジョチさんは、そういったのであるが、正男くんは今にも泣きそうであった。
「大丈夫よ、正男くん。あたしがちゃんとするって言ったよね。大丈夫。欲しいものは何でも買えるし、やりたいことだってやらせてあげられるように、あたし頑張るから。」
瑠美さんが優しく正男くんに言ったのであるが、正男くんは、涙をこぼしてしまった。瑠美さんは、正男くんの顔をそっとハンカチで吹いてくれたのであるが、
「今だけでも泣かせてやってくれませんか?」
と水穂さんがそういった。
「多分、彼が泣けるのも今日一日だと思いますから。きっと正男くんは、星野さんと瑠美さんのところに行きますよ。それが成長するっていうことですからね。」
「そうですか。」
と、星野さんは言った。しばらく沈黙が続いたが、またジョチさんのスマートフォンが音を立ててなった。ニュースアプリから通知が来たのだ。なんでも殺人未遂容疑で母親逮捕というニュースがもう速報で流れてきてしまったという。本当に、何でも手早く素早く流れてしまうような世の中ではあるけれど、せめて泣ける時間だけは持たせてやってほしいと水穂さんは呟いた。目まぐるしく変化して、新しいものが次々古くなってしまう世の中である。その中で泣ける時間だけは、変わらないような気がする。
速報 増田朋美 @masubuchi4996
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