華やぎと智謀が乱れ咲く春秋――その核心を射抜く歴史譚

春秋という時代は、古代中国史──いや古代世界史の中でも屈指の華だ。
秩序が崩れ、国家と国家、人と人の思想が真っ向からぶつかりあう。
その混沌の只中を、儒家の士たちが縦横無尽に駆け抜け、
“鬼哭子(きこくし)”のような芸術的な弁舌と詭弁が、
国の命運すら左右した時代である。

その唯一無二の美しい混沌を背景に、本作は短編でありながら、
春秋最大の“おいしい部分”──
名君・奸臣・盟・裏切り・徳と力の揺らぎ──
その核心だけをまるで横断するように描き切っている。

史実に忠実でありながら、
乾いた年表ではなく“生きた人物の息づかい”が伝わってくる。
悲観も迷いも、王の孤独も、そのまま物語の温度になって胸へ刺さる。

春秋という時代が好きな人にはもちろん、
歴史小説をこれから読もうとする人にも強く勧めたい。

これは、短編という器に収まり切らない、
春秋という時代そのものの“華の香り”を纏った物語だ。