第14話 魔石の使い方

「クゼ!戻ってこい!クゼー!!」


 クゼがこちらを振り返りもせずに谷へ走っていく。何を考えてるんだ?囮にでもなるつもりか?


「どうする!」


「……決まってる。追えば全滅だ。魔物があいつに向かってる間に退くぞ」


「本気なの!?」


 リナが睨みつけてくるが……どうしようもない。こいつだって分かってるはずだ。


「本気だ。走れ!」


 俺は先頭で走り出した。


          ◇◆◇◆◇


 谷から村まで、一度も足を止めることは無かった。

 あれほど居た魔物が一匹も出てこないなんておかしい。全てがクゼに向かっていった?そんなことあるか?

 分からん。今はやるべきことをしよう。


「アイツ、死んだかな?」


「さあな」


 リナが強いショックを受けているようだ。仲間がいなくなる経験はこれが初めてだろう。今は仕方ない。……いつか慣れるだろうさ。


「ミリア、リナと戻って休んでくれ。明日もう一仕事あるからな。テオ、村長のところに行こう」


 村長の家を尋ねると、既に俺達の帰還を聞いたのか家の前で待ち構えていた。


「どうでしたかな?領都の応援は呼べますか?」


「あぁ、異常は確認した。谷の周辺は植物が無くなり生物の気配がない。魔族か魔物発生地の特徴に一致する。大量の魔物も発見した。異常発生で間違いない。放っておけば今にも暴発するだろう」


「で、では?」


「すまないが俺達は領都には戻れない。仲間が残っているんだ。明日、準備を整えて再アタックする」


「し、しかしそれは……」


「分かってる。それでも行かなきゃいけないんだ。領都への報告は誰か走らせてくれ」


 ただの協力者なら切り捨てる。だがクゼは、少なくとも今日までは仲間だったんだ。

 死んじまったなら仕方ない、辿り着けない場合も仕方ない。だが、生死が分からないのにこのままってわけには出来ない。それがケジメだ。


「付き合ってもらうぞ、ダン」


「分かってる」


 ミリアとリナは……村の防衛をしてもらおう。最悪の場合、足止めが必要だ。二人の魔法なら距離をとりながら退く時間を稼ぐのに向いているだろう。


 それにしても、クゼの行動は何だったんだ?

 本当に囮になって俺達を助けようとしたってことは流石に無いだろう。あれくらいなら全員で退けたはずだし、アイツの様子は明らかにおかしかった。


(ガルンさん。厄介を押し付けてくれたな……)


          ◇◆◇◆◇


 翌朝。


「黙って行くことないでしょ?」


 早朝からミリアとリナは準備を済ませて、村の出口で待っていた。


「呼びに行ったら空っぽだったからびっくりしたぜ。さっさと行くぞ」


 適当に誤魔化しておくに限る。




 谷に向かう道中、昨日の帰りと同じで魔物の姿は無かった。

 しかし昨日はあんなに調子がよかったのに今日は逆だ。体が重い、気分が滅入ってくる。


「みんな調子はどうだ?」


「なんだか魔力が安定しなくて、体の動きも悪いのよね。リナは?」


「……同じ。サイアク」


 テオも頷いている。全員調子が悪いようだ。どういうことなんだ?

 理由がわからず不気味だが進む足は早い。何事も無く谷に着いた俺達の前に現れたのは、砂地に大きな魔石が転がっている光景だった。


「すごい……やっぱりアイツが倒した魔物は魔石が大きくなってるのよ!」


「うーん、大きいのは確かだがそんなことあるのか?とりあえず拾っていこう、高く売れるだろう。クゼにも分け前をやらないとな」


「……そうね。本当に生きてる気がしてきたわ」


 ミリアの言葉に、背中が冷たくなる気がした。

 クゼ、お前は本当に生きてるのか?あの状態で?もしそうなら、お前の戦い方は治癒に頼ったなんて理由じゃなく、まるで不死の怪物みたいな――


「谷を見に行こう」


「あ、あぁ。そうだな」


 生きていて欲しい。だが見るのが怖い。

 人間なら死んでいるはず。怪物なら生きているかも。嫌な話だな、俺は何を見届けに来たんだろう?


 一歩ずつ谷へ近づいていく。ごくりと唾を飲み、槍を持つ手に自然と力が入った。

 いよいよ谷を覗き込もうとすると、眩しい光が目に入った。


「なんだ?何か光ってるな」


「あ、あれ!あれ全部魔石じゃないの!?」


「魔石ね。それもとんでもなく大きい」


 目を慣らして覗き込むと、そこには一面の魔石が谷に差し込む光を反射していた。何かの理由でここに積もったのか?それとも、まさかこれだけの魔物を?いや、そんな馬鹿な。100や200じゃ効かないぞ。


「見ろ、人がいるぞ」


 テオが指差す先には人間の姿……全身真っ黒で素っ裸だが、たぶんクゼだろう。


「クゼ!クゼー!生きてるのか!?」


 とにかく走った。だが頭の中はぐちゃぐちゃだ。生きていて欲しいのか死んでいて欲しいのか、もうそれすら分からん。ただ知りたかった。


 そして辿り着いたその場で、クゼは呑気に眠っていた。見る限り無傷で。

 そんな事あるか?これじゃ本当に……


「クゼ……」


 俺の心によぎったのは、安堵なんかじゃなかった。


(……ここで殺すべきか?)


