覇者の跡を継ぎ、国家の運営に苦悩する王の物語……ではあるのですが、登極からその死まで徹底して自分が及ばぬと姿勢を低くして治世を続けたことは、それはそれで異常ともいえるのではないか。
常にどこか諦観があり、弱腰故の過ちもあり。
しかし多少なりとも救いになったのは晩年、子嚢という同じ偉大な父を持ち、長年苦労を重ねて来た人物が宰相となったことでしょうか。
治世の助けもですが、兄弟だからこそ父に感じていた重圧を共有できる、そんな存在が傍らにいたことは随分と安らかになったでしょう。
綺羅星のような英雄たちを狭間を埋める短編として、深く楽しめました。
春秋という時代は、古代中国史──いや古代世界史の中でも屈指の華だ。
秩序が崩れ、国家と国家、人と人の思想が真っ向からぶつかりあう。
その混沌の只中を、儒家の士たちが縦横無尽に駆け抜け、
“鬼哭子(きこくし)”のような芸術的な弁舌と詭弁が、
国の命運すら左右した時代である。
その唯一無二の美しい混沌を背景に、本作は短編でありながら、
春秋最大の“おいしい部分”──
名君・奸臣・盟・裏切り・徳と力の揺らぎ──
その核心だけをまるで横断するように描き切っている。
史実に忠実でありながら、
乾いた年表ではなく“生きた人物の息づかい”が伝わってくる。
悲観も迷いも、王の孤独も、そのまま物語の温度になって胸へ刺さる。
春秋という時代が好きな人にはもちろん、
歴史小説をこれから読もうとする人にも強く勧めたい。
これは、短編という器に収まり切らない、
春秋という時代そのものの“華の香り”を纏った物語だ。