「どうだったの――」


「来るな!!」


 今はっきりと確信した。こいつは化け物だ。

 悪いやつだとは思わない。だが脅威じゃないとは限らない。

 悪意なんて無くても腹が減ったから食う、邪魔だから殺す。そんな物はありふれている。

 こいつも同じかもしれない。俺達とは違う存在だ。


「……すまん」


 ここまで何をしに来た?クゼにトドメを刺しに来たのか?そんなわけ無い。俺はクゼを心配して、無理だと分かっていても納得したくて。

 生きていて欲しかったはずなのに。ただ、生かしておくのが怖くなったんだ。

 こいつはきっと敵になる。俺だけの問題じゃない、沢山の人間の為にやらなきゃいけない。……ガルンさんの言っていた通りだった。


 俺は槍を両手に握り。


 確かに呼吸しているクゼの首をめがけて。


 勢いよく振り下ろした。


 骨を砕いて貫通する感触。そのまま横に裂いて首を切り離した。

 人を殺すのは嫌なものだ。それも昨日は仲間だった男、魔物の大氾濫を事前に止めた英雄だ。


「すまん」


 クゼは死んでいたことにした。

 テオと二人で穴を掘り、体を埋める。

 死んでいたと言っても、俺のおかしな動きに思うことはあるだろう。特にテオはクゼの体を見ている。今さっき死んだものと、死んでいたものの違いくらいすぐに分かる。

 だが、テオも何も言わなかった。


 せめて墓標を立ててやりたかったが、クゼの剣は見当たらなかった。

 仕方ない、俺の愛用の槍を突き刺して墓標とした。

 せめてこれくらいはな。


「残念だったね。村にも伝えて弔ってもらおう」


「あぁ、そうだな。村の英雄だ」


「それで、これはどうするの?」


 ミリアが示すのは大量の魔石。上から見た時は分からなかったが、近くで見ると一つ一つがデカい。通常は小指の先程の大きさなのに、ここには拳サイズ以上、中には人の頭ほどの魔石まである。

 たしかに宝の山だ。しかしそれは持ち帰って売ればの話。とても持って帰るなんて無理な量だ。


 しかし、何も売るだけが使い道じゃない。魔石は魔力の塊。本来の使い方をすればいい。


「砕こう。持って帰るのは上で拾った小粒の物だけでいい」


「こ、これを全部?」


「当たり前……だっ!」


 足元に転がっていた魔石を一つ足で砕いてやった。

 割れた魔石から黒い靄が溢れる。それは少しだけ宙を漂った後、俺の体に吸い込まれていく。

 同時に体に力が湧き上がる。ここに来るまで調子が悪かったのに、一気に解消した。いや、そんな程度じゃない。新たな力が吹き出してくる。すごく気分がいい。


 なんだこれは。魔石を割ったことは何度もあるが、まるで別物だ。

 体中に魔力が満ちる……!生まれ変わっていく……!


「すごいぞ!ただの魔石じゃない!お前たちもやれ!たった一つでこれなら……俺達はS級の大英雄になれるぞ!」


 手当たり次第に魔石を叩き割った。ミリアもリナも、テオですら笑いながら叩き割っている。

 俺も笑いが止まらない!これまでの自分とは違う!俺は英雄になったんだ!


 辺りの魔石を全て破壊して全員があつまると、ミリアの肌がツヤツヤになっていた。若返ったみたいにも見えるな。

 10代後半って言っても通るんじゃないか?俺はどうなってるんだろ?リナは元からそんな歳だし、テオはムスッとしてて分からないだけかな。


「アハハハハハ!!クゼ!ありがとう!お前の残してくれた物は俺達が受け継いだ!」


 谷底を踏み砕いて、一息で谷の上まで飛び上がることが出来た。

 どうだ!と振り返ったら、ミリアとリナは魔法でフラフラと危なっかしく浮いてやがる。テオはドスドスと走ってきた。

 これが英雄の力だ。俺達じゃ届かないと諦めていた力。人を超えた力。

 クゼみたいに変な力じゃない。真正面から魔物を、いや、魔族すら倒せる力だ。


「村に報告だけして王都に向かうぞ。小さな街に留まる必要はない」


「報酬はどうするの?」


「魔石を売ればいいだろう。それに王都では桁違いの報酬が手に入るんだ、俺達はS級になるんだぞ」


「S級!」


「この力ならみんなを見返すこともできるよ!」


 俺達の道は明るい。小さなことで悩んでいたのが馬鹿みたいだ。


 村に戻り、問題が解決したことを教えてやった。

 宴会をするとか言いだしたが、こんな村の宴会に興味はない。


 すぐに出発して街道に戻った。馬車の手配は王都行きだ。


(ガルンさんに報告……まぁいいか。ガルンが自分で調べりゃいいだろ。いや、本当は何か気づいていたのかもしれないな。あの野郎……)



 もうクゼのことは思い出さなかった。



          ◇◆◇◆◇



「ぷあーーー!なんで土が被さってんだよ!」


 目が覚めたら土の中。必死にもがいて外に出たと思ったらもう夜だった。


「なんて日だ!」


 なんとなく朝を迎えていた記憶があるんだが、よく思い出せないな。

 すげぇ無双してた……はず。なんか触れる物が片っ端から消えていくような。


「ふん!」と近くの岩を殴った。拳がクッソ痛いだけだった。

 とにかく帰ろう。ダン達には謝らないと。

 なんか、どうしても行かなきゃいけない気分になったんだよな。俺、おかしいのかなぁ?


 考えていても仕方ない、全裸でペタペタと歩いて村に向かった。……こっちであってるよな?

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